硬派なオタクの日常(陽キャ邂逅編)
誰かが言った。
「人は不平等であることが平等である」と。
俺だ。
これは、なんか頭良い奴っぽいな名言を言いたいなと思った時にふと思いついた言葉だ。特に深い意味は無い。格好良ければいいのだ。
無理やりこじ付けるのであれば、人は生まれながらに個体差という、個性を持っているのだから、優劣をつけずに皆違って皆良い理論を流行らせれば、他人と比べて不幸にならず幸せになれるんじゃね?みたいな、メッセージだ。
特に俺は、誰かに自分の役回りを決められることをひどく嫌っていた。
それは、責任を負いたくないとか、楽をしたいとかそう言った後ろ向きな考えではない。
只、自分が何者であるかは自分自身で決定したいだけなのだ。
とは言うものの現実は非常であった――。
一見。
皆仲良し!爽やか三組な我がクラスにもスクールカーストなる負の遺産が存在してしまっているのだ。
幸い、それによりイジメに発展するといった事は今までなかったが、「人は不平等であることが平等である」説提唱者の俺からすれば由々しき事態だ。
だからこそ俺は、
確かに俺は、趣味も思想も陰キャのオタクだが、だからといってスクールカーストで底辺扱いなのは納得がいかない。
大体、どこのどいつが陽キャが上で陰キャが下などと決めたのだろうか?文句を言ってやりたい。
そんなこんなで。
教室に着くと一番奥の窓際にある陰キャ仲間の待つ、我が牙城へと進路を取る。
するとその行く手を拒むかの如く、かしましい女子の一団が
「――何、今ウチら楽しくダベってんだけど?」
見りゃわかるわい――。問題はそこじゃない。
クラスの陽キャグループが一人“ギャル沢”だ。
本名、
金髪サイドテールに切れ長の眼。ピンクのカーディガンがトレードマーク。
こいつは一言で表すと“オタクに厳しいギャル”である。
何故だかこいつは、やたら俺に突っかかって来るのだ。
と言うか、ギャル沢は誰に対しても兎に角当たりが強い。
度々俺もかち合うが、全くもって
「いや、そこを通りたいのだが……」
俺は、あまり相手を刺激しないよう、それでいてあくまで強気に抗議の態度を示す。
「はぁ?遠回りすればいいじゃん」
な、何たる
そればかりか図々しくも“遠回りをしろ”と?この
この様にスクールカーストは、上位者が底辺者を自然と虐げられてしまうような空気を作っているのだ。実に不愉快極まりない。
「そもそも、そっちが通路の邪魔を――」
「何々?マルリとフカちゃんって仲いいんだぁ!?」
俺とギャル沢の間に、オタクに優しい方のギャル、茶髪ポニーテールでバレーボール部の
人懐っこい宮越は、このクラスのスクールカーストの上位に居ながら下々の俺たちにも優しく、ギャル沢のいる陽キャグループの中に残された最後の良心である。
「あー、私もそう思ったぁ!ハルちゃんと鱶野君とよくケンカしてるもんねぇ」
猫撫で声で同意してくるのは。
黒髪ショートカット、オタク系ギャルで漫研の
何故そうなる――?喧嘩するほど仲が良い的な事を言いたいのか――!?女子の思考回路は良く分からない。
「はぁ!?ちょっと二人ともやめてよぉ。誰がブタ野なんかと……、嫌なんですけど!」
「待てぃ貴様!誰がブタ野じゃ!?」
「だってその腹……、豚じゃん」
「むぅ!?確かにちょっと油断した腹回りをしているが、豚は酷いだろうが!せめて可愛いくまちゃんだろうが!?」
「はぁ……。イミわかんないんですけど」
いかんいかん、ついヒートアップしてしまった。
「ちょっ貴様ってwww」「鱶野君怖ッwww」何がツボったのか分からんが宮越と立木は俺たちのやり取りを聞いてキャッキャしている。
余談ではあるがこのギャル沢、推定Gカップという、俺とはまた違ったわがままボディの持ち主でもある。
俺は密かに、尻の宮越・太股の立木と合わせて“三えっっ人”と感謝と畏怖の思いを込めてそう呼んでいた。
とても腹立たしくはあるが、陰キャ故に普段女子と絡む機会が無いこともあってか、少しだけこの状況を悪くないと思っている自分がいて悲しくなる。
と。
「うぇーい!なんか楽しそーじゃーん!!」
俺はギャル沢達に眼福を得ながらも、背後から新たな陽キャの波動を感じ取る。
マイルド系ヤンキー、赤髪ツンツンで野球部の
白昼堂々リアルで“うぇーい”などと言うやつを俺はこの男しか知らない。
「鱶野じゃん、うわっマジ珍しいー組み合わせなんですけど」
無駄にテンションが高いなこいつ――。それに声もデカい。
一気にクラスの注目が集まる。
身長は、俺より少し高いくらいなのに、筋肉質なせいか威圧的だ。正直、俺は笠井が苦手である。
いやまあ、陽キャ全般苦手だけど……。
「なんか悪いな、話してるところ。春沢と何かあったのか?」
「あ、いや……」
そして、もう一人。
この金髪は。
さわやか系イケメンでサッカー部の
めっちゃギャルゲの主人公みたいな名前である。う、羨ましくなんて無いんだからね――!
俺は豊徳院の事も苦手である。
そこはかとなく無自覚系主人公のオーラが出ているからだ。しかも、家は金持ち。きっと何ら挫折も味合わず生きてきたに違いない。
もしこいつが目の前で「また、何かしちゃいました」などと
まぁ、陰キャなんで出来ないんですけどね――!
ギャル沢達が女子のスクールカースト上位グループなら、豊徳院と笠井は男子のスクールカースト上位グループだ。
他にたまに取り巻きが増えたりするが、大体こいつらでつるんでいることが多い。
「リュー君にオーリ君、よっす!」
「おう!よっすコスズ」
「豊徳院聞いてよぉ。鱶野が文句言って絡んできてさぁ」
「ん?そうなのか」
「え?あ……えっと……」
こ、こいつ!この一瞬で俺を悪者にしやがった――!!
というか、俺のもっと堂々としろ!人数が増えたからってビビんな!誓いはどうした!誓いは――!?
豊徳院は、「とりあえず落ち着こうか」とその場の流れを掌握し始める。
ま、まずい――。
完全に、場の空気を乱す陰キャとそれを治めようとするイケメン陽キャという状況が演出されてしまっている。
く、仕方があるまい――。俺は、見切りをつける。
「……あ、いやその、邪魔して悪かったなッ」
これは、戦略的撤退である。別に委縮してしまった訳では無い。
陰キャは特に一対多数の戦いに慣れていないだけなのだ。
ましてやこうも急にクラスの注目を浴びては――。あれ以上続けていても、こちらは不利になるばかりであろう。
ギャル沢は勝負ありと言った顔で「べー」としてきた。あ、ちょと可愛い――。
ええい!そうではない――!!
くそぅ――。
「月夜の晩ばかりと思うなよ!!!!!」そう俺は心の中で
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