第14話 双星の神話

──かつて、この世界には永遠と続く闇が広がっていました。



いえ、それは世界と呼んでいいのか分かりません。そこにはなにもありませんでしたから。



そこに『命』の神様が光の種を蒔きました。



それは『星』のでした。



星はやがて大きな炎となり、それが冷やされ大きな海となり、やがて命が生まれていきました。



広大な闇の中に浮かぶ星々、それが今の世界です。


私たちが夜空を見上げるときに浮かぶ小さな光の粒、それらが命の神様の蒔いた種であり星々なのです。



そして、闇に浮かぶ光の一つが私たちの生きる地球なのです。



私たちの神様は闇の中に十四の星を作りました。



私たちの生きる『地球』



命の源たる海が広がる『海の星』



文明の源たる炎の力が満ちる『炎の星』



命を運ぶ風の力が満ちる『風の星』



命を育む大地の力が満ちる『大地の星』



光煌めく美の象徴たる『光の星』



静寂と平穏の象徴たる『夜の星』



心伝う言葉と音の象徴たる『空の星』



過去と現在と未来、時間を司る『時の星』



そして神々の象徴たる四つの『太陽』



そして、私たちと共に生まれ共に生きたもう一つの『地球』



かつては共に生きたもう一つの『地球』と私たちの『地球』はそれぞれ『みどりの星』『あおの星』と呼ばれていたのです。



ですがある時を境に蒼の星は忽然と私たちの生きた世界から姿を消してしまったのです。

そう、神々が永遠の眠りについた時を境にして──



◆◆◆◆◆◆◆



──この世界の命の始まりは『聖域』の中央に星の中心から生える世界樹でした。



世界樹は命の種である『星』から芽生えたものであり、『星』の子供とも言える存在でした。



世界樹はまず風を作り、大地を作り、海を作り、炎を生み出しました。



次に昼を作り、夜を作り、空間を作り、時間を作りました。



世界樹が作り出した『世界』はとても美しいものでした。



ですが、世界樹はこの世界の美しさだけでは心が満たされずこの美しさを共有できる『友達』を欲しがりました。



まず世界樹は、生き物を生み出しました。



海を悠々と泳ぐ魚、大地の王者たる獣、大空を駆け巡る鳥たち。次に、それらの生き物を支える妖精たち。



世界樹は世界に満ちる生き物たちに喜びました。



ですが、次第にお話が出来る仲間が欲しくなりました。



知恵を持ち、言葉を操る生き物……そう、それが私たち人間の祖先です。



はじめは脆く、弱い人間たちでしたが人間は知恵を持つため次第に道具を作るようになりました。



人間はどんどんと増え、やがては作物を育て、狩りを行えるまで進化していきました。



ですが、勢力を拡大し過ぎた人間は数を増やし過ぎてこの星を支配するに至ってしまいました。



やがて人間はこの世界に満ちる物質『クリアス』を自在に操る技法『魔導術』で、お互いに殺し合いをはじめるほど堕落してしまいます。



困り果てた世界樹は神様に相談しました。



神様はまるでこの時を待っていたように地球へと降り立ち、人間を捕らえ捕食し始めます。



人間たちはこれには大変困りました。ですが、人間は知恵と魔導術を持っていたため神様に対抗し始めます。



そこで生み出されたのが『黄昏の剣』でした。



黄昏の剣の威力は絶大であり、本来ならば死の概念を持たない神様ですら殺してしまえる業物です。



しかも、神々の肉体の大半はクリアスで構成されているため神を殺すほど人類はクリアスを手に入れられるのです。



人類は躍起になって神々を追い詰め、神々の大半を消滅させたのです。



黄昏の剣と人類を恐れた神々はまだ未成熟であった蒼の地球の人類を使い、碧の地球人類と戦争をさせました。



これを『双星代理戦争』と呼びます。



しかし、碧の地球人類は蒼の地球人類を説得しますが蒼の地球人類は神々の傀儡くぐつであったため聞く耳を持ちません。



そこで碧の地球人類は蒼の地球人類を別の星系へと飛ばすことを決めます。そうなれば神々の支配から逃れることが出来るからです。



そこで用いられたのが神々の遺骸となったクリアスの結晶を使った異空間魔導術です。



既に人類は時間と空間すら操るまでにクリアスの力を使いこなしていたのです。



蒼の地球を別の星系へと送り込んだ後、人類は神々に最後の戦いを挑みます。



神々もまた、人類への鉄槌を下すべく最後の力を振います。



鍛治神メンザースに作らせた終末の槍が碧の大地に降り注ぎ、人類の九割と地球環境を大きく狂わせてしまいます。



しかし、人類の技術の結晶である『魔剣』によって全ての神々は敗北してしまうのでした。

ですが始まりの魔剣であり最強の魔剣である黄昏の剣は主神の胸を貫くと同時に粉々に砕け散ってしまうのでした。



主神は永遠の眠りにつく際に魔剣を振るう人間に言いました。



「我々は碧の地球を滅ぼし、人間は神々を滅ぼした。私たちは誰に負けたのか分かるか? 我々は己の浅はかさと憎しみに屈したのだ」



