第5話 「日本少子化対策重婚法推進委員会第3課許嫁機関」


 姉さんの眼は怖かった。

 本当にもう怖かった。


 それこそ思わず正座してしまうくらいには。


 「…………事情は分かったわ、分かったけど。…………ごめんなさい、全部私の為だったのね」


 姉さんが悲し気に目を伏せる。

 ちがう、そうじゃない。


 「いやそれもあるけど、俺としてもメリットがあるって思ったから。この制度を受け入れるだけで、生活の補助をするメイドさんがついてきて、普通に生活できる、いや、かなり豪華な生活もできる。それに俺は姉さんも知っての通り、女性に忌避感はないから、さ。他の人のデメリットがデメリット足りえない。だから俺からしてもぜんぜん変な話じゃない、むしろ受け入れないのが不思議、受け入れるべき、ことなんだよ」


 「そうはいっても……」


 それでも姉さんは納得しない。

 そりゃそうだよな、多分俺が同じ状況だったら、絶対に納得できないから。

 ある意味身売りしたようなもんだから、な。


 「ううん、俺は本当に後悔はしてないから。姉さんを救う、ってことが出来ただけで十分なんだよ」


 これは本心だ。


 「本当にごめんなさい……私の身体が弱かったせいであなたに迷惑を。居住まいを正さなきゃいけないのは私の方よね」


 姉さんが深々と頭を下げる。


 違う。違うんだ。

 俺はそんなことを望んでない。

 俺がみたいのはそんな姿じゃなくて。


 「謝らないでよ。ただ一言、【ありがとう】でいいんだよ」


 それでも姉さんは浮かない顔をする。


 「でも姉さんはそれでも満足しないよね、でも姉さんも同じ立場なら同じことをすると思うなぁ、というか昔されたしね?」


 「……昔?」


 姉さんは本当に記憶にないのか、困惑した様子。


 「そ、昔俺が川遊びかなんかして、溺れかけたことあったでしょ?」


 「ぁ…………そんなことあったかしら?」


 あ、多分これ気付いたけどわからないふりしてるな。

 たしかにこれ姉さんからしたら忘れたい記憶に近いかもな。


 「……あの時姉さんは自分があんまり泳げないくせに、すぐに飛び込んでくれた。本当にあの時それで俺は助けてもらったから。結局はそれと一緒だと俺は思うよ」


 「……一緒に私も溺れているからっていうのがこの話のみそよね」


 恥ずかしい話を思い出させられたとばかりに、恨みがましい眼をする姉さん。


 「まぁ姉さんからしたら嫌な思い出かもだけど、俺としては本当に助かったんだよ」


 前世の記憶もあったのに、溺れてるから俺は俺としても恥ずかしい話だしね。

 あの頃は子供の身体がこんなに小さいし、身体が流されるとは思わかったのよなぁ。

 普通にあほ丸出しだった。

 ま、前世高校生で今くらいの年齢で社会経験が1回もないからしょうがない。


 「だから今回はその恩返し、的な?10年経ってようやく少し返せたかな、って感じよ俺からしたら」


 「……それでも利子を超えすぎだと思うけど?」


 「俺がそう言うんだからいいの!もしそれでも本当にどうしても納得できないなら、そうだなぁ。今度俺が何か困った時に、手伝ってよ?」


 「……ふふ、ふわっとしたことを約束にするのね」


 「まあ出来たら、でいいけどね?」


 「ううん、分かったわ。これからあなたにお願いされたら、どんなことだろうと、力になるわ。私はあなたの絶対的な味方になる。そう誓う」


 なんか姉さんの瞳があんまり光を宿していないような気がするけど気のせいだよなぁ。


 「うーん、そこまで重く考えなくてもいいけど、でも姉さんとは仲違いとか嫌だし」


 「ふふふ」


 うん、ともすんとも言わないのが怖いよなぁ。


 「……それじゃ早速ちょっと相談したいことあるんだけどいいかな?」


 「ん?何かな?1年以上病院暮らしの私でも、話を聞くことくらいは出来るから、いってみて? それで恭弥の心が軽くなればいいし」


 昔から姉さんのアドバイスが役に立たなかったことなんてない。

 それくらい姉さんは秀才だった。

 前世一般モブ高校生の俺からして、ある意味歳下なんだけどすごい勉強になった。

 

 「うん、じゃあ早速」


 「あ、ベッドに座って座って」


 姉さんがちょっとずれて、横をぽんぽんと手でたたいてくれる。

 相変わらず指先がほそく、しなやかできれいだなぁ。



 「じゃあ早速。受け入れた制度で、さ。許嫁がきまったんだけど」


 「……うんうん」


 「3人と」


 「……さ、3人……なのね意外と多いのね最初から」


 「それでこの間お見合いしたんだけど」


 「最近の若者の進展スピード早くない?」


 とかいう姉さんもまだ19歳だけどね?

 

 「仲良くやろうとはしたんだけど、ちょっと相手の人たちが癖があってね」


 「……ちょっと?」


 ……うーん。

 ちょっとは無理あるかも。

 

 「……まぁまぁかも?」


 「怖くなってきた」


 「まぁ話し戻すと、お見合いは大失敗したんだけど?俺目線だとね」


 「それはいいことじゃない!!」

 

 「……姉さん???」


 治療費もかかってるからね?

 成功させないといけないからね?


 「失礼失礼。それで?」


 「うん、俺的には大失敗だけどどうやら日本少子化対策重婚法推進委員会第3課許嫁機関の人はそう思わなかったらしく?」


 「え、な、名前なんて?」


 「日本少子化対策重婚法推進委員会第3課許嫁機関」


 「ながい!!」


 「まぁそれで、同棲することになったんだけど、仲良くない人と一緒に住むのってどうしたらいい?あと女性への距離の詰め方」


 「…………」

 

 あれ?姉さんが止まった。


 「……姉さん?」


 「あ、あぁごめんごめんあまりに冗談きつすぎて、聞こえなかった。もう一回言って?」


 なんかちょっと現実逃避してないか?

 

 「3人のあんま仲良くない許嫁と同棲しなきゃいけないんだけど、女の子と仲良く暮らす方法は?」


 さすがに「興味ない」って言われたことは伏せとこ。

 まだあの3人がどういう人かもわからないしね。

 

 「え、離婚してお互いに暮らすのが幸せになる方法じゃない?」


 「関係継続する方向でお願いします」


 隙あらば離婚させようとしないでくれ。


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