第107話 カンストオーバー+Xの実力

 まだ澪奈部長達は奮闘している。

 緒方君が加わった事で持久力が段違いに高まったおかげだろう。

 それでも防戦一方である事に変わりはないけれど。


 遥の適応能力は本物だ。

 魔物になってもその才能は引き継がれ、一瞬で攻撃を見切ってくる。

 だからもう凜さんの攻撃も当たらないし、澪奈部長にも翻弄されない。


 だがその適応能力は、数段もの格上相手に機能するかな?


 その自信を胸に、一歩二歩とゆっくり近づいていく。

 仲間達が形成した戦いのリズムの邪魔をしないためにも。


 その中で澪奈部長や凜さんがやっと気付いてくれた。

 それで俺達に道を作るように立ち回り始めてくれた。


 そして遥が強引に盾の壁をこじ開ければ、とうとう邂逅が叶う。


「……キッヒヒ! 来ましたわねェカナタカナカナカナァァァ……!」

「ああ、待たせたな。決着を付けよう、もうその準備はできたよ」

「そうねそう! ディナータイムがやっときたァァァ!!!」


 きっと遥は俺の姿が変わった事なんてとっくに認識しているはず。

 けれどもう姿形の変化になんてまったく興味がなさそうだ。


 ただ喰らう事。殺戮する事。

 今の遥が望むのはただそれだけなんだろう。


 ゆえに奴は止まらない。

 盾を掻き分けて弾き飛ばし、俺達へと向けて一心不乱に走り込んで来る。


「――エ?」


 だが意識した瞬間、俺と遥はすでにすれ違っていた。

 爆光と共に踏み出し、全力で跳ねた事によって。


 その拍子に、奴の左腕の刃をへし折りながら。


「ギッ!? ギャアアアアアア!!?!?」

「はっや!? なんなん今の速さ!?」

「そりゃねぇ、彼方っちのヒーラーレベルはカンストオーバーで999以上だしぃ!」

「はあああ!? なんねんそれバグっとるんかあああ!!?」

「凜! お前のバグり具合も大概やで!」


 凜さんすまない、またバグらせてすまない。

 だけど今だけは存分にバグってくれてかまわない。


 あとはもう、俺とつくしだけでやれるから。


「おォのォれェェェカナタァァァ!!!」

「〝越界級・星列軌導索スターオーヴィション〟ッ!!!」

「――ッ!!?」


 振り向くまでもなく、すかさず杖に左拳を打ち充てて詠唱を切る。

 すると直後、俺の今刻んだ突撃軌道跡に光が溢れ、大爆発を引き起こした。

 軌道上にいた遥を巻き込み、飲み込むほどに激しく。


『みんな、巻き込まれない内に離れた方がいいよ! ここからの彼方は今までとは段違いだから!』

「そ、そうさせてもらおっかなぁ~!」


 こうなった以上は本気を出す以外にないからな。

 レベルが上がり過ぎると低レベル魔法が使えなくなるんでね。


 つくしと交わった今の俺は、おかげでもう上級魔法でさえ使えはしない。


「アッガァ!! クソムシ、ゴミムシ! ギィィィィィィ!!!」

「やはりこれだけじゃ倒せないか。なら徹底的に攻めさせてもらう!」


 それに遥の耐久力もかなり高いから、加減して倒しきれる相手じゃないしな。

 軒下でのレベルやダンジョンレベルの能力はもちろん、魔物化した事で体力や防御力が尋常じゃなく上がっているんだ。

 だからおそらく澪奈部長達が与えたダメージはほぼゼロに等しいだろう。


 だけど今の一撃で充分にわかったよ。

 俺なら充分に奴を倒す事ができるとな。


 ゆえに俺はそっと背中をグラリと倒し、そして跳ねる。

 空中で姿勢を正し、遥を見据えながらまっすぐと。


 そうして杖を振り上げ、奴の腰部スカートを砕くのだ。

 反応する事さえ許さない刹那の中で。


「っがァァァ!!? うっげェェェ!!?」


 それを二度、三度と繰り返して奴の体を削る。

 それでも反応しきれないという事は、適応が追い付けていないという証拠だ。


 ただ反撃をしようという意思は垣間見える。

 ならその瞬間を狙って再びスターオーヴィションを展開、奴の体勢を崩す。

 視界と姿勢、それと極度のマナバーストで第六感までの知覚を遮断するんだ。


 そうなればいくら遥でも圧倒的な情報量を前に適応できはしまい!


「――ギュイイイイイ!!!!!」

「ッ!?」


 それでも構わず爆風の中を突っ込んで来た!?

 小細工が効かないからと強引に前へ出てきたか!


 だがな、ヒーラーが前衛に弱いなんて欠点、こっちはとっくに克服しているんだ!


「キャナタァァァァァァ!!!」


 二本のドリルロールが俺の影を穿つ。

 しかしすでに見切っている、当たる訳もない。

 小刻みに体を動かしてかわし、そのまま奴の懐へ飛び込む。


 そして胸部に拳を叩きこんでやったのだ。


「魔拳闘法は、職業が違っても使えるッ!!!」

「ゴッハァァァァァァ!!!??」


 しかもとっておきの、マナをふんだんに込めた一撃だ。

 おかげで奴のドレスを象った胸部に亀裂が走り、破片が飛び散っていく。

 それどころか余りの衝撃に強く弾かれ、奥の壁へと叩きつけられていた。


 その中で着地を果たし、再び遥を見据える。

 杖を一転二転と振り回し、マナの烈風を掻き鳴らしながら。


「もう終わりにしよう。これ以上お前を苦しませないために」


 そうして振り上げた杖を両手で構え、深く屈み込んだ。

 狙いを定め、力を溜め込むために。


 ようやくハッキリと見えてきた〝願いの光〟を摘出するためにも。


「『遥を救うためにも――理不尽でまかり通るッ!!!!!』」


 その意志の下、俺達は全力で飛び出したのだ。


 この愚かしい戦いに終止符を。

 誰もが願うような些細な平穏を、また取り戻したいから。

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