第24話 「一人目の婚約者」SIDE悪役令嬢
「高遠……さん」
目の前には小柄な男性がいた。
身長は2年前と変わらず、男らしさ、というよりは、よく言えば可愛い系というか小動物系というか、悪く言えばなよなよしているそんな男。
「……久しぶり、かな」
「ええ久しぶりですね」
さっきまでの高揚が冷めていくのを感じる。
「もうあの時から2年以上、経ったんだね」
「ええ、経ちましたね」
「……元気にしていた?」
「ほどほどに」
「そうなんだ、それは良かった」
よかった。
よかった、ですか?
へぇ。
「何が良かったのですか?」
「え……?」
眼を丸く驚いた様子の彼。
はぁ、何も変わってはいなそうですね。
「え、ではなくて。何がよかったのか、と聞いているのですけど」
「き、君が元気でいることが、だよ?」
「なぜ自分から婚約破棄した私の心配を?あなたにはもう関係のない人間でしょう?」
「そ、それはそうだけど、でも心配することはダメ?」
あぁ変わってないな、と思った。
昔と同じで何も成長してない。
どこまでも気弱で自信なさげで、場当たり的な言葉しか発さない。
悪い人ではないのかもしれない。
ただ私と根本的にあわない。
「まぁいいか悪いかだけで言えば」
「うん」
昔の私ならば、許嫁だから、この人の良い所を伸ばそう、と肯定してあげただろう。
だけど今の私は、
「悪いですね」
「なっ?!」
愕然とした様子の男。
そんな答えをいわれることは想定していなかったのだろう。
だけど甘いとしか思えない。
あまり私を、宝生紗耶香を舐めないでほしい。
あくまであの頃の私は取り繕っていただけだから。
「特段話すこともないようでしたら、これでいいですか? 私はあなたと話したいわけではないので」
「…………あっ」
「何か?」
この男は何かに慌てたように、声を出す。
だが少し待っても、何かを躊躇するようにもじもじとする。
前からそうだった。
昔の私は根気強く待っていた。
「…………あ、あの――」
「――話もないようなのでこれで」
「えっ」
ただ今の私はこの男にそんなことをしてあげる必要はない。
スマホを取り出し、あの男性に連絡をし、この場を離れようとする──が一歩遅かった。
「…………流石にそこで帰るのは酷くないか?」
「…………」
「おいおい、ちょっと待てって」
無視して帰ろうとした私の前に立ちふさがる一人の男性。
「邪魔なんですけど?」
「そんなに邪険にすることもないだろう? ほら元婚約者のよしな、みたいなやつで」
にやにやとこちらを見下ろしてくる男。見たくもなかった。
「よく言いますね、それをぶち壊した本人が。どの顔下げて言っているのか」
名前は知らない。
ただ顔は覚えている。
忘れるわけもない。
「……それを言われると痛いが。まぁ聞いてやれよ。それとも宝生さんは過去のことを気にして、人の話を聞かないほど狭量なのか?」
賢しらぶって皮肉を言ってくるがどうでもいい、というかただただめんどう。
しかも二人とも前と後ろで挟み込んでいて、なかなか動きづらいし。
「話を聞いてほしいという割に、身体でブロックしてくるという実力行使に出ているのは……矛盾ではなくて?」
今の世の中、男性に有利な世の中だ。
変に押しのけたり出来ないのが憎らしい。
「それくらい君と話したい、って我々の思いということだ」
「そうですか、まぁ狭量な私でも下等動物に対する優しさは持っています。ほら、優しくいってあげてるんですから、あなた達のような人の皮をした礼儀も知らない、ナニカはおうちに帰りなさい、あれまだ帰るおうちってあるんでしたっけ?ちょっと忘れちゃって」
私は今どんな顔をしているだろう。
でもたぶんきっと悪い顔だ。
「きさまッ」
すぐに顔を真っ赤にしこちらへとつかみかかろうとする、ナニカ。
それに対して反撃しようとして、間に誰かはいってきて中断する。
「…………黒川」
「失礼しますお嬢様。どこぞの野犬に絡まれている、とお見受けしましたので」
まぁ黒川がきても不思議はない。
私が男性と出かける、と分かっていて、来ない訳がない。
この高遠と、もう一人の事があったから。
「黒川、それは犬に対して失礼よ、訂正なさい」
「これは失礼いたしました。人の形をしたナニカ、でございますか」
「それでいいとおもうわ」
淡々とと相手にも聞こえるよう会話していく。
大柄な方は、顔をこれでもかと真っ赤にし、大して高遠はあわわとしながらも時折こちらに怪訝な顔をする。
「話を聞いてほしい、っていうことらしいのだけどこれきく意味あるのかしら?」
