第13話 お前達は一体何と戦っている

 エース軍団にはまた捨て置かれたが、状況は好転している。

 数が売りのゴブリンも囲まれさえしなければ何とかなる相手だったらしい。


 それでも奴らはケガ人にさえ容赦なく襲い掛かるからタチが悪い。

 今も置いて行かれたエースメンバーの一人に飛び掛かろうとしている。


「ギィィィ!」

「い、いやあああ!」

「ばっかーん!」

「ギャオッ!?」


 けど彼等はつくしが防御に回っているから平気だ。

 もう錫杖は折れて見る影も無いけど、柄だけでも戦えているから問題無い。


「あ、ありがと……」

「回復、いる?」

「それはいらない」

「がーん!」


 まぁつくしの治癒術に関してはおおむね同意するけどな。

 とはいえ傍でボロボロで倒れている恋人らしき人をほっとくのもどうかと思う。


「つくし、面倒だからもう嫌でも回復してあげたらいいんじゃないか?」

「ぎょい! りふれいしょーん!」

「い、いやあああ! やっくんがまた漏らしちゃうぅぅぅ!」

「――ぐわああ! 腹が、腹がァァァ!!!!! アッ」


 死ぬよりはマシだろう。

 一度経験した事あるなら二度目も同じようなもんだ。


「つくしは同じ要領で倒れてる人をどんどん起こそう!」

「らじゃー! マナはいっぱいあるもんねー!」

「戦力にはならないけど死なせるよりはずっといい。マナを使い果たしても構わないから頼んだ!」

「えへへ、まっかせてよ!」


 他にもケガ人はいっぱいいる。

 放っておけば本当に死んでしまいかねないくらいの重傷の人も。

 それを放っておくのだけは人道的に見逃せない。


 全員を生きて帰すんだ。

 俺達も、我先にとボスと戦っている馬鹿共も。


「よしっ! これでおーわりっ!」

「っしゃあ! ゴブリン掃討完了だあ!」

「「「やったぁー!」」」


 幸い、こっちの準備はおおむね整った。

 あとはどうやってあのニワトリ巨人を倒すか、だけど――


「……彼方っち、どうしたん?」

「――いや、違う」

「えっ?」

「ダメだ、あれは……なんで、どうして戦っている!?」

「何言ってるんさ彼方っち!?」


 声だ、声が聞こえる。

 悲痛な声が。


 助けを求める必死な声が……!


「このクソ鶏野郎が!」

「コイツの筋肉かてぇ!」

『タスケテ』


 どうして戦い始めた!?


「うっげぇ!?」 

「マ、マサ――ぎゃぶッ!!」

『コワイ』


 どうしてこうなった!?


「ふっざけんなコイツ、か、勝てる気がしねぇ!」

「どっかに弱点が――あごっ!?」

『イタイ、クルシイ』


 なぜ戦おうと思った!?


「無理だ、こんなの無理だァ!」

「クソが、クソがクソがァァァっがぁぁぁ!?」

『モウヤメテ』


 お前達は一体なにと戦っている……!?


「ち、ちくしょう! こんな事でぇぇぇ! うわあああ!」

「あ、楠っち!?」

「ああーっ、エース逃げちゃったよ!?」


 俺が呆然としている間に、戦いはもうほぼ終わりかけていた。

 楠以外が全員叩き潰され、もう動く奴はいない。

 その楠も俺達を置いて一目散に逃げてしまった。


 そして血まみれになったニワトリ巨人が遠くから俺達をにらみ、殺意を露わにしていたのだ。


「フシュウウウウ……!」

「冗談でしょお!? くっ! つくし、モモっち、彼方っち! あーしが時間稼ぐからみんなを逃がしてえッ!!」


 奴が走って来る。

 それに合わせて澪奈部長も飛び出した。


「澪奈部長! そいつを攻撃しちゃだめだ!」

「ええッ!? そんな事言ったってムリィ!」

「くっ! みんな、ケガ人を連れて早くここから出ろ! まともにやり合える相手じゃない!」

「んなの見てわからぁ! ちくしょおーっ!」


 こうなるともうパニック状態だ。

 他のチームメンバーも倒れたケガ人を抱え、慌てて出口へ走り始める。


 だけどつくしもモモ先輩も残っていた。

 澪奈部長をサポートするために強化魔法を唱えているのか!?


「パイセンは置いていけないって!」

「澪奈ちゃんはやらせないんだから……フ、フヒヒッ!」

「部長は二人に任せよう……けど!」


 時間稼ぎはまだいい。

 だがケガ人は残り八人! その運び出す人手が全然足りない!


 このままじゃ手遅れになってしまう……!


「じょ、冗談ッ!? こんなの戦い続けられる訳ないっしょ!? うっわァ!?」


 しかも思ったより情勢も怪しい!

 あの素早い澪奈部長も攻撃をかわすので精一杯だなんて!


「みんないいから逃げ――あっ……がはッ!?」

「「「れ、澪奈ーーーッ!!」」」


 だがその時は予想より早く訪れてしまった。

 棍棒の先のトゲが澪奈部長の腹を叩き、弾き飛ばしてしまったのだ。


 部長の細い体が力無く転がっていく。

 剣も盾も落として、防具も消えた状態で。

 気絶してしまったのか、もうピクリとも動かない。


 そしてニワトリ巨人がそんな彼女の下へと容赦なく歩み寄っていく……!


「あ、ああ、ど、どうしよう、どうしよう澪奈先輩が……」

「そ、そんな、イヤ、イヤよ澪奈ちゃん……」


 もうつくしもモモ先輩も動けないようだった。

 目の前の脅威に怯え、声を震わせてしまって。


 ……それはもう仕方ない。

 あんなにヤバい奴が相手じゃさ、怖くなるのも無理はないよ。

 二人とも普通の女の子だし、ここまでよく頑張ったと思うくらいだ。


 ――だから、俺が行く。


 それは決して俺が男だからとか、秘策があるからとかいうチープな理由じゃない。

 たぶん、俺だけがあの声に気付いているから行くべきなんだ。

 最初からこうしていれば澪奈部長も傷付かずに済んだかもしれないのだから。


 その想いで、俺はニワトリ巨人の前に立ち塞がった。


「ギュエ!?」

「すいません澪奈部長、痛い目に合わせてしまって。すぐ助けますからちょっと待っててください」


 けど、拳は握らない。

 掌をかざして見せて、意思を伝えるだけでいいんだ。


『俺に敵意は無い。だからちょっと話を聞いてくれないだろうか?』


 敵意なんてこの相手に限っては必要ない。

 だっておそらくコイツは、最初から戦うつもりなんて無いのだから。

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