夜ノ森さんは恋ができない
モールス信号機
第一話 「ああ、つまらない」
「…何やってんだろうなあ」
ベットの上で重たいまぶたを開きつつ、僕、朝野春人はそう呟いた。
五月の中旬。最近は夏の到来を早く感じられるようになった。春の穏やかな暖かさは過ぎ去り、ピリッと肌に刺さるような空気がアパートの一室に漂う。
午前九時。今日は対面による講義がないので大学に行く必要がない。ゆっくりと気だるげに僕は目を覚ました。コップ一杯の水を口に含み、僕の一日はスタートする。朝食は食べないときがほとんどだ。
「今日はオンラインの授業だけか…」
ノートパソコンを開いて今日の予定を確認する。こんな世の中なので、遠隔の授業も多くなっており、大学に行かなくてもいい日が週に何日かある。多くの大学生はその時間をアルバイト、サークル活動など自由に使っているのだ。
僕はアルバイトもしていなければサークルにも所属していない。僕には、目標というものが理解できなかった。親に言われるがまま法学系の大学に進学し、講義を受ける毎日。単位を落とすわけにはいかないので、それ相応の課題を提出してはいるが、それによって何かを学習したという感覚が一切ない。
「そりゃそうだろ、興味無いんだから」
頬杖をついて講義の動画を見ながら、そんなことを僕は呟いていた。
この日常に飽きていた。この先どうなるかなんて誰にも分からないのに、目標なんて立てられるものか。そんなことを大学入学当時からずっと考えていた。
課題を全て終わらせて、眠りにつく。今日は一歩も外出しなかった。誰とも関わらなかった。目指すべき目標も見つけられなかった。
お休みなさい、なんて言葉を言えるほど努力をしただろうか。朝野春人の一日は大抵この言葉で締め括られる。
「ああ、ほんと、つまらない」
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