進路指導かと思ったら、怪し組織への勧誘だった件
「――本題に入る前に……。鱶野君達はグラウベン機関の事をどれだけ知っていますか?」
「継承者絡みの事件を解決する為にある、正義の組織と聞いていますが……」
俺達の進路と、この事にどんな関係があるのだろうか――?
「そうですね。――でもそれは、あくまで手段なのです」
「え?」
継承者絡みの事件を解決するのが、この組織の真の目的ではないという事か。
「じゃぁ、何のために存在する組織なんですか……?」
「――それは、ビジネスです」
「え!?お金儲けって事?」
「正確にはリスクマネジメントと言ったところでしょうか。――ダンジョンがこの世界に出現してから、我が財閥もダンジョン事業を立ち上げてそれなりの成果を出してきました。ですがその障害になり得る存在が現れた。それが継承者。いいえ……、聖女モルガリア……!」
「豊徳院のねーちゃん……」
「って事は、ライブライバー社CEO豊徳院翆怜……!」
つまりこの組織は……。
「そう。グラウベン機関の真の目的は、ライブライバー社をダンジョン事業首位からひきずりおろs……。いえ、間違えました。――聖女モルガリアの企みを打ち砕き、安全にビジネスが出来る平和な世界にすることなのです」
ん?今、本音の様な物が一瞬聞こえたが……。
スルーしておこう。
「――ですので。我々と取引をしませんか?」
「え……?」
取引……?
何やら嫌な予感がしてくる。
「鱶野辰海君。いえ、魔王リベリアル・ルシファード」
「な!?」
冷たい手で心臓をキュッと掴まれた感覚になる。
ここでその名で呼ぶのか――!?
「簡単な事です。鱶野君と春沢さんの進路は責任を持って、我々がフォローします。望むならお互いの両親の御説得もお手伝いしましょう。――その代わり、お二人には私と共に、グラウベン機関の一員として聖女モルガリアと戦って欲しいのです」
「モルガリアと……戦う……!?」
「はあ!?」
やっぱりか――!
でも、これじゃ――。
俺達の進路を人質に、脅迫しているだけじゃないか――!
理事長は、生徒の将来を只の交渉材料としてしか見ていなかった。
「ふざけn……」
次の瞬間。
バコンッと強烈な破壊音が部屋に響いた。
「……!?」
「!?」
「あーあ……」
「……」
「もう我慢がならん、これ以上は血が沸騰しておかしくなりそうだ……。――有栖院。それが貴様のやり方という事でいいんだな……!?」
目の前にある来客にお茶を出したりするテーブルが、帝さんの踵落としで真っ二つに割れた。
サングラス越しに理事長を睨んでいる。
「……珍しいですね。貴方がそれ程に感情を顕わにするとは」
「茶化すな。――やはり、性根はあちら側の人間らしい……」
帝さんは立ち上がり。
「――戦術展開」
右手の指輪が光出した。
デュミナスリングか――!
赤い血の様な渦に呑み込まれると、2メートルはありそうな吸血鬼の魔人が現れた。
手にはレイピアの様な形状の剣を持っている。
「こいつらを巻き込む事は容認出来ない」
「アレスリゴール……」
「!」
助六氏は、どこから出したか銃を構えていた。
「待ちなさい、助六!」
俺は、あまりにも現実離れした光景にアクション映画みたいだと思ってしまう。
「――仕方ないですね。あまりあの姿にはなりたくないのですが……、乗ってあげましょう」
理事長は机の前に出てきた。
そして、はめていた白い手袋を外す。
手にはデュミナスリングの様な物が見える。
理事長も継承者なのか――!?
一呼吸置き。
「聖剣……」
それって――!
剣を抜くように、腰に手を持って行った。
左の胸の辺り、白いスーツの下から魔導紋の光が浮かぶ。
「抜刀!!!!!!!」
足元から光の柱が沸き上がると、理事長を包み込んだ。
たちまち、光を切り裂くように軍刀型の聖剣を携えた聖騎士が一人現れる。
「聖騎士……だと……」
髪はブロンド色に変わり、身体は銀色の甲冑に包まれた。
所々に金や宝石がはめ込まれていて、フォルテシア皇国の紋章が施されている。
力強い立ち姿には、高貴なる身分から来るものなのか、確かな威厳が感じられた。
「姉上……?」
春沢がそう呟いた。
「姉上だって!?」
「あ!じゃない……。おねーちゃん……、じゃなっくてー、ウチ一人っ子だし……、ええっと……。もーややこしい!!」
春沢は混乱しだした。
「前世の、ルクスフィーネの姉って事だろ!?」
「そう!それ!!」
ルクスフィーネの姉。
つまり、理事長は――。
フォルテシア皇国、次期皇帝。
第一皇女。
「ジャンヌヒルデ・ラプス・フォルテシア……」
「こちらの姿でも初めましてになりますね。魔王リベリアル・ルシファード」
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