第100話 友達のために

 遥の追撃が思った以上に激しい!

 片っ端から武器や盾を拾っても、速攻で砕かれてしまう!


 おまけに速くて宙まで舞ってくる。

 一瞬で回り込まれるから、油断すれば即あの世行きだ!


「オーッホッホッホ! もうネタ切れですのぉ!? 武器はもうどこにも落ちていませんけどォォォ!!?」

「だったらお前を殴り飛ばすだけだ!」

「あ、あ、オッホォ! ワタクシに、それができますのカナタ! あっはぁ!」

「ぐっ!?」


 こう喋っている間にも刺突が二連三連と繰り出され、寸での所でかわす。

 そうして大きく後ろへ跳ね、距離を取る――のだが。


「ワタクシィ、わかっちゃいましたわぁ!」

「ちぃ!?」

「あなたぁ、ワタクシの事、殺せないッヒィ!!!」


 安易に距離を取っても一気に詰めて来る。

 こいつ、俺の動きを完全に読んでいるんだ!


 その上で巧みに斬撃を放ってくる。

 次の逃げ場所がわかるように誘導した一撃だ。


 おかげで逃げ場が常に狭められてしまっている。

 動きはなんとか見切れてはいるが、これ以上続けば体力が持たないぞ!?


 なんとかして起死回生の手段を――


「あは、あははは! 今、あなた、逆転の手を考えていますのねぇ?」

「!?」

「でもぉ、それはダメェ。ワタクシィ、もうあなたの考える事が手に取るよぉにわかるゥ! だってぇ、好きですものォォォ! 食べちゃいたいくらいにぃ!」

「好きなら愛でるもんだろうがッ!」


 考えても無駄だ! コイツにすぐ気取られる!

 だからこそ俺は即座に魔拳闘法を繰り出し、奴の真正面へと飛び出した。

 爆発的な威力は変わらないからこそ防げはしないはず!


「アハ!」

「――ッ!?」


 だが俺は直感的に、本能的に、すかさず拳のマナを暴発させた。

 何も無い所で炸裂させ、あえて自分を吹き飛ばさせたのだ。


 するとその瞬間、あり得もしない光景が視界に映り込む。


 なんと爆光を何かが引き裂いていたのである。

 両腕ではない何かが光を弾き、地面まで激しくえぐって。


 何が起きていたのかさっぱりわからなかった。

 あまりに一瞬の事で見る事さえ叶わなくて。


 しかもそんな俺に遥の剣腹が叩きつけられる。

 切っ先じゃないからこそ致命傷ではないが、受け止めた腕がすさまじく痛い。


 おかげで弾かれ、大地を転がる羽目になってしまった。

 それでもうまく四肢を使って姿勢は立て直せたが。


「ヒヒッ! 這いつくばってェ、まるでカ・チ・クゥ! これから食べられる者の末路ですわァ!」

「悪いが俺は言うほど肥えちゃいないんだ。もう少しお付き合い願おうか……!」

「ディナーの時までもう時間はありません事よォォォ!?」


 来る!

 しかもまた、正体不明の攻撃が!


 その時動いたのは、なんと縦ロール!


 突如四本の縦ロールがグニャリと動き、信じられない速さで伸びてきたのだ!

 それはまるでバネのごとく、俺を串刺しにせんとばかりに!

 

「ちぃぃ!?」


 そこで俺は左右不規則に飛びながら後退した。

 手足で地面を弾くよう叩く事によって。


 回避できない事は無い!

 だけど両腕と違って距離感が掴みにくい!

 少しでも油断すれば一瞬で串刺しだぞ!?


 そう思っていれば次は容赦のない斬撃の嵐。

 これもまたかわす事しかできず後退を余儀なくされた。


 二段構えの戦法かよ……!

 しかもこのまま放っておけばどんどん進化しかねない!

 そうなればまた別の攻撃手段だって生まれるかもしれないんだ!


 だから早く何とか仕留めないといけないのに……!


「考えている暇はなくってよォォォ!!!」

「くっそぉぉぉ!!?」


 斬撃、ロール刺し、斬撃、ロール刺し。

 規則正しいかと思えば今度は不規則に。

 俺を翻弄する動きはさらに巧妙さを増していく!


