学園の女王
次の日。
「たとえ~世界が拒もうとも~決して諦める事はない~♪」
俺は上機嫌にソロモン72の歌を口ずさみながら、汗だくになって自転車を漕いで登校していた。
今日は、期限を延ばして貰っていた進路希望調査票の提出期限。
これを今市の教卓に叩きつけてくれるのだ。
ライブチャンネル登録者数10万人の俺の前にひれ伏す姿が目に浮かぶ。
この日の為に、夏休みの配信を頑張ってきたと言っても過言ではない。
普段は辛く感じる学校へ続く坂道も、今はレッドカーペットの様に思えて心地が良い。
※※※
昼休み。
俺は職員室へ出向き、勝ち誇った顔で今市に進路希望の紙を提出する。
髭面と渡した用紙を交互に見た。
今市には俺が既に高校生Ⅾライバーで、ライブチャンネル登録者数が10万人いる事は既に伝えてある。
「……」
「くくく……、登録者10万人の覇気に当てられて声も出ないか……」
今市は腕組みをして、小さく溜息を吐いた。
「これはな、呆れてものも言えないというやつだ。辰海よ。――夏休み前に俺が言った事を全然理解して無いな?」
何ぃ――!?
俺の登録者数10万人が全然心に響いていないだと……?
俺の予想に反して、今市の態度は以前と変わらなかった。
まぁ、登録者数10万人という目標はあくまで俺が勝手に決めたことだが……。
少しくらいは歩み寄ってくれても罰は当たらないと思わなくも無いのだ。
「えー?なんでさー!?登録者10万人もいれば、公務員よりも稼げるんだぞ(まぁ、うちのチャンネルの投げ銭頻度だとアルバイトレベルだが……)!?」
俺は登録者10万人の強みを今市にアピールしてみる。
「稼げる稼げないの問題じゃない。――先生もな別に意地悪がしたくて言ってるんじゃ無いんだぞ?お前のダンジョン探索配信?ってのも少し見させてもらったが確かに頑張っているのは理解した」
そうだったのか――。
だったら、
俺の将来の夢に、協力してくれてもいいんじゃないか――?
「じゃぁ……」
「小学生と馬鹿にした事は謝ろう。――だがなぁ。これじゃぁ、教員会議を通過しないと言ってるんだ。大人ってのはなお前が思っている以上に頭でっかちなんだよ。せめて進学しながら大物?Ⅾライバーを目指すとか……」
「いや……、でも、Ⅾライバー以外無いし……」
ここで折れるわけにはいかない。
断固拒否の構えを見せる。
「俺達も生徒の将来を心配して言ってるんだ。そこは理解してくれ。――と、もう俺が言えるのはここまでだ」
ん?急に投げ出したぞ――?
「???」
「放課後。理事長が直々に、進路についてお前と話したいそうだ」
「ええ!?な、なんで?理事長が???――しかも、校長じゃなくて理事長!?」
よくわからんが、理事長って生徒一人一人の進路まで口出しするものなのだろうか――?
「理由は知らん。だがもう俺にはどうにも出来ん。――後はお前次第だ。上手くやれよ?」
くぅ……。今市め、肩の荷が降りたような清々しい顔をしおって――!
しかし、理事長か――。
というか、俺はまだこの学校の理事長を見たことが無かった。
生徒の間でも、理事長は“七不思議”の一つになるくらいのレアキャラなのだ。
まさか、この様な形で邂逅する事になるとは……。
※※※
放課後。
俺は理事長を訪ねて、校舎の四階中央にある、理事長室前に来ていた。
「あれ、鱶野?」
そこで丁度、部屋に入ろうとしている春沢に出くわした。
「春沢も理事長に呼ばれてるのか?」
「そーだよ。進路の事で今市に相談したら、ここに行けって」
「マジか……」
というか二人同時に進路相談とかするのだろうか。
何やら雲行きが変だ。
ともかく、部屋に入らない事には始まらないのだ。
「失礼します。二年三組、鱶野辰海です」
「しつれーしまーす。二年三組の春沢でーす」
明らかに他の部屋とは違う、高級感マシマシの格式高い扉を三回ノックする。
「どうぞ」と落ち着いた印象の若い女性の声がして、俺は緊張しながら部屋に入った。
理事長は確かに女性と聞いていたが。
秘書とかいたりするのだろうか――?
学校でこんなに緊張したのは、入試の面接以来である。
「初めまして、私が理事長の
正面の大きな机には、白いスーツを着た、亜麻色のウェーブ掛かった髪の若い女性が座っている。
こんな若い人が理事長なのか――?
失礼ながらもっと老人を想像していた。
そして、手前の応接用の椅子には……。
「ちょお?環ちゃん!?」
「え!?な、なんで帝さん達がいるんだよ!?」
環さんと帝さんが……。
「皆さん、私がこちらに招集しました」
噓だろ――?
ガッコンと、入り口の扉は、その見た目からは想像できない様な電子音をさせて自動に鍵が掛けられた。
「!?」
おいおい……、まさか、こんな事って……。
なんとなく、この後の流れが分かってしまった。
「お待ちしていましたよ、鱶野辰海君、春沢真瑠璃さん」
理事長は少しだけ口角を上げたが、その声色は淡々としていた。
「ようこそ、グラウベン機関へ」
やっぱり――!
どうなってるんだ、この学校は――!?
「――それでは、進路についてお話ししましょう」
俺には彼女が、この学園の女王に見えた。
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