第135話 「動揺と捜索」
花咲凛さんの迫力に思わずうなずいたけど、俺のまだ動けそうな気もする。
うんやっぱり動けるよな。
「休むんですよ? そもそもご主人様は裸のままどこへ行こうというんですか、わいせつ罪で普通に逮捕ですよ逮捕。そもそも瑞麗さんには服を着せて、なんでご自身が服を着ていないんですか?その上媚薬の効果を消すために頭を打ち付けたって漫画か何かの見過ぎです」
「いやでも──」
「──でももへったくれもないですから!瑞麗のことは私たちに任せて、キョウ様はさっさと休んでください………ッまずは治療ですいいですね」
気持ちが入ったのか、花咲凛さんにしては珍しく強い物言いだった。
いや気持ちが入ってるのはさっきからそうだ。
みんながいる前でも、”キョウ様”って呼んでしまっているし。
今の花咲凛さんはいつもと何かが違う。
「………」
思わぬ花咲凛さんの言葉に、他のみんなも呆気にとられた様子。
周囲の反応を察してか、花咲凛さんはすぐにはっとし頭を下げる。
「申し訳ございません、物言いが強くなってしまいました」
謝罪の言葉と共に、花咲凛さんが深々と頭を下げる。
誰もが微妙な空気の中、その空気を切り裂いたのはここにはいなかった人。
「そこのメイドちゃんの言う通りよ~、きょう………武田君はまず治療をしましょう──その間に大人たちが探しておくから」
「彩香っ………今帰ったの?……橘さん見なかった?」
「いえ見てないわね、入れ違いになったみたい………ごめんなさいね」
「そう、だけどまだ遠くには行っていないはずだから。まずはこの辺りを私と佐藤さん、それと宝生さんと黒川さんで手分けして探すことにしましょう………で、その間に彩香は御主人様の治療をお願い………それでいいかしら?」
俺としては異議を唱えたかったけど、花咲凛さんにジト目で見られていることに気付き口をつぐむ。
「………問題なさそうね、それで彼女の行きそうな所に心辺りってあるかしら」
莉緒さんの問いに、誰も発言できない。
橘さんと出かけたりしたことはあるけれど、彼女がどこの場所に行きそうとか、なにが好きかとか、そういうことをほとんど知らない。
「………私たちほとんど知らないですね、橘さんのこと」
ぽつりと、宝生さんが悲痛な声を漏らす。
「橘さんに限った話じゃないわ、………ここにいる私たちが、お互いのことをまだまだ知れてない。御主人様についてもそうだし紗耶香さんあなたについても。黒川さん、佐藤さん、それに彩香も。まだまだ知らないこといっぱいあるわ。だからこそこれから知っていけばいいのよ………家族ってそう言うものでしょう?」
「………先生」
紗耶香さんが少し目を見開く。
「………意外とまともなこと言うんですね………そういえば先生でしたか、最近すっかり忘れておりました。だけど意見には賛成です」
「け、喧嘩売ってるのかしら?」
「いえ素直な感想です」
莉緒さんの頬がぴくぴくと引きつっている。
それが一番喧嘩売ってるんじゃないかな?と思わなくもない。
でも正直治療されながら、俺もうっすらそう思ってしまったけど。
「お嬢様も素直じゃないですね」
「………まぁお互いをもっと知るためにも、まずは橘さんを見つけ出しましょー?彼女の移動手段は徒歩だろうし莉緒もいった通りそんな遠くには行っていないでしょう、早く動いた方がいいでしょー」
俺の頭の傷を消毒しながら彩香さんがそうまとめてくれる。
「分かりました。私も家の者に連絡をしておきます。彼女の実家前、また交通機関などを使えば連絡が入るようにしておきます。実家にいかせない、それを最優先にしましょう」
紗耶香さんの言う通りだ。
今は華恋さんより早く見つけないといけない。華恋さんが橘さんの失敗を知ったら何をするかわからない。
まぁ色仕掛けをするのにも行為の時間を考えても、ある程度の余裕はあるはずだけど。時間の猶予はあるはずだけど………不安なのはいつ失敗したと橘さんが華恋さんに連絡するかもわからないこと。
家に帰らせない、接触されないのが虐待を止める最適解。だから家の前で見張っておくのは悪くないはず。
「俺も少し休んだら行きますから」
紗耶香さん黒川さんのペア、花咲凛さん莉緒さんのペアでそれぞれ別方向へ探しに行く。
それを見ると俺も動き出したくなるけど──
「──恭弥君はだーめ」
彩香さんに考えを読まれており、機先を制された。
力を入れたはずなのに、なぜか身体が動かない。
ついでに言えば花咲凛さんも俺が歩こうとしても阻めるように位置している。
「恭弥君はちょっと休みましょう?………傷は浅いから大丈夫とは思うけど、頭を打ってるからね………
「………はい」
なんか自分で、のところをすごい強調されたんだけど、しかも満面の笑みで。
「お説教はあとにするとして、まずは横になりましょう」
流れるような動作で膝枕される俺。