 このままでは、もう!?


「それではここでお食事タイムですわァァァ!」

「させるかよおッ!!」


 ――だが俺達が向き合った瞬間、目の前に突如として瞬影が現れた。

 大きくて、壁のようにたくましい重厚な鎧を纏う者の姿が。


「せやで! やらせるかいなあああ!!!」

「匠美さんッ!?」


 そんな盾が斬撃を受け止め、激しく弾かれる。

 すると俺をも巻き込み、大きく後方へと吹き飛ばした。


「なんつう威力やあああッ!? けどなあああ!!」


 しかしそれでも匠美さんはしのぎきっていた。

 強靭な足腰で大地を削りながら見事立ったままに。

 俺を背に乗せていようともお構いなしだ。すごい根性だな!


「来たで!」

「なんでっ!?」

「助けるために決まっとるやろがい!」


 しかもこんな時に漫才かよ!?

 いや違う、これでも匠美さんは真面目なんだ!


 本気で俺を、助けに来てくれた!


「アァ~~~うっとおしい屑肉ゥ! ワタクシの邪魔しないでェ!!」

「はいはーい、またお邪魔が通りますよぉってぇ!」

「!?」


 いや、匠美さんだけじゃない!?

 鋭い斬撃一閃が放たれ、遥が拍子に退いた!?


 これは澪奈部長か!


 おまけに続いて炎弾が何発も放たれていく。

 これには遥も防がずにはいられないか。


「イッヒヒヒッ! 邪魔するなら私の本領よぉぉぉぉ!」


 まったく、モモ先輩まで。

 この笑いにテンション、もうどっちが魔物だかわかりゃしない。


「彼方!」

「つくし!? それにみんなどうして!? 逃げろって言ったのに!」


 それにつくしまで。

 遥に狙われているってわかっているのに、それでも戻って来たのかよ……!


 まったく、みんなどうしてそう素直に聞いてくれないんだ。


「決まってるじゃん! が勝つ為だよ!」

「!?」

「その責任を、彼方だけに押し付けたくない!」


 つくし、君は……。


「そういうこっちゃ。みんな彼方だけにエエカッコさせるのはいけ好かんってなぁ」

「フフフ、なんだかんだでみんなお人よしなのよ。だってダンジョンっていう闇に囚われたら、光だって欲しくなるものね……!」

「みんな……」


 そうか、俺はまた自分で全部背負い込もうとしていたんだな。

 今回ばかりはそれが一番いいと思っていたけど、それも間違いだったんだ。


「ちゅう訳や。つくしちゃん、あとは任せたで」

「らじゃー!」

「匠美さん、どうする気です!?」

「決まっとる。ワシと澪奈ちゃんと厨二嬢の三人で遥を止めるんや……!」


 んなッ!?


 そんなバカな事ができる訳がない!

 相手はレベル600越えの俺でギリギリの相手だぞ!?

 それを真正面で受けるなんて自殺行為だ!


「そんなの――」

「ああーいい、言わんでええ!」

「えっ!?」

「理屈やない、気合いや! 気合いと根性でどうにかするんやってなぁぁぁ!」


 しかし彼等は制止もきかず飛び出していく。

 たとえ無茶だろうと関係無く。


 なぜそこまでして無理をするんだ。

 どうして――


「彼方、本当の友達っていうのはね、こういうもんなんだよ」

「えっ」

「みんな彼方の事を守りたいから、大好きだから無理できるんだ」

「俺の事を……守るため?」

「うんっ! だから、その想いを無駄にしないためにも勝たなきゃダメだよ。たとえ遥を倒す事になっても。みんなを守りたいならここだけは引いちゃダメなんだから」

「つくし……」


 するとつくしが俺の手をぎゅっと掴んでくれた。

 わずかに震えているが、それでもなお固く強く。


 ……きっとつくしも辛いんだろうな。

 自分を守ってくれて、友達だと言ってくれた遥を討つなんてさ。


 だけどそれでも俺を守りたいから、苦しんででも来てくれたんだ。

 だったら俺も応えないといけない。


 たとえこの手で遥の命を奪う事になったとしても。

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