スクロール作成

ムゥナの街の神殿の中庭には女神像が4体ある。


 そのうちの1体は魔法の女神像で、魔法習得やスクロール作成をしてくれる。

 ちなみにスクロールは「テレポートスクロール」「帰還スクロール」「ブランクスクロール」の3種類だ。


 この女神像は人を選ばず誰でも使えるのだが、実はあまり使い勝手が良くない。

 というのも、スクロール作成にあたり魔力を消費するからだ。


 ムゥナの街に住む者達は幼い子供以外は大抵みな生活魔法が使える。

 つまり、皆、生活魔法を使うくらいの魔力は持っているのだ。

 しかしその魔力で作成出来るスクロールはせいぜい4〜5枚がいいところだ。


 もちろん生活魔法を普段から頻繁に使う者は体内魔力量が使わない者よりも多くなっていくのだ。

 それでもスクロール10枚程度だ。

 魔職についている者は当然ながらもっと魔力が多く、スクロールも沢山作成出来る。


 ちなみにこの街で1番魔力が多いのは、俺だ。(ゴルダからそう聞いた)

 ウィザードだからな。

 ステータス画面にMPの量は表示されていないので、具体的には解らないが、ウィズ装備(MP回復付き)だと、エンドレスで無限にスクロールを作成出来る。


 ただ、面倒くさいからやらないが。

 暇な時は女神像へ出向き、スクロールを作ったりした。



 この世界に転移した最初の年はムゥナの街の女神像でスクロールを作成していた。

 しかしアンデッドの氾濫後は王都でスクロールを入手するようになった。


 王都の自分の店ナヒョウエの、隣のゴンザエモンは『スクロール屋』だ。

 ゴンザエモンは異世界転移時にはスクロール屋を閉めていた。

 と言うのも、紙の入手が不可となり、スクロールの作成が出来なくなったからだそうだ。


 そのうち王都の女神像で誰でも自分でスクロールが作れるようになったもんだから、なおさらゴンザエモン(スクロール屋)の必要性を感じなくなったらしい。


 そんな時に閉店していると思っていた隣の店(俺の店)ナヒョウエがオープンした。

 俺は紙を都合する代わりにゴンザレスにスクロールを作ってもらう契約を取り付けた。


 俺は職場ごとこの世界に転移したので、職場の物品室から山ほどのコピー用紙をがめていた。


 A4サイズで500枚がひと包みになったモノが1箱に5つ入っている。

 つまり2500枚入りだ。

 その箱が30箱はあった。もちろん白だけでだ。他にも薄いピンクや黄色、水色、緑などもある。


 まずはひと箱をゴンザレスに渡した。


「2500枚入りだけど、手数料として2割渡す。ゴンちゃんに500枚、残り2000枚をスクロールにしてくれ」


「2割も現物で貰っていいんか?」


「おう、いいぜ。何ならコピー紙を安く卸すぜ。がめてきたから元はタダだしな」


「お、3箱卸せるか?在庫あるなら買うぜ」


「3箱な」


俺は、ホイっとアイテムボックスからコピー紙の箱を出した。


「いくら?」


「貸しにしておく。いつか何かで返してくれ」


「おう、わかった。貸し3な。で、何のスクロールにする?」


「うぅむ、ブランクにしとくか。ブランクが1番使い勝手がいいからな。そうだ、女神像で作れないやつ何がある?」


「女神はテレと帰還とブランクだっけっか?それ以外だと……解呪と解析、復活、変身だな」


「解析?そんなんあったか?」


「ん?ああ、カオるんがやめた後かもしれん、追加で出来た」


「ほぉぉ。じゃぁブランクが3包みで、残り1包みをその4種で頼む」


 そんな感じで俺は何度かゴンザレスにスクロールを頼んでいた。

 だが、その後にムゥナの街近くの死霊の森ダンジョンでボスクリア後にB2に行ける事が発覚した。

 そう、B2にはコンビニのセボンイレボンがあったのだ。


 ゴンちゃんはセボンで紙を仕入れるようになった。

 俺は紙持参でその後もゴンちゃんにスクロールを作成してもらった。


 そんなある日の事……。


「そういえばさ、ムゥナにも女神像はあるんだろ?何でわざわざ王都まで来るんだ?ブランクだったら女神像でチェンジ出来るだろ?」


「そうだけどさぁ、女神像だと面倒くさいじゃないか」


「ん?何がだ?」


「だから、一枚一枚紙をスクロールにチェンジしてもらうのがさ」


「……一枚一枚?」


「ああ。一枚一枚」


「…………一枚ずつ?」


「んあ?一枚ずつ」


「……………………。カオるん?女神像さ、いっぺんにチェンジ出来るぞ?コピー紙ひと包み500枚のやつをそのまま差し出せば、スクロールが500枚くるぞ?」


「え?何言ってんだ。スクロールだぞ?スクロールってのはクルクルと丸められてるやつだぞ?その筒状のが500個も渡されたら持ちきれなくて拾うの大変じゃないか!」


「…………カオるん、俺らアイテムボックスあるじゃん?ステータス画面でアイテムボックス開いて女神像に触れると、ボックス内でチェンジ出来るぞ?」


な、何ですとおおおおおおおおお!

知らんかったわ、それ。


「俺、女神像では一枚ずつ交換してたわ」


「それは……ご苦労さん」


ゴンザレスが可哀想な子供を見るように俺を見つめた。

やめて。

そんな目で見ないで。




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※ちなみにゴンちゃんとカオの受け渡しはゲームの時と同様、お互い向き合って「トレード」と言うとステータス画面にトレードの画面が現れて、お互いのアイテムボックスへと移動出来る。


ゴンザエモン:店の名前

ゴンザレス:店主の名(ゲームのキャラ名)


がめる:勝手にいただく

がめてきた:勝手にもらってきた

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