霊の花

小松加籟

霊の花

 夜更に、その路傍に、透明な花が在った。透明な花は、生者には、不可視だったけれども、死者に愛でられる花だった。

 死者は、彼世の常として、生者を羨望する。しかし、此世の花とも趣を異にする花を、彼らは、馥郁たる冷めたく微笑する花を、唯愛した。花に、その愛を感ぜられたか。植物にも感情が在る、其が植物学者間の「意見の一致」だとしても……。

 殊に愛情が花に齎すものは、尋常な花が太陽や水やから得られるものと酷似していたとして、その気分屋な花が、死者を凝っと見つめ返すとき、死者は、うっすらと、想うだろう。

 「透明な花は、霊的な空気の裡に呼吸いきをする、彼世の世知辛さの為に、折々呼吸を止めて、確かめてみる。花は、生者の、悲哀を知ろうとして、生存の哀しみを、知るだろう」

 

 

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霊の花 小松加籟 @tanpopo79

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