第96話 「姉と覚悟」
花咲凛さん、姉と話してて解決策
どっちも嫁にすれば案
「いらっしゃい」
いつも通り姉さんは暖かい笑顔を浮かべて俺らを病室へと導いてくれる。
病室に入って早々に……
「また恭弥は複雑そうな表情してるねー」
にやにやとしながらすぐにこちらの感情を見抜いてくる美桜ねぇ。
これだから姉さんにはかなわない。ただ負けっぱなしっていうのも癪なので……
「そういう複雑な感情が男性の渋さに繋がってくるんだよ?成熟した大人の色気的なやつだよ?」
「渋い感じもいいけど、恭弥にはまだ早いでしょ?高校生のうちは瑞々しい若さで勝負すべきじゃない?」
確かにごもっとも。
精神年齢だけは30年以上過ぎてるんだけどね。
「ほらいつまで花咲凛ちゃんを立たせててもしょうがないでしょう?こっちきて座りなさい」
ポンポンと自分の横を叩く美桜ねぇ。
「いや普通に椅子に」
「こっちよね?」
姉さんの顔は表情こそ笑ってるのに目が笑っていない。
「はぁ」
こういう時姉さんは譲らないの。なんならここで譲っておかないと、要求がもっと過激になったりするのを身に染みて覚えている。
渋々姉さんの隣に座る。
「よくできましたー!」
昔みたいに俺の頭を撫でようとしたのでさすがにそれは遠慮する。
俺の反応に【むー】と少し膨れ面をしているけどなでなではさせない。
さすがに花咲凛さんの前でそれは恥ずかしい。
「お二人とも仲が良くていいですね」
花咲凛さんが病室の前で笑顔を浮かべてる。
「花咲凛ちゃんもなにしてるの?こっちくるんだよ?」
「え?」
「ほらはやくはやく」
ぱんぱんと姉さんは俺が座っていない側の方をたたく。
花咲凛さんにそこに座れって暗に言ってるな。
「しかしここは家族水入らずで──」
「何言ってるの? 花咲凛ちゃんももう家族でしょ?」
「いや、え、でも……失礼します」
花咲凛さんの戸惑いがこっちまで伝わってくる。
圧に負けて花咲凛さんが姉さんの横へ遠慮気味に座る。
「前に話したかもしれないけどね、私と恭弥って血はつながってないの。でも血のつながりが家族のすべてじゃないと私は思ってる。だからだれが何と言おうと花咲凛ちゃんも家族だと思ってる……花咲凛ちゃんが嫌じゃなきゃだけど?」
「そんな嫌だなんて……美桜さんにそういってもらえてうれしいです。私なんかに言っていただくのは不釣り合いな気もいたしますが」
「不釣り合いとかそんことないよ。それを言ったら俺だってハーレム制度なんて不釣り合いだと思ってるし」
「いえキョウ様はぴったりですよ?そういうところ」
「そうね花咲凛ちゃんの言う通り恭弥にはピッタリよ?女の子を誑し込むところ」
なんか急に流れ弾飛んできたな?
それに俺は人を誑し込んだりしてないよ。
「でも恭弥も言ったように釣り合う釣り合わないなんてないわよ。その理論で言ったら私も恭弥には迷惑かけてるし花咲凛ちゃん以上に釣り合ってないでしょうし」
そんなことないよ、そう言おうとしたけど姉さんの言葉にはまだ続きがあった。
「引け目がもしあるのなら、だったら釣り合うようになればいいのよ……悲観的になっても何もいいことなんてないんだから」
そういう姉さんの言葉は重みがあった。
きっと病気で歯がゆい思いをたくさんしてきたはずだから。
でもそんな悲壮感を感じさせないよう姉さんの笑顔だった。
「今私は病気を一日でも早く完治させて、恭弥たちをなんとか幸せにしてあげたいの」
「すごい男前な発言じゃん」
「なんてたって恭弥の姉で、花咲凛ちゃんの家族だからね。花咲凛ちゃんはどう?」
優しいい顔だった。
「そうですね、じゃあ私もお二人に釣り合うように頑張ります」
花咲凛さんも薄く笑う。
そんな花咲凛さんの肩を抱きついでに俺の肩も抱いて抱きしめてくる姉さん。
昔も何かあればこうやってハグしてくれた。
気恥ずかしさとか色々あるけど、こうするとちゃんと姉さんと会ったそんな感じがした。
ハグをし続けてもいいが、今日は話したいこともある。
……それにしてもやっぱり姉さんを人の話を聞くのが上手いなぁ。
改めて思った。
自然と元の位置に戻ろうとしたけど姉さんがなかなか手を放してくれない。
「遅くなったけど、体調はだいぶよさそうだね? 姉さん」
なんとか姉さんの手を離したけど、恨みがましい視線を向けられる。
「うーん恭弥が反抗期みたい」
