第8話 真祖吸血鬼の憂鬱
我は吸血鬼の真祖、暴雪のシィズである……。獲物以外で我の前に立った人間も数百年振りか……今宵は気分もいい、幾つかの質問を許す……。
何? その二つ名は誰がつけたかじゃと? また珍妙な質問を……まあいい、正確には誰が付けたとかではなく我の使用する氷雪魔法の恐ろしさに人間どもや他の魔物共が畏怖の念を込めて名付けたのだろうな……。
何? 何故自ら二つ名を名乗るのかじゃと? これは単純にそちらの方が余計な戦いをしなくて済むのじゃ。
例えば我の部下である剛腕のインフェ、こ奴も貴様にそう名乗ったであろう? まああこ奴は見た目でどう見ても力自慢だと判りやすいが、我の様に人間の少女とほぼ同じ体格では見た目だけで舐められるであろう?
そこで二つ名で自身の能力を判りやすく言えば、その対策を万全にしてくる為一度出直すだろう? 面倒そうな相手だと思えばその対策をしている間に別の隠れ家に逃げてほとぼりを覚ますだけじゃ。
まあもし対策を万全にされてきても、別に我の得意魔法は氷系だけではないけどな。
そもそも我らの様に人間に対し大した被害を与えてもいないものを狩るというのはどうなんだろうな? 我の前には来ていないが吸血鬼を狩る専門の職、ヴァンパイアハンターという者もいるそうではないか?
そもそも我ら吸血鬼は、そんなに簡単に一族を増やさないし、そもそもそこまで人を襲わない……我も人間の書いた吸血鬼モチーフの小説を見た事があるが、突っ込み処だらけだったな。
まず有名な伯爵だったか? そもそも伯爵というのは一世一代でなれるものではなかろう? 王に任命されて地元で数十~数百年に渡りその土地を統治して、その間無論公務をしたりせねばいかんだろう。
数日かけて王の下へ馳せ参じる場合もあるし、部下任せの場合も多いだろうが地元の視察にも出向かねばならぬ。全て我らの苦手な日の元や、流れる川を避けねばいけぬのか?
つまりはあの小説の伯爵は「自称」という事だ。もし元々が本物の伯爵だとしても数百年前の肩書をいまだに名乗るというのはな……学舎を卒業しすぐ着いた某協同組合を試用期間で辞めさせられたが、いまだに元・団体職員と名乗ってるようなものか。
そもそもあの様な首元を狙う吸血行為を数百年も繰り返し、吸われた者も悉く吸血鬼になっているのなら、世は吸血鬼の世界へとなっているだろうな。
その為に色々な弱点を付けているが、日光に当たれないというのは致命的ではないか? 1日の半分が自らにとって致命的な世界とか我なら怖くて自ら狩りに出かける事はないわ。
我は別に日光に当たった処であの様に灰になって滅びる事はないがな……水でしか生きられない魚ですら水から出して一瞬で死ぬ、という事はあるまい?
日光はともかく心臓に白木の杭を打たれて死ぬとかも可笑しな話だな。物語の吸血鬼は変身能力があり、何と霧に化ける事も出来るというが……我はそのような超常能力はないが、その様な能力を持つものが何故防犯もしっかりしておらず敵が襲ってくるかもしれぬ城の寝室に、目立つ棺桶を置いて眠らねばならぬのだ?
我ならば少なくとも霧にならねば物理的に入れない半密室を作り、そちらで寝るがな……。
そして霧になれるのならそもそも人間に擬態しないでも生きて行けるであろう? 獲物の近くに霧となって現れ血を吸ったらまた霧になって立ち去る……実際小説でもその様にしていたか?
その様な無敵の能力を持つものが、何故白木の杭を心臓に刺されるという弱点を知られているのか……そもそもその様な強大な能力を持つ者と白木の杭を持って対峙するような状況が生まれ、しかも弱点といわれるくらいだから何度も検証したのか? 馬鹿らしい…… 一族に自殺志願者がいて、リークをしたとしか思えないな……。
嗚呼、別にあの小説自体は素晴らしい出来だと思うぞ。そもそも100年以上前の小説に突っ込みをするのも野暮であるが、まあこの様な楽しみも否定されてないだろうしな。
話が長くなりそうだな……食事を用意させよう、ゆっくりと話を聞いて行け……安心しろ、人間が食べられるものしか用意させない。
ん? 短編集なのに続きはおかしいだと? 一体何を言っているのか判らないな……。
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