第99話 絶対に後悔したくないから(つくし視点)

「あたしのレベルは総合で400近く。多分、この中でもっともレベルが高いと思います。だからあたしは行きます。たとえそれで死ぬ事になるとしても」


 あたしはもう後悔したくないんだ。

 お母さんを送り出した時みたいに。

 自分が無力だって思い知ったまま流されるのなんて、もう嫌だから!


「本当に力になれるかどうかはわからない。だけどきっと彼方なら言うよ。『それでも理不尽でまかり通す』って」

「……たしかに、あの子なら言いそうだよねぇ」

「ええ、魔王彼方ならきっと」

「だから止めないでください。願っていてください。あたし達が、勝つ事を」


 そんな想いであたしは一歩を踏み出した。

 たとえあたし一人だろうと関係無いんだ。

 あたしがやらなきゃ、彼方だけじゃダメなんだから。


「ちょお待たんかい」

「止めないでって!」

「アホゥ、誰も止めるなんて言うとらんやろが。ワシも行くで」

「えっ!?」


 え、どういう事?

 匠美さんも行くって、本気で言っているの……!?

 だって、軒下にも通ってない普通の人なのに!?


「これでも日本随一の盾役タンクやっとる自覚はあんねん。ほならその意地でちょっとくらいは時間稼ぎできらぁ」

「ちょっと、タク!?」

「言わせんなや凜。ここで退いたらワシは絶対後悔すると思うで」

「タク……」


 でも本気みたいだ。目が笑ってない。

 あたしをまっすぐ見つめてきているからわかる。


「んじゃしゃーないねぇ、あーしらも行きますかぁ!」

「そうね、魔王彼方の相棒を張れるのは私、達だけなんだから……ククク」

「パイセンズ……」

「そうまとめんなし」


 よかった、澪奈パイセンとモモパイセンがいてくれれば百人力だ。

 たとえレベルが低くても、二人のコンビネーションは随一だから。


「なら私も行くわ」

「ダメや。凜は来んな」

「なんでよ!?」

「お前は防御が薄い。その中をあの速さで詰められりゃ即終了や」

「う……」

「ぼぼぼ、僕も行きます!」

「ぼんもアカン。お前さんは経験と気概が絶対的に足りへん」

「そ、そんな……」

「まぁワシらに任せとけぇ、それでも死にたいっちゅう奴は知らんけどな」


 匠美さんがしっかり仕切ってくれて助かった。

 こういうの、あたし苦手だから。

 まぁおかげであたし達四人だけになっちゃったけど。


 ……他の人は名乗り上げる事すらしなかった。

 たぶんわかっちゃってるんだ。みんなと遥とではレベル差が圧倒的だって。

 自分達じゃどうひっくり返っても勝てないんだって。仕方ないよね。


 だけどこれでも十分すぎるよ。

 あたし一人で行くよりはずっと心強いから!


「よっしゃあ、いくでえ!」

「「「おおー!」」」


 だからあたし達は気を改めてまたダンジョンに突入した。

 彼方がまだ負けていない事を祈って。


「しかしつくしちゃんよ、どうする気なんや?」

「えっ?」

「彼方の所に行ったとして、なんか対策とかあるんか?」

「あ、いや、えーっと、無いかな~~~なんて?」

「……ア、アカン、さっそくめまいがしてきたわ」


 ええー、さっきはあんなノリノリだったのに酷いよたくみん!

 あ、いいなーたくみん、今度からそう呼ぼう!


「じゃあじゃあ武器を一杯どばーってもってく! えいえいってぶつける!」

「投げやりになんなや! 槍投げやなしに!」

「んん~、まぁーでもそれはそれでちょっとありかもねぇ~?」

「な、なんや澪奈ちゃん随分とニヤけとるやんけ」

「ヒヒッ、澪奈ちゃんは悪だくみを考えるのがとっても得意なのよ……!」

「はいはぁーい、そういう余計な情報はいりませぇん!」


 でも気付いたら、みんなもういつもみたいな明るさを取り戻してる。

 そうだよね、息を詰まらせていたら力なんて出せないもん。


 いつもマイペース――それが宝春学園ダンジョン部の在り方なんだから。


 あれ、マイペース?

 あたしの、ペース……。


 あ!


「ししし! あたしわかっちった!」

「お~!? とうとうわかっちゃったぁ!?」

「なんやなんや!? 何がわかったんや!?」

「えっとね! 彼方を遥に勝たせる方法!」


 そうと決まればもう迷いはなかった。

 みんな揃って新しい武器を手に取り、奥へと向けてひたすら走る。


 この四人ならきっと彼方を救えるって信じられるから。

 彼方が遥に勝つ為にも、ぜぇーったいにあたし達が必要なんだって!

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