第110話 心と体が満身創痍での帰還

 きっと遥は、自分が自分でない事に薄々気付いていたのかもしれない。

 そしてすべてを元通りにするためにと、俺達に託したんだ。


「わたくしはもう小学四年生ですの! こどもあつかいはこまりますわ!」

「そ、そぉ~! ごめんねぇ~……!」

「ったく、雰囲気がほんま会った時のままやな。小生意気な遥復活やで」

「でも変な話よね、あの時の記憶も無いなんて」


 それで帰って来たのは小さな遥。

 ダンジョンに入る前当時の、戦う事さえ知らない無垢な少女だった。


 どうしてそんな遥が出てきたのかはわからない。

 もしかしたらダンジョンの仕組みが何か働いたのかもしれないが。


 ……でも、これで良かったんだ。

 遥はもうダンジョンとは関係なくなったのだから。

 もうダンジョンなんてものは知らなくていいんだよ。


 これから普通の女の子として育てば、ただそれだけで。


「そういえばさーダンジョンコアはー?」

「わからん。魔物遥と一緒に潰れたんやろ。ならあのブッ叩きの時に崩壊の合図が出たのかもしらん」

「なら~とっとと出た方がいいかもねぇ?」

「フフフ、賛成だわ。こんな所もう早く出たい」

「そうですね、僕も緊張が解けたせいでもう足がガクガクで……」


 それに悠長にもしていられなさそうだ。

 起きたばかりの遥にかまけてて時間も無駄に使ってしまったし。


 それなので、俺達はすぐさま急いでダンジョンを出た。

 遥もその間はしっかり黙って掴まってくれていたから、面倒がなくて助かったな。


 なのだけど。


「あっ、プレイヤー達が戻って来たぞ!」

「間宮さん! 司条遥さんに一体何があったんですか!?」

「今回の一件はどういう事か説明してもらえませんか!?」


 一方のダンジョンの外はといえば大騒ぎの真っただ中だ。

 俺達が出ようとすればマスコミやビューチューバーがこぞって集まってきた。

 なんだか侵入時よりも増えている気がするんだが!?


 ……まぁそれも仕方ないか。

 今回の一件がかなりの難易度である上に、遥があんなことになったから。

 視聴率や再生数を求めて周辺地域からも集まってきていたんだろう。


 でも、それにしたって節操がない。

 こっちは全裸の少女を抱えているんだぞ!?


「みなさん下がって! 下がってぇ!」


 しかしすかさず自衛隊員達が押しのけ、道を作ってくれた。

 あまりにギャラリーの人数が多いから全員死に物狂いだが助かった。


 それでやっと俺達もダンジョンから脱出でき、作られた道を進む。


 するとその途端、今度は正面先で異常が起きた。

 なんと二人ほどの男が自衛隊の包囲を突破していたのだ。


 しかもそんな二人の手にはどちらにもカメラが。

 あの服装に雰囲気はおそらく一般ビューチューバーだろう。

 そんな奴らが俺達めがけて走り込んでくる!?


 ――が、その二人は匠美さんと凜さんによって即座に組み伏せられる事に。


「おうおう美少女ポルノでも撮ろうってなら容赦せんぞオラァ!」

「少しは常識ってものをわきまえなさい!」

「「いでででで!!!!!」」


 さらにはいつの間にかモモ先輩が二人のカメラを取り上げていて。


「ククク、迷惑系には存分な裁きが必要よね。闇に墜ちればいいわ」


 そんなカメラをポイっと放り投げれば、つくしがどこからともなく持ってきていた棒でめった打ちである。容赦ない。


「あぉおおおおおーーーーーー!!!!!」

「「「でたーーーっ! つくしちゃんの生鬼叩きィィィ!!!!!」」」

「「「モラルの無い奴に天誅ゥゥゥーーーーーー!!!!!」」」


 ギャラリーの中にはつくしのファンクラブ軍団もいたらしい。

 ただし彼らは少し離れた所の高台から見下ろすようにして応援してくれている。


 ……と、超大盛り上がりの中で制裁が下されたので、二人の迷惑系チューバーがガクリと意気消沈する。自業自得だな。


 ついでにそんな騒ぎの中で自衛隊員の一人が迷彩服を渡してくれた。

 おかげで遥の体を隠す事ができたぞ。ありがとうございます!


 それでギャラリーを抜けると、遠くにバスが見えた。

 委員会のおっさんも指差しているし、「ひとまずあれに乗って」という事かな。

 用意してくれたのは嬉しいけど、「それでいいのか」と複雑な心境だ。


 まぁ仕方ないよな。

 遥は勘当された身で、もう身寄りが無い。

 だったら俺達が連れて帰って面倒を見るしかないんだから。


 ――しかしそう思いふけっていた時、ふと場に響き始めた音に気付く。

 それで思わず見上げてみれば、頭上はるか先にヘリコプターが飛んでいた。


 でも待て、よく見ればこっちに向かって降りてきているぞ!?

 それも俺達とバスの間にある空地へと向けて!


 うっ、あの機体に書かれているのは……司条グループだって!?

 じゃあまさか、あれに遥の関係者が乗っているのか!?

 なら一体誰が――


「あっ!」

「え?」

「お父さまだ! お父さまーっ!」


 でも機体が降り立って中から人が出てきた時、遥がこう声を上げる。


 そうすることでやっと気付いたのだ。

 俺達の元へと歩み寄って来る人物が司条遥の父親なのだと。

 

 そして日本の誇る大財閥の統括者が直々にやってきたのだと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る