魔剣を振るう戦士たちは大地へ戻ると己たちのしでかした事を振り返り、世界を傷つけた罪と神々を滅ぼした罪を永遠に胸に抱えることを誓います。



◆◆◆◆◆◆◆



 神々との争いによって崩壊した大地や汚染された環境を戻すのは困難を極めました。



何故なら神々との戦いにより世界樹が殺されてしまったからです。



世界樹が無ければ碧の星は死にゆくのを待つだけなのです。



ですが、そんな折に別の星系へと飛び立った蒼の地球の人々が時空を越えるゲートで大陸ごとやってきたのです。



蒼の地球の人々は自らを『エトランゼ』と呼び、自らが生まれ育った大地を空駆ける船と変えて旅を続けていたのです。



エトランゼは蒼の地球の世界樹の種を渡したのです。



エトランゼ達が言うには「これから先、蒼の地球には長い長い冬が来る。だから我々は新たな星を探しに行くつもりだ。この世界樹の種はいつか助けてくれた時の恩返しのつもりだ。大事に育ててほしい」と言い残し、どこかへ旅立っていきました。



碧の地球の人間たちは聖域に世界樹の種を植えました。

すると、芽を出しゆっくりと成長を始めています。



戦争によって枯れかけていた大地は活力を取り戻し、海には生命が溢れ、空は鳥たちが飛び回れるほど澄み、太陽が再び顔を出すようになりました。



◆◆◆◆◆◆◆



side:美咲小鳥



 私が本を閉じると、いくつか気になるところがあった。

そう、碧の地球……つまりこの星と蒼の地球の関連性だ。

どこまでが本当の話でどこまでが創作だか区別がつかないけど、蒼の星は恐らくだけど私の地球のことだ。



「けど、エトランゼって何? 大陸そのものを宇宙船に変えて旅をするなんてそんな無茶な」

「どうかしたの?」



エリナちゃんが私の顔を覗き込む。石鹸と湯気が私の鼻をくすぐる。

エリナちゃんは私が読書をしていたので先に寮の湯に浸かっていたのだ。



「あ、ああ……うん。ちょっと気になるところがあってさ」

「なに?」

「その、蒼の星からやってきたっていうエトランゼが『我々の星に長い冬が訪れる』って言ってたでしょ? それってどのくらい前の出来事なの?」

「うーん、何万年も前じゃないかな? だって、新しい世界樹に芽が出たばかりのお話でしょ? 今ほどの大きさになるのに何千年とかかったみたいだし、それ以降も一回文明が滅んでるんだよ?」

「えっ!?」



神々との戦いで一度文明が滅んでいるのに、またやらかしているのか人類。



「ほら、聞いた事ない? 召喚戦争って。 クリアスが枯渇するほどのエネルギーを使った大規模な世界大戦! あの頃の国はもう一つも残ってないし」

「そ、そうなんだ……」



この世界、物騒過ぎる。まあ、一度幸平に伝えておくべきだろう。

まあ、有名なお伽話みたいだし幸平もこの事について知っているかもしれない。

現状、唯一私たちとこの世界を繋ぐヒントなのだから。



「ところでさ、もうすぐ夏休みじゃない?」

「ああ、うん。夏休み入ったら勉強漬けだなあ」

「とはいえ、勉強期間中でもリフレッシュが必要だと思わない?」

「まあ、うん……」



遊びに行きたい!という事なのだろう。まあ、私もエリナちゃんとはもっと仲良くしたいと思うし、少し遊びに行くくらいなら全然付き合いたい。



「で、この間ラングレイ様と夏樹幸平くんが一緒に買い物をしてるところを見たんだけど……やっぱりカッコいいよね!」

「ああ、まあ、うん」



ラングレイさんは確かに美男子だ。青みがかったハーフプレートに鮮やかな赤毛が映える。

落ち着いた歳上の雰囲気とあどけなさの残る大きな青い瞳は個人的にポイント高め。



「小鳥ちゃんって、夏樹くんの事を好きなわけじゃないんだよね」

「!?」



私は嶋村くんのことが好き、とばかり噂になっているから幸平との仲について聞かれるとは思っていなかった。いや、完全に油断してた。



「う、うん……もちろん。付き合いこそかなり長いけど。もう、半ば家族っていうか」



いや、そこまでバッサリ否定することもないだろ。でも否定しておかないと、いつ幸平の耳に入るか分からない。

なんかラングレイさんの元で色んな修行してるみたいだけど、いつの間にか色んなアルバイトして街の便利屋みたいになってるし。

それだったら、まだ好きじゃないってスタンスでいた方が……いや、でも……。



「私ね、夏樹くんと一緒に夏休みをね、遊んでみたいんだ」

「えっ……!?」



私は思わずエリナちゃんの発言にたじろいでしまう。

エリナちゃんはいつも本を読んでいて、勉強ばかりしているイメージで、そんなに積極的なイメージがない。

仮に好きな男の子がいたとしても、遠くから見ているだけ……そうだと思っていた。



「だからね、小鳥ちゃん。一緒に夏樹くんを誘って、夏休み、してみない?」

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