第108話 友情・大爆発

 壁際に追い込んだ遥へと向け、一気に飛び出す。

 このまま奴の動きを封じるまで追い詰めるために。


 すると遥もまた負けじと向かってきた。

 それも理性さえ感じさせないほどの奇声を上げながら。


「ギャギャギャナダアアア!!!!!」


 いや、そもそもが理性なんて元々なかったのかもしれないな。

 あれはいわゆる反射的な鳴き声のようなもので、意味なんかないんだ。


 だって遥の本質は奴の中に閉じこもっているのだから!


 直後、遥の右腕がまっすぐ伸びてくる。

 しかし俺はそれを紙一重でかわし、かつ杖を滑らせた。

 火花を散らせつつも、奴の突撃に勢いを合わせるためにと。


 そうしてさらに跳躍。

 奴の頭上へと一瞬にして躍り出る。


「ヒッ!?」


 その最中にも、俺は杖を懐へ大きく引き込んでいた。 

 奴の力を削ぐためにと、その右肩へと狙いを付けつつ。


 そして一突、破砕!

 奴の右腕が勢いよく宙を舞う!


「ギイイッ――」

「まだだまだ終わっちゃいないッ!!」


 ただし目的は無力化だけじゃない。

 カエルだった部分、純粋な魔物の部位を切り離す事こそが真の目的だ!


 ゆえに直後には、カエルの舌が混じった奴の右胸へも突いていた。


 そうして打ち抜き、右胸部を破砕。

 問題だった部位の完全除去に成功した。


「ガアアアアッ!!!」

「『ッ!?』」


 だがその次の瞬間、遥の二本の縦ロールが俺へと目掛けて伸びる。


 しかし俺は即座に杖を回し、縦ロールを二本一気に絡みとって防ぐ。

 それどころか杖を駆使して引き込み、引き千切りながら急接近。


 追撃の魔拳を奴の顔目掛けてブチ込んでやった。


「ギャアブッ!?」

「〝超級・再生抑制術デリジェネイト〟!」

「ギィッ!?」


 たちまち地面へ打ち付けられる遥。

 その上で奴へさらなる魔法での追い打ちをかける。

 自己再生を無力化させる強敵対策用魔法だ!


 そのおかげで奴が動揺し、動きを止めた。

 この魔法には再生抑止だけでなく、一瞬の感覚遮断効果もあるからだ!


「待っていろよ遥!」

『今助けるから!』

「ゲゲッ!?」


 その一瞬の隙を突き、俺は杖へと力を籠める。

 するとその一瞬だけで杖に光と星が集まり、力を与えてくれた。


 横薙ぎ一閃。

 大地を、遥の両脚とともに深々とえぐり取るほどの一撃として。


「聞こえているか遥! 聞こえたら何でもいい、返事をしろ!」

『お願い遥、あたし達の声を聞いてぇ!! あたし達はここにいるよおっ!!』


 こうして奴の動きを完全に止めた中、その胸へと着地を果たす。

 それでさらには杖先で突き当てつつ、二人で叫ぶのだ。


 もし遥が本当にまだ意識を残しているのなら返事があるはず。

 俺達が今流したマナを伝い、意思の波動を送り込めるはずなんだ!


「ア、ア……」

「くっ、それほど動きを止められなかったか!?」

「カナタ、ツクシ」

『ッ!? 待って彼方、これは……!』

「コワシテ、モウ、モタナイ」

「『!?』」

「〝ワタクシ〟ヲ、タスケテ、オネガイ」

「遥、お前……!」


 ……これは決して命乞いなんかじゃない。

 遥だ。魔物じゃない遥の訴えなんだ。


 俺達の声が、聞こえているんだ!


『彼方!』

「ああ! なら信じよう遥を! 遥を助けるために!」

『うんっ!』


 ゆえに俺達は即座に頭上へと跳ねた。

 遥の訴えに従って、魔物遥を完全に破壊するためにと。


 ――きっと遥もずっと戦っていたんだろうな。

 自分自身を、やっと叶った願いを守ろうとして。

 本当に強い奴だよ、お前はさ。


 だから待ってろ。

 今俺達が、その歪な鋼の檻から出してやるから!


「やるぞつくし! マナを籠めろ! 限界いっぱいまで!」

『わかった! それがあたしにできる事なら!』


 そんな想いも、俺達の願いも杖へと送り、力に換える。

 すると途端に掲げた杖が、つくしもが黄金の煌めきをも纏い始めた。


 これがカンストオーバー+つくしのレベルが合わさった更なる強化。

 武器そのものを引き換えにして生み出せる、最終最後の一撃必殺技だ。


「『うおおおおおおーーーーーーーーーーッッッ!!!!!』」


 そうにまで極限進化を果たした杖を、限界にまで振り上げた。

 体をも湾曲させ、ただただ力いっぱいに。


 その中で背中にてマナを弾かせ、急降下する!!


 見ていろよ遥!

 これが俺の、俺達の想いだ!


「これが、俺とォ!!!」

『あたしとォ!!!』


 お前を守りたいと願う、本物の、友達としての一撃だあああ!!!!!




「『〝青春謳歌のぉユースフルリクスゥ友情オーバー大爆発ブレェェェイク〟ッッッ!!!!!』」




 そしてついに最強最高の一撃殴打が魔物遥へと見舞われた。

 瞬時にして周囲一帯すべてを白光で覆い尽くしながら。


 ……けどこの時、俺達にだけは聞こえていたんだ。

 遥の声が、本当の想いが。


 切なくなってしまうほどの、内に秘めていた願いが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る