問題児の思い出

ユダカソ

問題児Aの日常

Aは今思えば男性差別的だった。

女子にはうっすら優しいが、男子のことは明らかに見下していた。


Aに話しかけるような男子はみんな明るくて優しい三枚目系の男子だった。

他の男子は近寄りもしない。


だがAは男子のことを見下しているので、三枚目系の男子に話しかけられるだけで屈辱だったらしい。


例えば「何色が好き?」のような簡単な質問ですら侮辱的な意味に捉えて「なんでそんなことを聞くの!」とキレだし泣き喚くのだった。


酷い時には相手の男子と取っ組み合い、思い切り髪を引っ張った。

男子の毛が引きちぎられることもあった。

だがこれは流石に脚色ついて記憶されてしまったものかもしれない。


どちらにしろ覚えているのは「は……?」「うわ…マジかよ……」「最悪……」とざわめく教室の様子と、周りから責められ狼狽える哀れなAの泣き出しそうな表情だ。


Aはこうやって自分が不利な状況になると教室から飛び出そうとする。

そうやって問題を有耶無耶にしてきたのだろう。


「逃げんな」

別の男子が教室の入り口を塞ぎ、Aを逃がさないようにした。

ドアの入り口に立ち塞がる形だったか、それともドアを後ろから閉めるような形で塞いだのか、どっちだったかは憶えていない。


しかしAは物凄い力で教室のドアを開き、逃げた。


「いってえ」

Aは男子が怪我しないようになどとは微塵も考えずに力を入れてドアを開けたので、男子は多少負傷してしまった。

男子はいくら怪我しても構わないと思っているようだった。


結局Aは逃げた。

Aが受けた傷は大切に扱われるが、Aが与えた傷は無かったことになった。

それが日常だった。

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問題児の思い出 ユダカソ @morudero

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