「そんなわけないじゃん……いつも姉さんに従順です」
逆らったことなんて一度としてない。
「ほらすぐ減らず口をたたく……まぁ体調はけっこういいかな」
「さっきのハグとかも力入ってたから俺は安心したよ」
「昔よりはないけど、ちょくちょく筋トレとかもしてるから戻ってきてるかな?」
アクティブだなぁ。……いや姉さんは昔からアクティブだったけど。
最近は病気のせいでなりを潜めてただけで。
「それで?相談したいことがあるんでしょう?恭弥の許嫁のことよね」
昨日ラインで伝えておいた。
「うん実は……」
秋月さんのことを概要と顛末を軽く話していく。
今の秋月さんの状態とかも含めて……
「……まぁ要はあなたの許嫁である秋月さんの様子を確認して、話し相手になってほしいってことだよね?」
「うんそゆこと」
「それは全然いいよー、確かに最後に会った後の後の様子が心配だものね」
姉さんなら断らないとは思ってたけど、これを継続していけばなんとか秋月さんのことは心配いらなそう。
そっからどうするかはわからないけど……。
とか考えていたら──
「──ただし一回だけよ?」
完全に思っていた通りにはならなかった。
「え?」
「私は白石さんのようなメンターでもないしただの一般人よ。確かに彼女の健康状態とかが心配だから行きはするけど、秋月さんのメンタルとかその後のことはまだ許嫁であるあなたがした方がいいわ、というかすべきよ」
すべき、か。
部外者に近い姉さんが出しゃばりすぎるのはよくないってことだよね。
「今は立場上許嫁なだけで、絶対に俺が助けなきゃいけない、というわけじゃないと思うんだよね。誰かが彼女の心を助けられればって」
「恭弥」
姉さんは俺の顔を真摯な目で見ている。
「言いたいことはわかるわ……厳しいことを言うけど、でも私もおじいちゃんもそんな風に恭弥を育ててないわよ?」
「……」
じいちゃんかぁ……。
「問題が複雑だからね、恭弥は自分が助けるべきなのかも葛藤しているのは分かっている。【自分が出る幕ではないんじゃないか】、とかそう思ってることも。でもその一方で心配でもあって、だから一週間手助けする理由があるからそれを頼りに今恭弥は動いてる。でも正直動き切れてない。今の恭弥はそんな感じよね?」
まさにそう。
姉さんの言うように自分から積極的に動けてない。
今してるのはあくまで問題に対して対症療法的に問題にあたっているだけだ。
根本的にどうにかしようとはしていない。それは今回の件はあくまで白石さんと秋月さんの恋人間の問題なんじゃ?と思ってるから。
根本的にどうにかしようとするならそもそもこんなこと起きないようにするべきだから。
「否定しないのは恭弥も自分でもわかっているのよね」
「しかしキョウ様は今も十分尽くしていらっしゃると思いますが……」
「花咲凛ちゃんの言う通りにやってるとは思う。けどね恭弥が動き出したらこんなもんじゃないわ。花咲凛ちゃんも見てたでしょうこないだの九頭竜の件。……今は完全にお行儀いい子ね」
「お行儀いい子……」
お行儀いい子かぁ。
自覚してるだけになんとも反論しづらい。
「ねぇ恭弥は秋月さんのこと好き?嫌い?」
「……嫌いじゃないよ」
「それね。恭弥が踏み切れない理由は」
「しかしそれなら前回宝生さんの問題の時も宝生様に対してキョウ様が抱いていた感情は「どちらかといえば好き」と思ってる程度で、そこは今回と似たようなものでしたよ」
暗に違うのでは?と花咲凛さんが話す。
だけどね違くないのは自分でもわかってる。
「似てるけどでもそれが違うのよ。感情は確かに似たようなものだけど、恭弥が介入する理由はあったの、私という明確に介入する存在が」
「美桜様の存在……なるほど確かに」
それだけで花咲凛さんも把握したらしい。
そうなのだ。前回は九頭竜に姉さんを馬鹿にされて、俺が完全ぷっちんしてた。
第一の怒りの動機はそこだったわけだ。
「ただ今回はそれがなく、それに白石さんという恋人の存在もあって秋月さんに対して完全に二の足を踏んでいる、ということですね」
「そゆこと、自分がどこまで動けばいいのか測りかねてる」
俺の心境を事細かに言われてしまった。
やっぱ姉さんにはかなわない。こんなに速攻で見抜かれるなんて。
「いい?恭弥。これから私はすごい理不尽なことを恭弥に言います、心して聞くように」
