第104話 友達が欲しかったんだ

「遥はきっと、友達が欲しかったんだ! ずっと、ずっと!」


 つくしが俺の肩を握りながら強く訴えてきた。

 遥の魔物化した原因であろう悩みの根源を必死に伝えようとして。


 だけど大丈夫だ。

 その気持ちなら、俺だって充分にわかる。

 俺も同じ事でずっと悩み続けてきたから。


 そうだよな、あいつもあいつで不器用な奴だったんだ。

 俺と初めて出会った時も変に高圧的で、でもどこか嬉しそうにも見えたから。

 だけど俺が嘘をついたと勘違いし、裏切られたと思って罵倒してしまったのかもしれない。


 俺もあいつも同じ、だったんだ。


 そして再会した後だってそう。

 あいつは友達と呼べるような存在がいなかった。

 傍にいるのは誰しもただの雇われプレイヤーに過ぎず、信頼できる者はいない。


 つまり、あいつは今までずっと一人だったんだって。


 でも垢ぬけてやっと俺達という友達が増えた。

 しかもつくしという何度も構ってくれるような心許せる存在ができた。

 遥の願いがとうとう叶ったんだ。


 だがそこにつけ込まれてしまった。


 おそらくだが、魔物化自体はとっくに進んでいたのだろう。

 それを遥は強靭な精神力で抑え込み、寸前で耐えきっていたに違いない。


 ただそこで遥は胸を刺されて重篤状態に。

 それと同時につくしへの信頼を打ち明けて、気を緩ませてしまって。

 その瞬間から一気に魔物化が進み、彼女の理性を飲み込んでしまったんだ。


 ――クソがッ! 人の想いをこうも踏みにじるかよダンジョンめえ!!!!!


「……すべて繋がった! おそらくつくしの推理は正しい! 遥の魔物化の原因はまさしくそこにあると思う!」

「だったら彼方、遥を探して!」

「えっ!?」

「あの遥が簡単に消える訳ない! だってやっと友達ができたんだよ!? あたしと親友になれたって実感したんだよ!? だったらこれから楽しくなるんだから、遥はこんな事じゃ絶対に諦めないよお!!!」

「……いやまて、遥を探す? 人を、探す……!?」


 どうやらつくしは真の根源だけでなく気付きも与えてくれたらしい。

 遥を救い出すために必要な、そのヒントを。


 そうだ、また俺は一つ勘違いをしていたかもしれない。

 遥を探るのに、魔物と同じと考えてはいけなかったんだ。


 それならば……!


「か、彼方、掌をかざしてどうするの!?」

「遥から、遥の意思を拾う! あいつがまだ諦めていないというなら、人の波動が感じられるはずだ!」

「それってもうテレパシーじゃん! で、できるのそんなこと!?」

「知らん!」

「ええッ!?」

「だがやる! やらなきゃいけないんだ! 理不尽をまかり通すのが俺ならば!」


 だったら意識の矛先を反転しろ。

 魔物ではなく人の意思の波動を読み取れ。

 人の心を、叫びを、訴えの残滓を掬い取るんだ!


 マナを溜めて走らせろ!

 針の如く、光の如く、奴の心まで突き通せ!

 その先にある深淵、さらにその奥へと届くまで、もっと! もっと!


 もっとォォォォォォーーーーーーッッッ!!!!!




 ―――茶色く蠢く濁った空間が見える。

 泥のようにぬったりと動き、ふちがどこまでも引き伸びていく。

 それはまるで亡者のうめきを表現するかのように。


 きっとあれは怨念だ。

 魔物という存在の潜在意識が産んだ、人間に対する絶対的な憎悪。

 ちょっとでも意識を乱せば、あのドロドロの中に引き込まれそうで怖い。


 それ以外が本当に見えないんだ。

 なにもかもを塗り潰され、溶けて、汚れてしまったかのようで。


 ……それでも意識を凝らして探してみれば、景色のとある部分に輝きが見える。

 あれだ。見つけた。


 ただもう掠れて消えてしまいそうなほどに弱々しい。

 だからさらに意識を伸ばし、感覚をも研ぎ澄ませる。

 彼女の意思を、声を聴き洩らさないようにと。




<タスケテ パパ ママ サミシイヨ>




「……いた、遥はまだ、生きている!」

「彼方……っ!」

「ああ、でも魔物遥の意識が強過ぎてそのまま摘出する事は不可能だ。どちらにしろ奴を倒さなければ遥は救えない!」

「だったらやろう彼方! あたし達で魔物遥を倒すの!」

「ああ! でもこのまま殺してもダメだ! 俺かつくしがトドメを刺さないと、あいつの願いがそのまま拡散してしまう可能性がある!」

「だったら!」


 するとつくしは俺の肩を掴んで強引に立ち上がらせる。

 それでさらには向き合うように体を回し、肩をギュッと握ってきた。


「あたしが考えた手段を使えばいいよ!」

「なら教えてくれ、どうしたら俺達があいつを倒せる!?」


 そんな時、つくしはニッコリと笑っていた。

 いつもの元気で明るい、彼女らしい笑顔で。


 まるで俺の不安を掻き消すくらいの眩しさで。


「あたしが彼方にアームドライドする! 大丈夫、絶対成功させるから!」

 

 だけど教えてくれた手段はハッキリ言って無茶苦茶だった!

 人間が武装変化アームドライドだって!? そんな事できる訳がないだろう!?

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