第97話  「俺と姉とメイドの密談」


 「覚悟は決まったって恭弥は言ったけど、実際この状況というか、問題もあやふやなままだけどそれを打開できるような解決策はあるの?」


 少し憂うような表情を浮かべる姉さん。

 そんな姉さんの問いに対して俺は1つ頷く。


 その顔を見て姉さんは少し顔を強ばらせた。

 あ、これ俺がなんて言うか分かってるな。


 「いや全然全く」


 「……そう言うと思った」

 

 姉さんの言うよ画期的な打開策なんてあったらとっくに実行して解決しているにきまってる。

 【そりゃそうか】と姉さんも困ったような顔をしてる。


 「でもその割に顔は余裕そうに見えるわよ」


 余裕そうな顔してるかな?俺。

 でも姉さんが言うならしてるんだろう。


 「そりゃ覚悟が決まったからね」


 「覚悟……ですか」


 神妙な顔で花咲凛さんが単語を反復してる。

 どうかしたのかな?普通のことだと思うけど。

 覚悟決まれば大抵何でもできる。


 「覚悟は大事よ、それをやるって決めたら命がけでやりきる不退転の覚悟は」


 姉さんの言う通り、俺らはじいちゃんにそう教えられて生きてきた。


 「解決するにもまずはやっぱり現状の整理はしておかないと。姉さんが言ったように今回は宝生さんの時とは違って、問題そのものが不明瞭だから明確にしないと前にも後ろにも進めない。俺としては、今回の問題いくつもの要素が重なり合ってより複雑になっていると思うん」


 「いくつもの要素が絡まりあって……ですか」


 「そう。今回の件は秋月さん白石さん二人の関係を中心として問題が乱立していて、その延長線上に秋月さんの両親の問題、さらに僕らを巻き込む計画をするユーチャリスが関わっているって感じだと思う」


 ここまでは実際の問題を並べただけ。

 ここからは個人の問題を順に考えていく、そうなったときにやっぱり取っかかりやすいのは秋月さんかな?


 「まずは秋月さんの問題。彼女の問題は、両親との不仲と白石さんとのカップル解消による精神の虚弱。言葉にするとこんな感じだよね?」


 「そこにキョウ様との許嫁破棄も重ねてのトリプルショックですね」


 「うーんそうかな?俺との件は秋月さんのメンタルにそこまで影響はなさそうだけど」


 俺のこと嫌いではなかったかもしれないけど別に好きでもなかったはずだけど。

 言っちゃえばどうでもいい存在ってくらいじゃないかな?そんな相手に何かしてメンタルに影響あるかな?


 「そうでしょうか……最初の許嫁投票の時だったらキョウ様の言う通りかもしれません。ですが良くも悪くも秋月様はキョウ様の人となりを知ってしまいました。キョウ様との許嫁破棄が決まってから、秋月様もキョウ様に優しくなられたでしょう? あんな対応、嫌いだったらまずしません。旅行にもいきません。そんな相手に対して不義理ともいえる行動をしていたのです。本人がそれを自覚しているかの有無にかかわらずダメージがあってもおかしくはありません……なんせ秋月さんはお優しいですから」


 秋月さんは分かりにくいけど案外優しいのは確かだ。


 「花咲凛ちゃんの言う通りかもね……それにさっき聞いた話だけど彼女のご両親はお堅い家の人なんでしょう?」


 秋月さんの両親は旧華族とか白石さんが言ってたな。

 男尊女卑的な考えというか前時代的な考え方が残っていると。


 俺が一つうなずくと姉さんは話を続ける。


 「なら理由はあるにせよ二股をしていた、ということも秋月さんの倫理観に罪悪感を与えている可能性は高いんじゃないかしら。もしかしたら同性と付き合うのもそうかも。だってどっちも今までの自分の考えを一度捨てるに近い行為よ?それが負担がないわけないと思うのよね~」


 自分を捨てるに近い……かぁ。

 確かに大きな変化だ。大きな変化は良くも悪くも疲弊はさせるからなぁ……。

 今回はそれが悪い方向に行っている可能性が高い、か……


 「そんな大きな変化をすてこれから共に生きていくと決意した相手に、それほどまでした相手に、あっさりと裏切られた。これは彼女がトリプルショックでふさぎ込んでもしょうがないかもね」


 もしかしたらひとつひとつの問題ならなんとか秋月さんも踏ん張れたかもしれない。だけど問題が津波のように押し寄せてきしまって処理が出来なくなったしきれなくなった。

 その結果精神が病んだ、柔道で言う合わせ技一本みたいな感じだよね。

 すぐに立ち直れないのは無理もない。


 「確かに厳しい状況だね。……でもこの秋月さんの問題の解決策としては、両親との関係改善と白石さんとの関係改善になってくるかな?」


 「出来たならそうだろうね~」

 