「ないと思いますけどね?お嬢様とこちらの方は他人ですし」
「誠一君……」
すがるように、私の前に立つ男をみる高遠。
困ったときは誰かだより、ね。ここも昔と変わらない。
「…………お前はこんな口が悪く、愛想のない女と結婚して人生を棒に振らず、俺と愛し合えて本当に良かったな」
「うん」
私の悪口を言って、溜飲をすこしは下げたのか、落ち着き始める。
まぁ相手が落ち着いた代わりに黒川がかなり怒っている。
私が止めなければ半殺しにしそうなくらいには。
「そう心配そうな顔をするなよ、コウ。おれは冷静だよ、うん目的は覚えている」
「うん、誠一君!」
あぁ思い出した。
そうだ、誠一、
元々は、高遠の友人と私に言って紹介して来たんだった。
名がこれほどまでに矛盾することもないだろう。
「そんな絶望的なあんたにとっていい話をもってきたじゃないんだよ」
「はぁ行きましょう」
「俺がお前の旦那になろう!!」
彼を避けて、歩き出そうとしたところで、進路をふさぐようにそんなことを言いながら言う。
「…………は?」
そして唐突にあまりに訳のわからないことを言い放つ目の前の男に思わず立ち止まってしまった。
「あぁあまりに、嬉しすぎて聞き取れなかったのか、ならばもう一度言おうか」
3回は言わないから、良く聞けよ、と居丈高に同じセリフを言う。
「俺がお前の旦那になろう、無論側室、というかたちではあるけどな」
何をどうしたらそう言う発言になるのか、本当にこの人の頭の構造が分からない。
もう怒り、というよりは呆れだろうか。
「貴様、お嬢様のことを馬鹿にしているのか?」
黒川の方が怒り心頭で。
「いい話だろう?聞けばこの間もそこの女は、婚約破棄されたらしいじゃないか。まぁそれはそうだ愛想もなにもなく口は悪い、男を立てることも出来ない。今度もまたそうなるであろう、2度あることは3度ある、というしな」
にやにやと気色悪い笑みを浮かべている。
そんな台詞で、果たしてこちらがうなずくとでも思っているのか。
こんな男のどこに、心酔する要素があるのか、きいてみたいわ。
「あぁ、俺が3度目の許嫁補になっている男を取るのも一興か?」
言われっぱなしも癪ですね。
「恥知らずにもほどがあるようですね。親の心子知らずとはこういうことを言うんですかね。あなたがたの両親たちが頭をこすりつけたからこそ、会社としても売り上げ50パーセント減る程度で済んだというのに。はぁこれだから知能の低い人間というのは度し難い、あなた達の両親の不幸はあなた達を生んだことですかね」
「このアマっ!俺たち男という希少な人種に対して!」
頭に血が上ったのか、そう詰め寄ってくる。
「お嬢様」
「誠一君!」
一触即発、みたいな状況。
場が破裂する、そんな時。
「あ、お巡りさん、こっちです!!喧嘩が起きてまーす!」
そんな声とともに警察のサイレンの音も聞こえてくる。
「ちっ、一回帰るぞ」
「う、うん」
二人は音を聞くと一目散に近くの車に乗り込んでいく。
逃げ足は相変わらずはやいことで。
「はぁ」
「お嬢様、私たちも」
問題になるのは醜聞が悪いとでも思ったのだろう。
この場を離れるように提案してくる。
でも彼を待つ時間くらいは大丈夫でしょう。
「大丈夫ですか宝生さん、黒川さんっ!」
息せき切って走り寄ってくる一人の男性。
だってその声は聞き覚えがあったもの。
「ええ」
「恭弥様でしたか、これは失礼いたしました」
黒川もそれで気づいたのか、一歩足を引く。
「ひとまずは別の場所に移動しましょう、ちょっと目立ってしまったわ」
公園とはいえ、ある程度人はいる。
「分かりました」
そう言って場所を移動。
それにしてもなんであの二人はこの場所に……
──────────────────────
遅くなりました!
明日から海外なので更新できるかわかりませんが。
更新してたらほめてください笑
一旦悪役令嬢サイドはこれで終わりです。
沢山のフォローと応援ありがとうございます。
ギフト等も励みになります!
時間があれば、下の☆ボタンで評価していただけたら幸いです。
忘れちゃってる方もいるかもしれないので一応…………
なにかわかりづらいところとかあったらお気軽にコメントしてください。
応援ボタンなどもぜひお願いします!!全部がモチベになります!!
本音を言えば、ランキングに入りたい、トップ10!!
ぜひよろしくお願いいたします。
それでは!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます