第65話 その発想に行きつくのがヤバイ(つくし視点)

 まさか遥にあたしの彼方への気持ちがバレちゃうなんて。

 うーん、あたしってば気持ちを誤魔化すのって苦手だなー。

 ま、彼方に悟られなければ別に平気だけど。


 ……ううん、本当は悟られたい気持ちもあるのかもしれない。

 もう自分の気持ちもわかんなくなってきそうだよぉ……。


「ッ!? あれは!?」


 むむ、そう悩んでいたら前方に魔物が見えた!

 ホッグベアだ! 体毛が針みたいに堅い小型の熊!


 ――ってあれ!? 遥がもうやっつけちった。

 反応も判断も速いなー……さすが元トップって感じ。


「動きは鈍ってませんわね。ブランクが怖かったのですが、問題は無さそうですわ」

「うんうん、すごい動きだった! 動画で見たのより全然速いよー」

「それでも狭い通路ですので動きは制限されていますけどね」


 あ、それにここもう分かれ道だ。

 話し込んでて思ったより進んでた!

 たしかこれ進んだらいけないんだよね。遥も足を止めてるし。


「しかしそれでもあの黒い魔物には敵わなかった。まだまだ鍛え足りないですわ」

「あれは仕方ないよー。奇襲みたいなものだったし、彼方いわくかなり強い奴みたいだから」

「だからと甘んじるほどわたくしは楽観的ではありませんから」

「ひえー、ストッキングだねぇ」

「それを言うならストイック。ま、今はそこまで執着したいと思いませんけどね」


 あ、でも遥はまだ魔物に用があるみたいだ。

 倒れた死体の傍に歩み寄ってる。


 ひえ……しかもなんか体を刻み始めちゃった!

 執着してないってホントなの!?

 ものすごい徹底しているように見えるんだけどー!?


「つくしは火の魔法とか扱えますか?」

「え、あ、うん。小さい火を出すくらいならできるケド」


 ええ!? もしかして、倒したのに今度は死体を燃やすつもり!?

 これで徹底してないってどういう事ー!?


「でしたらお願いがあるのですが」

「はいはーい、なんでしょー?」

「これを焼いて頂けます?」

「エッ」


 ううん、どうやら徹底していると思ったのも間違いだったみたいだ。

 なんか差し出された遥の剣に肉のブロックが一杯突き刺さってた。

 ちょっとうげえってなりそうなくらい、青い血が滴ってるゥ……。


「も、もしかしてこれって、魔物のお肉……?」

「そうですわ。せっかく倒したのですからここは一つ食してみませんと!」

「ひええ……食べられるのそれ!?」

「さぁ? 食べてみないとわかりませんからここは一つ挑戦ですわ」

「お腹壊して死んでも知らないよ……?」

「その時はあなたに回復してもらってただの腹痛で済ませる事にします」

「もしかしてあたしを選んだのって、このためなんじゃ……」

「イェスザッツライですわ♪ わたくしの本性を知ってるからというのもありますが!」


 待って、すごいよこの人! 思考がすでにすごいヤバイ!

 魔物のお肉を食べようって発想に行きつくのがまずヤバイ!

 毒とかあってもあたしがいるからお構いなしってもうヤバイ!


 それなんかさ、もうあたしシェフ扱いじゃん!

 遥の専属魔物料理シェフじゃん!? やっばああああ!


 でもなんかうれしい。


「ではよろしく」

「ファイヤーーーっ!」

「いい感じの火力ですわ。どれどれ……はむ」

「ほ、ほんとに食べちった!?」

「まだ中は生ですわね。もう一発頼みますわ」

「ファ、ファイヤーーーっっ!!」

「ふむ……んん、外側が焦げるくらいが丁度いいですわね。ウフフッ、これは良い感じの焼肉ですわ。とてもおいしゅうございますのよ。つくしもぜひいかが?」

「いりませぇん!」


 でもちょっと心を揺り動かされたのが悔しい!

 香り的にはこうちょっと生臭さが強いけど、焼き色を見る限りは普通のお肉だし。

 あとかなり堅そうかな! 遥が澄ました顔でバリバリいわせながら齧ってるし。

 んんーこの人ほんとワイルドレディすぎぃ!


「ささ、戻りますわよ。彼方達が待ちくたびれてしまいますから」

「へ、へーい!」


 あっといけないけない、つい本分を忘れる所だった。

 あたしらは魔物ソムリエするためにここに来たんじゃないんだって。


 そう、あたしらはお金を稼ぐためにきたんだから!


 そのためにも一刻も早くダンジョンを攻略しなきゃ。

 そしてまた校長のお金で本物の焼肉を食べよう!


 ……あれ? んー、なんかちょっと違うような?

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