第24話 文句を言われたので有言実行してみた

「彼方の言う事を実行したら本当に勝てちゃったね」

「しかもちょっち今までの認識が狂うくらいの余裕さだったかなぁ~……」

「ンッヒヒヒヒッ! 攻撃魔法ぎンもぢいいィィィ~~~~~~!!!!!」


 ふう、ちょっと想定より労力はかかったけど概ね予定通りだ。

 やはりダンジョンは少人数でも攻略できるようになっているらしい。

 おかげで結果は宣言通り。これで楠の鼻をあかす事ができたはず。


「お、間宮達が出てきたぞ!」


 外に出たらさっそく彼等の声が聞こえてきた。

 ちゃんと見ていてくれただろうか?

 また罵倒されるのだけは勘弁なんだが。


「すげえよお前ら! 本当に四人でクリアしちまうなんて!」

「――えっ?」

「私感動しちゃった! あんな戦い方があるなんて!」

「すまねぇ宝春学園。お前らの事、正直舐めきってたわ」


 けど予想に反してなんだか反応がやたら好意的だ。

 まさか彼等がこぞって集まって褒め称えてくれるなんて思ってもなかった。


 楠だけは遠くで立ち尽くしているけども。


「素晴らしい戦いだった。まさしく敵の虚を確実に突く、斬新かつ効率の極致とも言える戦術に私も驚かされたよ」

「コーチさん……ありがとうございます」


 でもここまで褒められると悪い気はしない。

 さっきの罵声もこれならチャラにしてあげていいかなって思う。

 まぁこのコーチさんだけは最初も客観的だったから、真面目にダンジョン問題を考えているんだなぁってわかったし。


「でもまだ粗削りです。今回戦った相手もほぼ初見だったから澪奈部長達に色々教えてもらいながらでしたし」

「初見であれか……つくづく君の存在が特殊に思えてならないよ」

「そ、そんな事ないっす。みんなが協力したからできた事ですから」

 

 そう、今回の成果は俺だけの手柄じゃない。

 俺はただ戦術を伝えただけで、達成できたのはつくし達のおかげなんだ。

 みんなの特性があったからこその結果ってワケ。


 それだけのポテンシャルがあの三人にも――誰にでもあるからこそ。


「待ってくださいよコーチ! そいつらはねぇ、ズルをしてるんですよぉ!」

「「「ッ!?」」」


 なっ、楠!?


「どう考えたって変じゃないですかぁ! 僕達が今までに構築したダンジョン攻略論が覆されるのは! 四人で攻略!? ありえないでしょ! それをこいつらはインチキで演出したに過ぎないんですよぉ! だからこんなのは無効だあッ!」


 あいつ、まだ俺達の結果を認めていないのか!?

 目の前で有言実行してやったっていうのに!


「間宮ァ! お前のやった事は絶対に――」

「何言ってんだ楠? お前、さっきの戦い見てなかったのかよ?」

「――へ?」

「最初から最後まで理論尽くしの戦いだっただろうが。徹底的にクレバーに対応するあの様子が見てわからなかったのか?」

「ああ、あれのどこにズルしたっていう余地があるんだよ? どのやり方にしろ、誰でもできそうな事じゃんか」


 あれ……?

 楠の仲間達が俺達をかばってくれている?

 しかも最初に罵声を浴びせてきた二番目みたいな奴が率先して。


「地味だけどさ、カッコよかったよね」

「うん、アクションゲームの無駄のない無双プレイ動画を見たような感じだった」

「わかる! モンスターキャリバーのプロキャリの動きに通じるよな!」

「それそれ! 鮮やかでちょーすっきりするの!」

「う、うう……」


 しかも続いて他の人達もが楠に反論し始めたぞ……?

 例えはよくわからないけど、褒めてくれているっていうのだけはわかる。


「その通りだ楠。今のお前の発言はさすがに滑稽だろう。さきほどの戦いを見てわからないお前ではないはずだが?」

「そ、それは……」

「それと一つ、お前に言っておきたい事がある」

「え?」


 遂にはコーチまでが楠に反論を始めた。

 それも今度はすごくうなるようでなんだか怖い。さすが元軍人。


「ズルの何が悪い?」

「へ……?」

「ダンジョン攻略は遊びではない。国と国民を守るための大事な防衛手段だ。対戦ゲームとは訳が違う」

「あ……」

「ならばもし本当にズルやイカサマの手段があるなら徹底的に使うべきだ。まぁ今の戦いを見る限りだとただのでまかせに過ぎないのはわかりきっているがな。そうだろう、間宮君?」

「え、あ、そうっすね。俺もそう思います」


 め、面倒そうな話だから声は合わせておこう。

 まぁ徹底的に手段を講じるという所は同意するけど。


 彼等にはその気概が足りないだけなのだから。

 ダンジョンを安全に、確実に攻略するっていうね。


「し、しかしコーチ! それでも僕達ならもっと早くクリアできるでしょう!?」

「それもそうだな。なら俺達ならどれくらい早くクリアできると思う?」

「こんなの僕達なら三~四〇分もあれば余裕だろう!」

「言ったな楠」

「――え?」

「これを見ろ、間宮達のクリアタイムだ。二八分一七秒。お前が今宣言した見込み時間よりも少しだが上回っているんだぜ? あまりに鮮やか過ぎて気付かなかったか?」

「あ、ああ……」


 おあつらえ向きに時間まで計ってくれていたらしい。

 しかもそれが決定的な決着のソースになるなんて。


 攻略時間なんて時間制限がないから意味はないけど、効率化を目指す彼等にとってはよほど重要なんだろうな。

 特に、楠みたいな分からず屋にはこれ以上ない数字という証拠となるから。


「ってかそもそも、ウチらがゴブリンエリートに勝てる訳ないってば。倒してくれて助かったーまであるわ」

「……という訳だ楠。今回の宝春学園の動きは我々の今後の戦い方にも影響するほどに模範的だった。それを認められないお前に、我々プロチームにいる資格は無い」

「そ、そんな!? コ、コーチ、待ってください!」


 本当に決定的だったな。

 まさか楠がクビになるほどだったなんて。

 それだけ俺達の戦いが彼等にとって模範的だったって事か。照れる。


 でもいいのかな、楠みたいな強い奴をこんな易々とクビにして。

 いくらなんでも短絡的すぎやしないだろうか?

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