第十五話 決闘

 あみで捕らえられ、どこへ運ばれていくのかも分からない中でも、ジェサーレは落ち着いていた。というのも、自分を運ぶ彼らのことを知っていたからだ。


 森を守る戦士の一族。

 顔を緑色に塗り、その上から赤や白で模様を描くのは、そのイェシリアダン族のシルシ。

 それは、ジェサーレにとって英雄王マリクの冒険で五本の指に入るくらい、大好きなくだりだった。

 だから、本の中でだけだが、知っているのだ。この後どうなるのか、どうすればいいのか。

 実際、ジェサーレは自分が実行できると信じて疑っていなかった。少なくとも今は。


 やがて二人と一匹は広場のような場所で降ろされた。その場所だけ土が平らで、草もほとんど生えていない。

 口をふさいでいた布切れも、手を縛っていたつるも外された。

 そして、ジェサーレたちの目の前にいるのは二人の男。

 一人は筋肉がムキムキとしていて、背も高い大男。顔は当然、緑色に塗られていて、赤と白の直線がおでこに一本ずつ入っている。

 もう一人は、大男とは対照的にほっそりとしていて背は二人と一匹を運んできた者たちと同じくらい。顔には白と緑が半分ずつ塗られたお面をかぶっていた。お面には細かい模様がられているようだが、二人の位置からはよく見えない。

 その大男は、お面の男と何やら話した後、とても大きく恐ろしい声でこう言った。


「お前たちが、我らの神聖な古代樹の森に踏み込もうとしているのは本当か?」


 その声に、セダもジャナンも芯から震えあがって、何も答えることができなかった。

 ジェサーレも震えていたが、それでも彼は頑張った。


「ほ、本当です。隠れ里のおさのケレムさんに頼まれて、悪い魔女を封じ込めている杭を確認しに来ました」

「それは本当か」

「本当です」


 ジェサーレも恐かった。とてもとても恐かった。

 だけど、勇気を振り絞って頑張った。ケレムに頼まれたことをやり遂げないと、きっとひどいことになると思っていたから。


「本当に本当か?」

「本当に本当です」


 大男はジェサーレをしばらく睨みつけていたが、ジェサーレに嘘をついている様子が見えないことから、再びお面の男と何やら話し、またジェサーレの方を向いて口を開いた。


「よし、分かった。お前がそれを真実だと言い張るならば、勇気を示してみせよ」

「何をすれば信じてもらえますか」

「決闘をしてもらう。お前、年はいくつだ?」

「じ、十四歳です」


 大男に聞かれてジェサーレが答えれば、お面の男が周囲に身振り手振りをし、やがて同じようなお面を着けた男の子が一人、ジェサーレの前に現れた。

 男の子の身長はジェサーレと同じくらいだが、体はジェサーレのようにふくよかではなく、引き締まっている。

 じきに二人の前にそれぞれ長い棒が放り投げられ、大男は「その棒で戦え」という。

 見ればその両端には布がぐるぐると巻かれていて、長さは身長よりも少し短いくらい。手にしたジェサーレは、ああ、やっぱり、と安堵あんどした。


「始め!」


 大男の合図で、ジェサーレとお面の男の子は棒を構え、お互いの距離を詰める。

 だけど、ジェサーレがいくらマリクにあこがれていようとも、武芸の訓練などしたことも受けたこともないのである。

 もこもこの髪の毛とふくよかな体を揺らして、一生懸命に棒を振り回すが、ときに避けられるまでもなく届かず、ときに相手の棒で簡単に防がれる。

 それでもジェサーレは諦めなかった。マリクのようになるのは今だと、棒を振り回し続けた。

 自分が魔法を使えるということも忘れて。

 いつしかジェサーレは疲れ果て、意識を失った。

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