第56話 絶望の三通

 すえつぐが企画したファンレター直読み動画。

 とりあえず俺の分はなんとか消化できた。

 でも自分でわかるくらいガッチガチだったし、リテイクをお願いしたい所だ。


 しかし撮影は容赦無く次へと進む。

 今度の犠牲者は一体誰なんだ?


「はい次はこのチームで不動の二番手を飾る――虹岡つくしちゃん!」

「あたしきたぁー!」

「意外ねぇ、つくしが二番手なんて~。ちと悔しいかも」

「胸が大きくて好きとかいうコメントを見た事があるわ……!」

「時代はエロなのかあーっ! くぅーっ!」


 つくしも俺に負けず劣らず分厚い束を三つ渡されている。

 え、もしかして一番手に匹敵する量って事なの?


「つくしちゃんはねぇ、鈍器で徹底的に殴る鬼気迫った姿が人気なんだ」

「人気の理由ひどいな!」

「特に先日の戦いは反響がすごかった。キラッキラの魔法少女みたいな衣装のつくしちゃんが敵の血を浴びながら撲殺解体するシーンはもう海外からも人気を博しているよ」

「いやーヒーラーにプレイヤー生命を賭けた成果ですなー!」

「成長する方向絶対間違ってるぅ!」


 つか一体どうやったらそう尖って成長するんだろうな。

 ステータス値を見ると腕力と精神力極振り状態だったし。

 俺でもさすがに振り分け方なんてわかんないよ?


 なお手紙の中身も割とぶっ飛んでいた。

 とりあえずわかるのは、よほどの変態ばかりがファンについているという事だ。

 まぁつくしは相変わらず楽しそうにしていたからいいけども。


「そんでもって次が――」

「へへーい、今度はあーしっしょ!」

「残念、次は母桃ちゃんでした!」

「え、私……? ファン、いたの?」

「んが、あーしがモモっちに負けた……!?」

「ご、ごめんね澪奈ちゃん、私……」

「ううんいいの、モモっちに人気があるならそれはそれで誇らしい事だもの」

「おおっとこれは百合展開かぁ~!?」


 今度はモモ先輩か。

 大束一つと一気に減ったけど、それでも充分多い。


 ただなんかこう、全体的に黒い。

 あと表に見える封筒がすごくこう……ダークサイドです。


「という訳でヘイッ!」

「あっあっ、らめぇれいなちゃあん~! ひゃあ~~~!」

「おやおやおや!? 母桃ちゃんに意外な一面が!? これは予想外の展開だぁ!」

「ここだけの話ぃ、モモっちは顔を隠す物がないとちょーゆるふわ系になるのだぁ!」

「ふおおお! 今回だけの特別シーンいただきましたぁ~~~!」

「や、やらぁ~! やめれぇ~~~!」

「モモっち、その状態で手紙を読むのよ。これは部長命令」

「ひぐっ、うう~~~わ、わかたぁ……」


 不運だけど澪奈部長の命令なら仕方がない。

 まぁこのモモ先輩はちょっと本気で可愛いと思うのでぜひとも流布したい所。


 なお手紙の中身はというと……うん、予想通りですね。

 極度の厨二病患者からのお便りでほぼほぼ占められていました。

 なので明るめな封筒を開いてみたのだけど、中身は真っ黒でしたとさ。


 今回の動画で新たなファン層を獲得できるといいね。


「さて最後はもちろん我等の澪奈ちゃんな訳ですが……はい」

「なにその含んだいい方」

「えっとまぁ、前の三人が特に反響大きかっただけなのであまり気にしないで欲しいんだ」

「その前にまずファンメ出して?」

「う、うん……はい」


 あれ、なんで澪奈部長の分だけすえつぐが懐から出すんだ?

 え、つか、あれ? さ、さん……?


「三通……ッ!?」

「えっと、うん、なんだろうね、偏り過ぎちゃったか、あるいは郵便局が届け忘れちゃったのかな~……はは」

「……」


 あ、澪奈部長が絶望してる。

 しかも頭を抱え始めてしまった。

 よく見たらちょっと腕が震えてるし、よほどショックだったのか……。


「ま、まぁほら、前回の戦いはどちらかというとサポート役だったし? みんなの援護を主体にしていたから活躍も少なかったから仕方ないかな?」

「……その本音は?」

「え!?」

「視聴者のコメントはどうだったっつってんの!」

「え、ええと……たしか『入る前の造り笑顔があざとい』とか『乗り物www』とか『完全にパシリです本当にありがとうございました』とかそんな感じ、かな?」

「……ちなみに紅先生のファンメは?」

「ろ、六通です……」

「戦地に行かない人にダブルスコア負け……はぁ~~~~~~」


 ま、まぁたしかに、あの戦いじゃあんまり活躍見えなかったもんな。

 敵を倒してはいたけど物陰だから目立たなかっただろうし。

 なんというか陰の功労者らしい結果になったなぁ……。


 ていうか紅先生にもファンレター来てるんだ。すごくない?


「でも僕は澪奈ちゃんの事が好きだよ」

「え?」

「だから、僕の気持ちを添えたファンレターで四通とさせてくれ」

「すえつぐ……」

「これは返信を返す必要がないから、どうか後でゆっくり読んで欲しい」


 お、おう、すえつぐが澪奈部長の手を取った。

 いきなりラブロマンスっぽい雰囲気が始まったぞ!?

 え、どういう事? すえつぐって澪奈部長の大ファンだったのか?


 手まで握り締めちゃっておうおうおう……。


「ごめんすえつぐ、あーしその気持ちには応えられない」

「えっ……」

「金一封を置いて行かないと、きっと靡かないと思う」

「ふっ、そんな事もあろうかと思って持ってきたよ、金一封。しかもこんなに」

「エッ!!!?? カネェェェーーーーーーッ!!!」


 それを断る澪奈部長もすごいが、すえつぐも用意が半端ないぞ!?

 なんか懐から沢山の封筒が出てきた!?

 おかげで澪奈部長の反応がもうすでに面白い。


「だから君の事を教えて欲しいな? まずはスリーサイズから」

「んん、それなると三袋は必要かもぉ」

「これならどうかな? ススッ……」

「耳貸してぇ」

「教えちゃうんだ……」

「ふむふむ。では次は恋愛経験などを」

「ああーっ! そこは二袋積まれないと気分がのらなぁい!」

「ふっ、その程度どうって事ないさ。スッ!」

「あーしの初恋は小学生の頃――」


 あ、これ長くなるやつだ。

 封筒の数からしてすっごく長くなるやつだわ。


 ならもういっか。


 二人とも盛り上がってるし、今日はこれくらいで帰っておくとしよう。

 残る詳細は澪奈部長が語ってくれるだろうしな。


 という訳で俺達三人は帰りました。

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