13. ダリアside 救えなかった人③
あれから1週間。
ついに恐れていた日が訪れてしまいました。
サーシャ様が産気付いたのです。
それだけなら、私だけの力で無事にお産を進めることが出来たでしょう。
けれども、リリア様がサーシャ様のお腹を押したのです。
その時を境に、サーシャ様の苦しみ方が変わってしまいました。
「サーシャ様、お水をお持ちしました。飲めますか……?」
「ありがとう」
とりあえず、サーシャ様のためにと用意したお水を手渡してから、オズワルド様とリリア様の方に向き直りました。
流石のオズワルド様も、子供が産まれる時になれば危機感を持つ……とは思えませんが、何もしないよりはマシでしょう。
「それから……旦那様とリリア様はここから出てください!」
「俺は夫なのにか?」
「その自覚があるならお医者様を呼んでください」
「私、お産について勉強したいわ」
「ダメです。サーシャ様に敵意のある方は入れさせられません」
「何よ、勝手に決めつけて!」
「オズワルド様の赤ちゃんを殺そうとしたこと、知ってますからね?」
リリア様に対しては、オズワルド様を引き合いに出せば言うことを聞いてもらえるはず。
その予想は当たっていたようで、大人しくサーシャから離れてくれました。
オズワルド様もこの状況を見て焦り始めたようで、部屋から飛び出していきました。
「サーシャ様、お待たせしてしまって申し訳ありません」
「大丈夫よ……」
それから、サーシャ様の私室に移動して、ベッドに横になってもらいました。
医学書に書いてあった体勢になってもらっても苦しそうな様子は変わりません。
最初ははっきりしていた意識も、少しずつ薄れているようでした。
これだけの血が流れているのだから、当然です。
傷を塞ぐにも、赤ちゃんの身体がある状態では手当なんて出来ませんから、早く出さないといけないのですが……。
「ごめんね……。私、もうダメかも……。
せめてこの子は無事に産んであげたかったわ」
体力が無くなっているサーシャ様には厳しいこと。
全力でお手伝いしても、状況は何も良くなりません。
「サーシャ様! しっかりしてください!」
「分かってるわ。でも、もう無理よ……。力が入らないの」
サーシャの手を握って声をかけます。
けれども私の手助けはどれも意味を成さなくて、サーシャ様は目を閉じてしまいました。
いくら声をかけても、身体を揺すっても。声を聞くことは叶いませんでした。
1時間後にお医者様が到着した時には何もかも手遅れで、涙が溢れてしまいました。
それからどれくらい経ったのか、すっかり外が暗くなった頃。
「うふふ、やっと死んだわね。これで全部私のものよ」
目を覚まさなくなったサーシャ様にリリア様が声をかけていました。
どうやら、サーシャ様を殺めるつもりだったのでしょうか?
「あら、貴女。まだいたのね?」
「すぐに去りますので、お構いなく」
これは予想ですが、リリア様はサーシャ様を一方的に恨んでいるようです。
接点は無かったはずなので、不思議に思ってしまいます。
「ダリアだったかな? 君の役目はもう終わりだから、帰って良い」
「承知しました。サーシャ様もお連れしますが、宜しいですか?」
「死んだ女のことで聞かなくていい。勝手にしろ」
オズワルド様は悲しんだ様子はなく、返ってきた言葉は冷たいものでした。
ここには私達の味方はいないのです。
◇ ◇ ◇
翌日。
サーシャ様をお連れしてオーフィリア邸に入ると、出迎えてくれた使用人達が固まってしまうのを感じました。
普段は笑顔を向けてくれる奥様からは表情が消えてしまっています。
「ダリア、サーシャは眠っているだけなのよね?」
「はい。ですが、もう目を覚ますことは無いと思います……」
「何があったのか、説明して頂戴」
奥様の震えた声に、この私は無言で頷くだけで精一杯でした。
思い通りに動けないこの悪夢は、いつになったら終わるのでしょうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます