迷宮核(ダンジョンコア)

 迷宮核ダンジョンコア


 それは、迷宮ダンジョンを管理するための端末であり、必ず各迷宮ダンジョンに一つ、対応した迷宮核ダンジョンコアが存在しているのだ。


 何故その様な物が存在するのかというと、自然に存在する洞窟などを拠点として使用するために、コアを使い、迷宮ダンジョン化している。つまり、迷宮ダンジョンとは元々全て魔族おれたちが作り出したものであるからだ。

 

 例えば、宝箱。あれは何も冒険者の為にわざわざ用意しているわけでは無い。迷宮ダンジョン内は、倉庫の役割を果たしている場合もある。なので、所有権を主張するのであれば、全て魔王である俺の物という事になるのだ。


 そうなると、探索者は只のこそ泥となってしまうのだが。今の所、俺に全迷宮ダンジョンの所有権を主張するつもりは無い。各々おのおのが今まで通りに、楽しい迷宮ダンジョン探索ライフを満喫してほしいと思う限りだ。


 とは言うものの。


 「うーむ、これは少しか……」


 俺は、先程笠井をぶっ飛ばして開いてしまった天井の穴を見て、呟いた。


 「当たり前じゃん!うちらが変身しているところ10万人にも見られてさぁ。また“ギャル沢が~”みたいになったらどうしてくれんのぉ!?」


 春沢は、配信を切り忘れの件でカンカンである。

 とりま謝っとくか。


 「それはすまん!……ではなくてだな、アレの事だ」

 

 俺は天井にぽっかりと開いた穴を指さした。


 「穴じゃん」


 春沢はなんともギャルらしい感想を言う。


 「穴だな。だが、迷宮ダンジョンにあんな大きな穴が開いていたら、崩落の危険があるだろ?」

 「それって、ヤバいくね!?」

 「ああ、確かにヤバいな。……なので!魔装降臨!!」


 俺はもう一度覚醒をして。暗黒騎士モードになる。どうやら、笠井との戦いで受けた鎧の損傷は回復しているようだった。


 「ちょ……何する気!?」

 「少し待っとれ。――とう!!!」


 脚に力を溜めると、一気にそれを開放して跳躍する。

 そのままロケットの様な勢いで、最上階である第九層まで軽く到達した。


 「おお、行けたか」


 俺は、東京タワー位の高さの距離を一回の跳躍で登り切ったのだ。

 魔王パワー恐るべし。


 最上階は遺跡型となっていて、中心部には迷宮核ダンジョンコアが設置してある。俺は、迷宮核ダンジョンコアを守っている、岩石の魔導兵ゴーレム。実質この迷宮ダンジョンのボスを蹴散らして、迷宮核ダンジョンコアを回収すると、春沢の元へと帰っていった。


 「しゅったっ」


 着地音は自分で言ってみた。巻き上がる砂埃に、春沢はケホケホしている。


 俺は、バレーボール位の大きさの丸い水晶玉の様な見た目のコアを起動し、コアからは、ホログラムディスプレイの様な立体映像が浮かび上がった。


 「それって、迷宮核ダンジョンコアじゃん。まさか鱶野、それで悪さを……」

 「だからしないって……」


 俺は、タッチパネルの様に指を使って操作をしていく。


 「……やはりか」


 管理履歴を見て、そう一言だけ呟いた。 


 フロアマップで各階の状況を確認する。まだ中には20人程が残っているらしい。それを罠などの機能を駆使して、出来るだけ安全?に避難させる。


 魔王ならば本来「ふはははは!愚かで矮小わいしょうな人間めぇ~」とか言いながらやる場面である。しかし、俺は硬派な魔王なのだ。仕事は手早くスマートに、社会の常識である。


 「よし、退避完了。俺たちもここを出るぞ」

 「ちょ。待ってし、――回復陣リジェネイション!」


 春沢が唱える。足元に魔術式が展開されて、光の柱が湧き上がると、俺たちの身体の傷が見る見るうちに消えていった。


 回復陣リジェネイション

 人間の魔力を活性化させて一時的に治癒能力の爆増させる。所謂いわゆる特殊技能レアスキルと言うやつだ。迷宮ダンジョン内限定ではあるが、骨折とかでもない限り大抵のケガは治ったりする。


 「おおう、悪いな」

 「これも貸しだからね」

 

 春沢は悪戯っぽく舌を出した。


 「へいへい……」


 目の前に転移門ゲートを呼び出すと、それを通って外へと出た。


 

 ※※※



 立川第二迷宮転移門ゲート前。

 保護壁シェルターは入り口の付近が粉々に破壊されていた。恐らく笠井が吹っ飛びながら、外に放り出された時にこうなったのであろう。


 転移門ゲート付近にはまだ、人がいて、俺たちは気付かれる前にその場を離れた。


 「うわ、鱶野のジャージボロボロじゃん」


 春沢は自分の姿と見比べていった。


 「春沢がやったんだぞコレ」

 「あれ、そうだっけ?(てへぺろ)」

 「“そうだっけ”じゃないわい!」


 転移門ゲートから出て少し経つと、俺の覚醒は解かれていた。恐らく、魔術や特殊技能レアスキル同様に、迷宮ダンジョン内でしか使えない能力という事だ。


 今の俺は、ぱっくり空いたジャージの姿なのだ。

 一方、春沢は制服型の防護服スーツを着ているので魔力によって元通りに修復されていた。


 とにかくこのままだと目立つので、一旦、亡霊旅団レヴナント・ブリゲイドに寄って着替える事にする。


 事務所は駅の反対側なので、春沢とは立川駅で解散だ。


 俺たちは、ひとまず立川駅を目指した。


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