第12話 ダンジョンは、初めてなんだ

「ぶっちゃけ理解不能だわぁ……今さ、何が起きたん?」

「あたしもちょっとわかんない……」

「クヒ、クヒヒヒッ! 彼方こそまさしく魔王の再来よぉ!」


 残るゴブリンどもはすべて俺が瞬殺した。

 この程度なんて事は無い。

 なんとなくこのダンジョンとやらの仕組みが理解できたから。


 ただ、今の一方的な殲滅シーンはちょっと刺激が強かったらしい。

 戦闘中はつくし達も含め、みんなが絶句してしまっていたし。

 夢だと思っている奴もいるみたいで、頬をつねっている様子さえ見受けられた。


「お、お前、もしかして高レベル経験者なのか?」

「いや、初めてだよ。

「じょ、冗談だろ……!? 無職レベルまだ8なのに!?」

「ほんとだ、無職レベル8であれっておかしくない……?」

「む、無職……せめて拳術士とか言って欲しい!」


 でも戦いを終えたら落ち着いたもので、こうやって話し掛けて来る人も出てきた。

 中には安心しきってへたり込んだり、気絶する人もいるけれど。


 しかしこのまま悠長にしているつもりはない。

 俺達を置いて行った先行組を追いかけなければ。


「澪奈部長、先に進もう。ここにはもう敵はいないし」

「え!? あ、そうだねぇ~じゃあまだ戦える人はあーしらに付いてきてぇ! でも無理強いはしないからぁ。少しでも役立ちたい~って人はみんなで協力してボコーっだよぉ~!」

「よ、よし、俺は行く!」「私も行きます」

「僕はマナ回復間に合ったら」「ごめんなさい、自信無いから待ちます」


 声は様々だけど、みんなちゃんと答えてくれた。前向きな人が多くて助かる。

 もちろん残ると言われたって文句を返すつもりは無いさ。


「も、もしヤバくなったらアンタ、またさっきのアレやってくれるよな?」

「どうかな、俺はそこまで自分の活躍に固執してないし」

「冗談でしょ!? 君、その実力ならエースになれるよ間違いなく」

「興味無い。少なくとも人を蹴落としてナンボなエースなんてなりたくもない」

「言ってくれるよなぁ……でもカッコイイよお前」

「え……」


 ……不思議だな、嫌われるかと思っていたのに。

 でも今はみんな、なぜか俺に本物の笑顔を向けてくれている。


 今までに無い事で、なんだかとっても嬉しい。

 守って良かったって思えるくらいに。


「んじゃささっと行こ! じゃないとエース組に美味しいとこ持っていかれちゃうよぉ!」 

「「「おおー!」」」


 みんなの士気も上々。

 これならまだまだ全然戦えそうだ。

 混成チームになってはいるけど、一応は役割が成り立っているし。


 そこで澪奈部長が筆頭となって志願者全員を率いて奥へと進む。

 今度はそこまで長くないらしく、暗い通路の先にはもう明かりが差し込んでいた。


 そんな次の広間へ意気揚々と飛び出したのだが。


「えっ……嘘、でしょ……」


 先頭を走っていた澪奈部長がゆっくり立ち止まり、唖然と立ち尽くす。

 続く俺達も思わずその惨状に足を止めてしまった。


「エースチーム軍団が、半壊している……!?」


 入ったすぐ傍の地面には何人もの人が転がっている。

 誰しもうめき声を上げていたり、ピクリとも動かなかったり。


 少し先にはゴブリンらしき集団と戦うチームもいるが、多勢に無勢状態だ。

 後衛を真っ先に襲われ、今にも瓦解しそうになっている。


 ――だが、それよりもなによりも。


 俺はただ正面奥にいる存在に視線を奪われてならなかった。

 たった今も楠達が応戦している圧倒的存在に。


 そいつは言うなれば巨人。

 人の三倍ほどの背丈に、筋骨隆々な雄々しい肉体。

 だがその頭はまるでニワトリで、腕の先も翼だ。

 けど身丈ほどの巨大な棍棒を片手で持っている……!


 一体なんなんだ……あいつは!?


 そんな化け物が棍棒を軽々と振り回して楠達を蹂躙している。

 今も一人、ぐしゃりという鈍い音と共に吹き飛ばされ、地面に転がってしまった。


「て、低レベルチーム!? お、おいお前ら早く手を貸せェ!」

「!? そ、そうだ! みんな、まず小型の奴をやるよ!」

「「「お、おお!」」」


 呆気に取られていたのは俺達だけじゃなかったらしい。

 だからかゴブリンと戦っている奴等の声に気付き、やっとみんなが動き始めた。


「奥の化け物はエースが相手してるからこっちには来ない! あーしらは雑魚退治から!」

「よ、よぉし!」「やるぞーっ!」


 それでも抵抗があったみたいだから澪奈部長が掛け声で先導してくれた。

 さすが場数を踏んでいるだけあって冷静だ。


 それに彼女のカリスマもあるのだろう。

 だからか低レベルだなんて罵られてもかまわずゴブリン達を押し返し始めた。


 俺もまた小斧を使って地味に戦う事にしよう。

 変身のためにレベルを上げておきたいし!


「やっくんが動かないの! お願い誰か来てぇ!」

「あたしが来たぁー!」

「あ、アンタはいい! お腹壊すから!」

「がーん!」


 とはいえ、エース軍団の態度は相変わらずだ。

 せっかく助けに来てやったのに、まだ自分達の事ばかり考えて動いている。

 今もゴブリンの目が俺達に向いたとわかった途端、応戦していた奴らが奥に走り始めてしまった。


「どうして協力しようとしないんだ! 全員で体勢を立て直して――」

「知るかそんなもん! テメーらで雑魚やっとけ! 俺らが奴を倒すからよ!」

「やらせるかよ、あのボスはうちらのもんだ!」


 まったく、こいつらは……!

 ただ強いだけの脳筋で学習能力というものが無いのか!?


「もうほっとこ! あたしらで雑魚をやるんだ!」

「「「おお!」」」


 その代わり俺達混成チームの結束力が上がったけども。

 やっぱり理不尽だと思っていたんだろうな、みんな。


「けどどうしてあんなにランキングにこだわるんだ!? 馬鹿なのか!?」

「そりゃトップクラスになればさ! 色々待遇とか変わるんよっ!」

「それにボス倒さないと! ダンジョンコア硬くて普通に破壊できないし!」

「クソッ、面倒臭い制約ばかりでっ!」

「ククク、みんなランキングという闇に魅入られし罪人なのよ……!」


 その結束力のおかげで今ではゴブリンが弱く感じる。

 みんなでのコンビネーションが成立しているからだな!


 仲間と戦うならやっぱこうでなきゃ!

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