第二節 夏休み波乱編

波乱の夏休み

 夏休み。

 それは高校生における。青春の代名詞の様なものだ。

 夏休みを制する者は、青春を制すのだ。


 健全な高校生陽キャなら、ここで夏祭りや海にプールに花火大会など、季節ならではのイベントに身を投じて、男女でキャッキャウフフしたりするのだろう。


 しかし、俺は違う――。


 それは、硬派なオタクの陰キャだからか?否!


 Ⅾライバーだからだ!!


 そう。俺がこの夏キャッキャウフフな陽キャイベントに遭遇しなくとも、それは、陰キャオタクが故に、青春を満喫できていないとか、そうゆうのでは断じてないのだ。


 俺は、Ⅾライバーだから、夏休みという新規視聴者獲得が期待できる時期に、真摯しんしに配信活動を行っているだけ。迷宮ダンジョン探索配信者としては、むしろこっちのほうが健全なのだ。


 つまり、俺が夏休みに青春出来ないのは、Ⅾライバーをしているせいである!


 ――こうゆうのを悪魔の証明と言うのでは、なかろうか。

 

 俺は、いつものようにⅮギアで配信画面を立ち上げると、ドローンカメラを起動していた。


 夏休み初日。

 プチバズりの影響でチャンネル登録者も増え、登録者目標10万人に向けてかなり幸先の良いスタートが切れている気がする。

 今日はなんと配信開始を待つ視聴者まで現れた。既に同時視聴者数が100人もいる状態だ。まるで、今までの過疎っぷりが嘘の様である。


 今日の探索先は、府中第五迷宮ダンジョン。東京競馬場付近に出現した迷宮ダンジョンだ。

 いつのも愛用していた立川第二を封鎖してしまった為、新規開拓と夏休み遠征を兼ねての事だ。


 この府中第五は、現在第七層まで攻略されているのだが、最近、第八層に繋がる封鎖門サイレンス・ゲートが通過可能になったらしいのだ(魔王である俺ならいつでも通れるが)。この様な新要素は視聴者の注目度が高く、動画的にも面白くしやすいのでぜひ狙っていきたい。


 更に、それと同時期に。迷宮ダンジョン内の魔物モンスターが活性化したとの報告があり、Bランク以上の探索者でないと入れない様に制限もかけられている。つまり、競合相手ライバルが少ないのだ。そういった所も今回の選定理由となっている。

 

 恐らくって、俺が魔王に覚醒したからでは――?


 ふと、嫌な予感が頭を掠める。


 自分が覚醒したことで、何かしらの影響があるのではという考えはあった。

 

 最近、こういった迷宮ダンジョンの難易度が上がったりする現象が、世界各地で起こっているのだ。それだけでは無い、新たな迷宮ダンジョン転移門ゲート頻繁ひんぱんに出現しているようだ。


 一応、魔王を名乗ってしまった事もあり、前世の尻拭いではないが、無視も出来ないので、その様な調査の意味も含まれた迷宮ダンジョン探索となっている。


 俺は、そんな不安を取り払うように配信開始のボタンを押す。


 「こんたつ~。皆今日もお疲れ様!いつも見てくれてありがとうな!!今日からチャンネル名も新たに『魔王タツミの真ダンジョン無双録。』で心機一転、配信していくぜ!!!」


 夏休みに合わせて、チャンネルを一新してみた。魔王キャラを本格的に全面に押し出していく戦略だ。

 ドローンカメラも三人称視点にして、暗黒騎士モード化した俺がスタイリッシュに探索していく様を、面白おかしく配信していくというコンセプトだ。


 ぶっちゃけ、魔王要素以外そんなに目新しい物は無……、いや、もう一つあったがそれはおいおい、分かるだろう。


すたみな次郎『ざこニキ魔王オッスオッス』

あれ草『待ってたぞ』

三人目の僕『こんたつー、チャンネル登録してやったから、喜べ』

みぎよりレッドロード『俺もチャンネル登録してやったから、古参だぞ敬え』

入鹿『チャンネル登録者様が見に来てやったぞ』

小田亮『新人ども、しっかり教育していくからな!覚悟しとけよ』


 「おまえら……」


 全く図々しい奴らだ。


 一連の騒動により、たつらー内でも変化が起きたのだ。

 今まで、チャンネル登録をしない事で俺のチャンネルを盛り上げていた(意味わからん)彼らも、新規視聴者の急増に伴い、チャンネル登録して応援していこうという方向へとシフトしていったのだ。


 まぁ、古参としてふんぞり返りイキりたいってだけだろうけど――。


 そんなこんなで、俺のチャンネルの登録者数は、現在1万9000人程になっている。


 たつらーおまえらそんないたんか――。


 まぁ、それでも新しいチャンネルに付いてきてくれることには、素直に感謝していた。こういう方向転換は、チャンネル離れにつながるからだ。


 彼らがもっとイキれるようにも、大物配信者になってやろう。


 俺の方も気合を入れて、第一回目の配信に臨んでいった。


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