え、なんかすごい嫌な予感がする。
じいちゃんみたいな言い方だ。
「秋月さんは今はあなたの許嫁でしょう?過去になったとはいえ許嫁になっていたんでしょう?違うかしら」
「違くない」
「ならあなたに関わっていた人間よ。なくなったおじいちゃんよく言ってたわよね、【惚れた女を守れないで何が男だ!家族なら死んでも守って見せろ】って」
言ってた。
今の女性社会では珍しい考え方だった。
「恭弥は私を守ってくれたわ、宝生さんも守った。なら秋月さんのことも守りなさい。どこまで介入していいかなんて考える必要はないわ気にする必要ない。全部よ、全部守ってそのために邪魔なものは壊しちゃいなさい。【嫌がられるかもしれない】【相手の家庭の邪魔になるかもしれない】確かにそうかもしれない、でも救いなさい。遠慮なんてあなたには必要ない、だって秋月さんはあなたの家族になったんだから」
気にする必要はない、助けて当然か。
「そっか」
「そうよ?もし仮にミスっても一緒に私が私たちも謝るし隣にいるわ。昔からそうだったでしょう?」
「そうだったね」
悪さをした時は一緒に謝りに行った。
まぁ姉さんが悪いことをした時も俺も謝りに行ってたけど。
「少なくとも私はお行儀良い恭弥に助けられたわけじゃない。恭弥がお行儀良かったらもう一つのおじいちゃんとの約束破ってないでしょう?」
「……そうだったね」
じいちゃんは【一人の女を愛せ】とか言ってたもんな。
それは美桜ねぇを助けるために早々に諦めたけど。
「まぁ私はお行儀いい恭弥も悪い恭弥も好きだけどね……私はもう一度人を助ける恭弥のかっこいいところ見てみたいな」
精神論だけじゃなくて、こっちの気分が上がるようにわかりやすくおだててくる。
だけど俺はそんな姉の期待にこたえたい。
「私もサポートならいくらでも致します、だから好きにしてください」
花咲凛さんに誇りたい。
二人が微笑みかけてくる。
わかりやすい励ましの言葉だ。
そっか。
そうだよな。
「男、だもんな」
「そう、あなたは武田の男。しかも彼女たちの、複数の女の旦那さんになる予定なんでしょう?」
「うん」
「なら助けて見せなさい、これくらい余裕で解決しなさい。ついでに全員嫁にするくらい、いいなさい」
「嫁に全員するは言いすぎだね?」
最後の言葉はさすがに冗談だろうけど、でもただ助けるだけじゃなくて余裕で、か。
思わず苦笑してしまう。
「姉さんは厳しいこと言うね」
「だから最初に言ったじゃない?【無茶を言うわよ】って。知ってるでしょ? 私が意外とわがままなのを」
どうやら姉さんは元気になってきて性格も昔のようにアクティブになってきたらしい。
「知ってるよ昔からずっと」
なんだかこの感じも懐かしい。昔はこうやってよくしかられた。
「……でも二人のおかげで覚悟が決まった」
やるときめたらもやっとしていた気持ちが晴れてきた。
今回の件実は腹立つことが結構あったんだよね、言わなかっただけで。
そういうの全部ぶち壊してやろう。
「……キョウ様悪い笑顔してますね」
「いいわね恭弥、かっこいい!」
花咲凛さんは苦笑、姉さんは逆に輝くような笑顔を浮かべてる。
こうやってよく俺は姉さんに乗せられてたな。それをじいちゃんが止めてた。
でも今回は人助けだから。
「お二人は本物の家族以上に姉弟ですね、世間では血がつながって仲が悪い人達だっているっていうのに」
花咲凛さんが何かに納得したようにうなずいている。
まぁいいや、もう俺の覚悟は決まった。
「勝手に俺が全員助けて敵は許さない!異論は受け付けない」
誰かに対していったわけじゃない。
これは俺の自分自身に対する宣言だ。
「いきなり暴君みたいなこと言いましたね美桜さん」
「ね、せめて異論は聞いてあげて欲しいよね」
人が覚悟決めてるのに茶々挟まないでくれないかな?
なんかいきなり梯子外された感じだ。
姉とメイドの仲が良すぎて、正直尻に敷かれる未来しか見えない。
けどひとまず俺の覚悟は決まった。
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そろそろ攻勢に出る時間だよね?
いつも読んでいただきありがとうございます。
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