寝ころんだ瞬間彩香さんのいい匂いがして、あとで説教されることもどうでもよくなる。
「少しは休めそう?」
「………」
「なんとかして休まないと、心を落ち着ける為にも休息は必要よ?無駄に焦ってもいい結果は招かないわ」
「………はい」
「眠らなくてもいいわ、目を閉じるだけ。それならできるでしょ?」
言われた通りに眼を閉じると、さっきまでのことが脳裏に浮かんでくる。
橘さんがなぜあんな事をしてきたのか、何がきっかけなのか。
彼女はどこにいったのか、みんなは見つめられただろうか。
そもそもなぜ彼女は俺の部屋に入れたのか。
鍵はかけていたはずなのに。
分からないことが多すぎる。
もう一つ違和感もあった。
花咲凛さんのこと。
いつもはクールな花咲凛さんが表面上こそいつもと同じだったけど、俺には少し動揺してるようにみえた。
いつもは言わない、少し強めな物言い。
感情が高ぶったのか、橘さんのことを瑞麗とも呼んでいた。………一線を引いたような言動が多い花咲凛さんがだ。
花咲凛さんは妹のためにメイドになった、って前電話で言ってたよな?
その彼女が怒りに我を忘れ、呼び捨てで呼ぶだろうか、それなら宝生さんと秋月さんの時にそうなってるはずだし。
何か特殊な関係があるのだろうか?
あの時俺を見てなにか、やるせないような表情を一瞬したのも気になる。
その一端は推察できるけど、でもすべてがわかっているわけじゃない。
そして花咲凛さんが俺に言わない、ということは言えない理由があるはずで。
目を閉じても思考はどんどんと突拍子もない考えが湧いて出てくる。
その大抵の考えは悪い方向に向いている訳で。
「あー………ッ?!」
ふと目に暖かみが宿った。
かいだことのある手の匂いだった。
「大丈夫よ、物事はいい方向に流れてくものなんだから、落ち着けばなんてことはないわー」
暖かみのある手だった。
どうやら彩香さんが手を置いてくれたらしい。
彼女の手のぬくもりと、匂いが俺の心を和ませる。
漠然と何とかなる、そんな気がした。
ふと気づけば俺は意識は失っていた。
目を開ければ目の前には白石さんの顔。
「………どれくらい寝てました?」
「30分もたたないんじゃない?………それより体調はどうかしら、気持ち悪かったり吐き気したりはしない?何か違和感とかそう言うのはない?」
「それは………ないです、大丈夫です」
ちょっと寝たからか、さっきよりも意識もはっきりしている。
「それは良かったわー」
「………橘さんは?」
無言で首を振る彩香さん。
「………そっか」
そう簡単に見つかるわけないか。
「俺らも探そう」
「………でも」
慌てて止めようとする彩香さん。
だけどちゃんと考えている。
「分かってる、だから車で探しに行こう、俺は助手席に乗っているからさ。それならいいでしょ?彩香さんも安心だし」
「………それならまぁ良くはないけど、許可します」
渋々という様子で頷く彩香さん。
「じゃあ車準備してくるからちょっと待ってて」
彩香さんはそのまま下へと降りていく。
待っているその間に、俺も一人の人物に連絡する。
本当は連絡するか迷った。だけど
「橘さんを一番知っている人に聞くべきだよな、………だって親友で彼女の理解者なんだから」
送る文章は簡潔に。
彼女が行きそうな場所を聞く必要があるから。
【橘さんがいなくなった、居場所に心辺りとかある?】
送ったのはその一文だけ。
メッセージを送ればすぐに既読がつき電話がかかってくる。
「瑞麗がいなくなったなら私も探すよ」
「いやでも──」
「──止めても無駄だよ、もう家出たから」
確かに時折風の音が聞こえてくる。
「状況を教えて」
聞くだけのつもりだったけど青山さんはもう引かないだろう。
探すのにも人手があったほうがいい。
「分かった、状況をはなすね」
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いつも読んでいただきありがとうございます。
前回の話よりサポーター様向けに、1話分先行公開しております。
サポーターになっていただいた方ありがとうございます。
こうしたのは長年サポートしていただいている方に何もできてないなぁということで先行公開を導入しました!
続きが気になりすぎる、という方はそちらを導入いただくのもありかもしれません笑
(無理はしないでください)
今後もSSみたいなものもサポーター様向けに書く予定です。どういった話が読みたいかなどあれば気軽に感想ください!
では次回136話で。
いつも読んでいただきありがとうございます!
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ではまた次回。
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