 美桜ねぇの言う通りできたら、と注釈がつく。言うは易く行うは難し。

 というかめちゃくちゃ難易度が高い。


 「秋月さんと秋月さんの両親は考え方が真逆だし妥協点を見つけづらい、また白石さんに関してはそもそもどこにいるかも分からないし。もし仮に見つかったとしてもその白石さんに関しては、何か別の問題を抱えている気もする」


 絶対に何かある気がする。

 でなきゃ白石さんがこんなちぐはぐなことするはずがないから。


 「何か問題ある気がするっていうのは、さっき恭弥が話していた、白石さん?が時間に追われていたりやることがあるって言ってたことから?」


 「そうだね。それが白石さんの問題に繋がっているんだろうけど……それが何なのかはさっぱり分からない」


 何かしら厄介ごとでそれはあの白石さんでも解決するのが難しいことなんだろう。


 「姉さんわかる?女の感的なあれで」


 俺にあきれたようなジト目を向ける姉さん。


 「わかるわけないよ? 今私話聞いてるだけなんだから、それこそ直接話した恭弥の方がわかるんじゃない?」


 「いやわからないけど……」


 そもそも姉さんは白石さんとあったりしてるわけですらないから分かるわけないよね。

 ただ一人花咲凛さんが少し考え込んでいる。

 考えがまとまったのか、花咲凛さんはゆっくりと話し始めた。


 「白石先生はNAZ機関の協力者でした」


 「……?うんそうらしいね」


 「ただ普通に考えて政府が一般のメンターを協力者として選ぶことはあり得ません。それにユーチャリスの件から考えてもそうです。ユーチャリスの目的はキョウ様のハーレムの破壊を足掛かりとした許嫁制度自体の崩壊です。そんな秘密組織が裏工作なりを普通の一般人に任せるとは思えません。ならばプロを呼ぶはずです。私もNAZ機関のプログラムで育ちそこで様々な技能を学びました。ただ私は白石さんのことを上司に言われるまで知りませんでした。一つ考えられるのは彼女もまたメイドとしての育成プログラムの人間ではないか、ということです」


 花咲凛さんの言う通りなら、秋月さんの親のことなど事細かに知っていたり、それこそ保健医とは思えないほどの様々な情報を知っていたことにも納得はいく。

 いやでもちょっと待て。


 「ということは白石さんもNAZ機関のもの?でもそれだと花咲凛さんが知らないのはおかしいんじゃない?」


 「いえ育成プログラムとはいっても一つの場所だけでやってるわけではありません。何個も別の組織が下請けとして運営しておりますので」


 なら知らなくてもしょうがないのか。


 「なら白石さんのトラブルはNAZ機関関連のことかもしれない、と?」


 全く手掛かりもなかったところに少し光明が差した気がする。

 秋月さんの問題をちゃんと解決するには白石さんのことをもっと知らないとできそうにないから予想がついただけでもかなりの進歩だ。


 「はい、なのでこの件は私で少し調べてまいります」


 白石さんの問題はそうするしかない。


 「宝生家の力も頼ってみるのもありだよ。多分宝生家は宝生家で情報を抑えようとしているはずだから、白石さんのことは一緒に連携を取った方がいい。なるべく早めに情報が欲しいな」


 すでに後手に回っている状態だ。

 白石さんも焦っていそうな気配もしたし。


 「承知しました、できる限り早くお持ちします」

 

 花咲凛さんが一礼する。


 「頼んだよ。ユーチャリスに対しては正直今はできることはないね歯がゆい思いだけど。いかんせん情報が足りなすぎる」


 この辺の結論は前回自宅で話した時と対して変わりはない。

 今は、何もしない。


 「ご両親の件に関してはどうするの?」


 「うーんどうするって言われてもね……」


 今のところ両者の意見が衝突してるっぽいからな。

 今秋月さんと会わせてもあまりいい結果にはならない気がする。


 「本当に対立してるのかな?」


 「え?」


 「だってそうじゃない? あくまで恭弥が話したのは秋月さんだけでしょう? 話も又聞きの状態。一度ちゃんと恭弥がご両親と話してみるのもありなんじゃない?」


 確かに姉さんの言う通り実際俺自身は遠目でしか見てないもんな。


 「こういうのはすれ違っているみたいなケースもあり得るからさ。一度確認しておくのも悪くないんじゃないかな」


 確かに偏見とか先入観で考えてたな。

 百聞は一見に如かずともいうしね。

 

 「……そうだね、この問題を解決するためにも一度会っておくべきか」


 「ちょうど相手のご両親から今回の件について謝罪したいと連絡が来てますおりますのでそれに返答する形にしましょうか」


 花咲凛さんに話を聞くと、うちあてに謝罪の連絡が来ていたらしい。

 こないだは怒り心頭で出て行ったけど自宅に戻って冷静に考えたとかなのかな>

 

