ギルド『亡霊旅団』
放課後。
帰宅部の俺は、爆速でチャリを漕いで八王子駅から電車に乗って立川で降りると、駅から徒歩十分の所にあるバイト先に向かっていた。
そのバイト先は、俺の親戚一家が経営している会社で、俺はそこで表向きは、事務や力仕事要員として働いている事になっている。
行きかう人々に紛れて、その
レヴナント・ブリゲイドは、以前動画制作会社を経営していた叔父さんが、ダンジョン配信需要の爆発的増加に感化されて、六年前に新たに立ち上げた何気に古参の部類に入る
因みに当時家族は大反対で、ひと悶着あった。
内装は、叔父さんがファミコン世代な事もあってか、
ここでは、配信の企画・運営のサポート、カメラ等の機材の貸し出しは当たり前。
ダンジョン探索用の
勿論、無料と言うわけにはいかない。所属する配信者の広告収益、ダンジョン内で獲得した戦利品を分配して、経営していくからだ。
「よう!若者、暇だからおねーさんと恋バナでもしよーぜ」
しねーよ――。
俺が事務所に入ると、このギルドの看板娘で従姉妹の
「――恋バナはしません。と、いうかアンタも十分若者だろうが。俺はこれから配信に行くの。千空さんだってやることあるんじゃないの?」
「おーおーなんだ、なんだツンツンしちゃてぇ。可愛くないぞぉ」
千空さんは良くこういうことを言う。ダル絡みが好きなのだ。
「――それにさ、ほら見てたっくん。他にはだーれもいない。……今日も一人辞めていきましたぁ」
ぱちぱちぱち……、と乾いた拍手が事務所内に響く。
「おおう……」
閑古鳥が鳴くというやつだ。
とうとうこのギルドは、俺を含め所属配信者が3人になってしまったようだ。
今やギルドも飽和状態で、配信者の確保も大変なのだ。他にも理由があるのだが、兎に角出入りは激しいのである。
するとパラララララーラ♪と良く聞き慣れた自動ドアのインターホンが鳴り一人の少女が入ってくる。
「あー、登録者数ザコザコお兄さん、来てたんだぁ☆」
あ”ぁ”ん”――!?
この事務所の所属配信者三英傑が一人。事務所一の稼ぎ頭、
「ん、コホン。――いいかい姫苗ちゃん、例え事実だとしても、難しいかもだけど大人の世界では、言いて良いことと、悪いことてのがあってね、姫苗ちゃんも配信者なんだからもっとそういう所をだね――」
「ぷぷー。おにーさんって“りくつ”っぽーい」
俺が
そして、耳元で
「――でも、いつもお兄さんが頑張ってるの姫苗知ってるよ。かっこいいゾ♡」
そうささやいた。
うおおおおおお、姫苗ちゃんマジ天使――!!!
「うっわーwおにーさんマジ泣きしてるぅ。きっもぉ☆」
そう。そうなのだ――。
このフリーフォール並みの落差が、我らがレヴナント・ブリゲイドのエース。チャンネル登録者30万人を誇る“姫星ひめな”の持ち味。
動画配信にストイックな姫苗ちゃんが自然と身に着けた、自分に求められている需要を理解して最大限に生かしつつ、更にそこに付加価値を加えることで生まれた、決して他者の追随を許さない、唯一無二の武器なのだ。まさかアフターケアまでばっちりとは感服の極みだ。
今までこれ程に、“一粒で二度おいしい”を体現できた人間が居るだろうか、いや居ない――!俺は猛烈に感動していた。
「――ふぅ」
「あ、戻った」
いかん、いかん――。本来の目的を忘れるところだった。俺は
「――千空さん、これから配信しにダンジョン潜るから、カメラと防具借りたいんだけど」
「あいよー。今日はどこ行くのぉ?」
「立川第二ダンジョン」
「せっかくだし私が送ってこっか?」
「あー、それ凄く助かる」
「じゃぁ、道中沢山恋バナしようなっ!」
「姫奈もするー!」
「いや、だから恋バナはしねぇって」
千空さんは、相当恋バナに飢えているようだった。今度優しくしてあげよう。
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