34. 記憶石の使い方
あの後、私の言葉に納得してもらえて、リリア様は女性だけしか入れない修道院に入れられることに決まった。
一生出ることも、自ら命を絶つことも出来ないように監視されながら生きていくことになるという。
もちろん贅沢なんて許されなくて、毎朝祈りを捧げたら、心を清めるための修行をするらしい。
改心が認められたら多少の娯楽は認められるらしいけど、今までの贅沢な暮らしは絶対に出来なくなるから、苦しいはずだ。
私が経験したような飢えは無いみたいだけど、その代わり毎日厳しい修業が待っているらしい。
私を切りつけた処罰はこんな感じでまとまって、毒を盛ったことや力の詳しいことが分かったら、牢から移されることになっている。
「罪人リリアよ。何故サーシャ嬢に危害を加えようとした?」
「何度も言っている通り、とにかく腹立たしかったからですわ」
このことは、糾弾されているリリアには伝えられていない。
余裕そうな表情で適当なことを言えているのは、そのせいね……。
ちなみに、リリアが居るのは人ひとりが入れる大きさの檻で、王妃様と国王陛下、それに王女殿下が持っている鍵が揃わないと開かないようになっている。
他人を誘惑し、意のままに操れるかもしれない力の対策のためだ。
この場にいる騎士さんが女性ばかりなのも、そういうこと。
リリアに誘惑されなかった私のお兄様やアドルフ様もこの場に居るけれど、全体で見たら女性の方が目立っている。
「サーシャ、本当にリリアの記憶を覗くのか?」
「ええ。知りたいこともたくさんありますから」
ちなみに、リリアの記憶を覗くのは私と王女殿下に決まっている。
女性の記憶を男性が覗くのは色々と宜しくないということと、私の要望が受け入れられた形だ。
「そうか。だが、記憶を見ている間は意識が無くなると聞いている」
「何かあってもアドルフ様が守ってくださると信じていますから」
「ああ、任せてくれ。何があっても守る」
そう言って胸を張るアドルフ様。
顔を覗いてみると、瞳の奥には決意の光も見えた気がした。
こんな風に約束された経験はあまりないから、これだけでも魅力的に見えてしまうのよね……。
「ありがとうございます。これなら安心して記憶を見れますわ」
笑顔を浮かべてそんな言葉を返す私。
同じ頃、リリア様には記憶石が近付けられていって、檻の中に差し込まれた。
けれども、拘束はされていないリリア様はその記憶石を掴んで、床に叩きつけていた。
乾いた音と共に、割れた記憶石の破片が飛び散る。
この手の不思議な石は、粉々になってしまっても時間が経てば戻るようになっている。
でも、それだけの時間を待っていたら、移した記憶が見れなくなってしまうのよね……。
「なんでこんな危ないものを近付けられなきゃいけないのよ!?」
「処刑よりは良いだろう? 大人しくしろ」
「いやよ! こんな惨めな思いをするくらいなら処刑された方がマシよ!」
喚くリリア様には
食事を抜かれて雑草を食べることしか出来ない惨めな生活よりはずっと楽だと思うけれど……。
もしかしたら、リリア様には私の食事を抜いていた時の記憶は無いのかもしれないわね。
私とダリアが同じ夢を見ていたから、リリア様も同じ時間の夢を見ていると思っていたのだけど、予想は外れていたのかもしれない。
「一応、破片は集めた方が良いわよね……」
「そうだな。角で手を切らないように」
「切れても大丈夫よ」
「治せるかもしれないが、痛くなるだろう? 気を付けた方が良い」
アドルフ様の言葉に頷いてから、足元に転がっている大きめの破片を手に取る私。
そのとき、意識が一瞬だけ遠のいた。
身体が傾くのを感じたけれど、すぐに意識が戻る。
でも、何かがおかしいわ。
ここはさっきまで居た場所とは違う。
それに、どうして目の前に私――サーシャが居るのかしら?
ちらりと見えた姿見に映っているのは、リリア様の姿だった。
これって、リリア様の記憶なのかしら?
「リリア、今日も可愛いよ」
――どうやら、リリア様の記憶を見ているらしい。
口に出されていないはずの言葉――リリア様が考えていることも頭に流れてくる感じがするから、間違い無さそうね。
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