 「わざわざ連絡してくるあたり、ちゃんとしていそうだね」


 俺も美桜ねぇと同意見だ。

 秋月さんが言うほど変な人というか前時代的な人とは思えない。


 ご両親は一度会って話してみるしかない。


 「あとは秋月さん本人が立ち直れるか、そもそも秋月さんがどうしたいのかって言うのをはっきりさせないと」


 「そうですね、それによっては場を収めるのか、新しい道に進むのか、それで考え方は変わってきますから」


 今回の件で忘れちゃいけないのは、大事なのは俺の意志じゃない、秋月さんがどうしたいか、という意志なこと。


 「俺らはその下準備をできる限りしておこうかな?そのためにも姉さん……」


 「わかっているよー、私が秋月莉緒さんの健康状態とか確認してなんとか話せるようにすればいいんだよね?」


 「うん病院から出てもらうことになっちゃうから申し訳ないけどお願いしたい、あ全然無理はしなくていいからというかしないでお願い」


 昔からやせ我慢する癖があるからな。

 もう目の前で倒れられたりするのは御免だ。

 

 俺の顔があまりにも迫真過ぎたのか、姉さんは苦笑してる


 「大丈夫よ。ここ最近すごく体調いいから、なんなら元気が有り余っているくらい」


 美桜ねぇはこぶしを握り締めて、いかにも元気ですと朗らかに笑う。

 でもそんな笑顔をみるとまた無茶をするんじゃないか、と逆に不安にもなる。


 「本当に大丈夫だって!とりあえずの問題はそれ位かな?」


 話を逸らすかのように強引に秋月さんの問題に戻したな美桜ねぇ。


 「……そうだね。まぁまずは秋月さんの様子を確かめてもらうのと白石さんのこと、お願いね」


 そうなると俺にできることって最初なんもないな。

 お願いするだけだ。

 

 「……それにしても今回の話聞いて改めて思ったけど、恭弥はほんといい子をメイドにしたよねぇ」


 美桜ねぇが花咲凛さんをぎゅっと抱きしめて身体を寄せている。

 百合だ、なんかいいね。


 「それはほんとにそう思う」


 美桜ねぇの意見に全面同意だ。

 

 「いえそんな滅相もない……」


 対して花咲凛さんは、クールな顔で申し訳なさそうに否定してる。

 

 「そんなことあるよー。あの恭弥との阿吽の呼吸みたいな感じ?私が思わず嫉妬しそうになっちゃったもん。でもうーんさっきは家族みたいな気持ちって言ったけど、実際にこんないい子だと花咲凛ちゃんもお嫁に来てもらって本当の家族にしたくなっちゃうわよね~」


 悩ましいわー、みたいな感じで姉さんがなんかすごいことを言い出した気がする。

 

 「いえ私にそんな資格は……」

 

 儚げに話す花咲凛さん。

 だけどうちの美桜ねぇの暴走はそんなことじゃ止まらない。


 「資格とかないわよ、もし心配なら私が太鼓判押してあげるわ。恭弥の奥さんになる資格、いやうーん逆かな?恭弥が花咲凛ちゃんの旦那になる資格あるわ。……でも待って。だけどそうなったら私も義理の姉で書類上は他人になっちゃってるのね?……どうせなら私も恭弥の奥さんにしない? というかもうなんなら白石さんも秋月さんも、全世界の女の子お嫁にしちゃえば ?なんかそれで解決しないかな?世界の問題。世界平和にならない?」


 なんか姉さんがすごい突拍子もないことを言い始めたんだけど。

 これには花咲凛さんも苦笑してる。


 「みんなとキョウ様が結婚ですか、ふふそれなら世界は幸せになるかもしれませんね」


 とうとう花咲凛さんも美桜ねぇの暴走機関車に乗り始めちゃった。

 

 「そんなことになったら俺の胃がストレスでやられちゃうよ」


 想像するのも怖い。

 すぐにストレスで胃が穴だらけになりそう。


 「その時は私がまたフォローしますよ」


 「私も笑顔で見守ってるわ?あ、もちろん私は正妻ねー」


 それじゃ家のトップは美桜ねぇのままじゃん。


 「それ前とあんま変わらなくない?」


 姉さんと一緒に過ごしてた時は姉さんに振り回されることもままあった。というかほとんどだった


 「変わらないかもねー」


 あの頃はじいちゃんがいて俺がいて姉さんがいた。

 今はじいちゃんは死んでしまったけど、他にも花咲凛さんとか宝生さんとか他の人たちもいる。


 「そうなったら今まで以上に騒がしくなりそうだね」


 「そうですね」


 「そうだね……そんな輝かしい光ある未来のためにもまずは秋月さんのメンタルケアから始めよっか」


 「あと姉さんは元気になることも追加でね?」


 「はいはい、早く姉さんと一緒に生活したいもんねぇ恭弥はこのシスコーン」


 からかうような笑みを浮かべてくる美桜ねぇ。


 「うん俺はしたいよ」


 だけど素直に答える。

 だって紛れもなくそれは俺の本心だから。


 「姉さんに病院は似合わないよ」


 「そうよねもうちょっと待ってて絶対治すから」


 いままでにない力強い言葉だった。

 うんやっぱり昔の姉さんがちょっとずつ戻ってきた。


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