第66話 このダンジョン、明らかにおかしいですわ(遥視点)

 魔物肉にこだわり過ぎて少し出遅れてしまいましたわ。

 でも意外とイケるのでお弁当として持ち帰るのも良いかもしれませんね。


「お、やっときたか――って何食べてるんだお前は」

「焼き魔物肉ですわ」

「ゾッとする事を平気でやる人ね、あなた……」


 彼方達を待たせてしまいましたが、怒ってはいないよう。

 ですが余計な事をして遅れたのも事実。謝罪しておく事にしましょう。


 あら彼方達、なに注目してきているのかしら?

 謝罪など別に珍しくはなくてよ。


「と、とりあえず先に進もう」


 そうして再び進行を開始しましたが、それ以降は魔物とも出会えず。

 四度ほど分かれ道に遭遇し、つど印を刻んでノルマをこなす。

 私達以外の気配も無いのでとても静かですね。


 さて、五度目の分かれ道。

 今度は何か変化があればよいのですが。


「来たかつくし、遥」

「あれ、どうしたの彼方とモモパイセン、深刻な顔しちゃって」

「実はさ、ちょっとまずい事を見つけたんだ」

「え?」


 あら、どういう事かしら?

 彼方が動揺しているようにも見えるけれど。


 わたくし達が辿り着いたのは普通の分かれ道。

 来た道を含め、分岐地点を中心に三本の通路が均等角度で配置されている。

 目隠ししてくるりと一回りするとどこから来たのかわからなくなる構造ですわね。


 ですがそうならないために印を付けたのでしょう?

 なら何を動揺する必要があって?


「あれを見てくれ。何かがおかしい」

「えっ……こ、これは!?」

「すでに道に印があるんだ。しかも片側だけに」


 これは一体どういう事ですの!?

 右の通路にハッキリと「M」の印が見えますが、もう片方には何も無い。

 ふと振り返って来た道を見てみましたが、こちらも当然の事。


 すでに誰かが通った?

 いえ、でもそれなら「S」の印も無いとおかしいですわ。

 作戦を無視して進んだ輩がいるのかしら?


 あるいはダンジョンが何か変化を起こしたか。


「遥」

「ええ、わかっていますわ。でしたらわたくし達がこのM印の先を見てきましょう」

「頼む。用心してくれ」


 なんにせよ調べなければ何もわかりません。

 誰かが失敗しただけならばすぐに見分けがつくでしょうし。


 そこでわたくしとつくしはM印が刻まれた道へ。

 ついでに「+S」とも印を刻み、後に続く人にわかりやすくしておきましょう。


 そうして再び分かれ道へと辿り着いたのですが。


「……やはりおかしいですわね」

「うん、ここどこにも印が無いよ」


 今度はMもSも印が無いと来ましたか。

 メイン班が通ったのであれば本来はM字がどんどん続くはず。

 なのにここにはもう人が通った痕跡さえありませんね。


 これは明らかになにかおかしい。


「少し、試してみましょうか」


 そこでわたくしは左手に握っていた片手剣を分岐地点に落としてみた。

 物理的な痕跡を残し、この変化の理由を確かめるためにと。


「さぁつくし、戻りますわよ」


 ちょうど元の道を調べていたつくしの肩を叩き、戻ろうと促す。

 あとはこの異常の原因が正体を晒すのを待つだけですわね。


「あ、遥ー武器落としてるよー」


 あら、つくしが落ちた武器に気付いて取りに戻ってしまいましたわ。

 いけませんね、やろうとしていた事の説明をする前ですのに。


「違いますそれは――ハッ!?」


 何!? 分岐地点の壁が一瞬、何か瞬いて――!?

 これはいけない!


 ゆえにわたくしは咄嗟に体を動かしていた。

 無邪気に手を伸ばすつくしの肩を抑え、引き、通路側へと投げ飛ばすように。

 自らの身がその反動で分岐地点へと投げ出されるのも覚悟の上で。


 そして両足を付き、滑るようにして体勢を整えたのですが。


「あ、ああ、遥!?」

「つくしはだ、大丈夫、ですの?」

「あたしなんかより、遥があ!」


 ……ああ、そういう事ですの。

 なるほど、このダンジョンの仕組みがなんとなく理解できましたわ。


 その代償は、ちょっと、キツイ、ですけど……!


「遥の右腕が、無いッ!!!」


 咄嗟にバランスを取ろうとして右腕を伸ばしたら、一瞬にして感覚が無くなった。

 それどころか右足も踵がちょっと削れているみたい、ですわね。


 これは、耐えられそうも、ないかも――

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