島係長、リターン
島係長視点 (開拓村を脱走した時の話です)
俺たちはやまとの事務所へ向かい、かなり歩いた所で小休憩をとった。
ここからは草原を突っ切るつもりだ。
背の高い草の中を進む。方向は間違っていないはずだ。
道は無いし地図も無いが方向だけは覚えておいたのだ。
突然背後から大倉の叫び声がした。
獣がいると聞いてはいたが、本当に襲われるとは。
最初の餌食になったのは、俺の少し後ろを歩いていた大倉だった。
俺は大倉の叫びを聞いた瞬間猛スピードで草の中をつっ走った。
戻ったりしない。
助けられないのがわかりきっているのに、戻る程馬鹿ではない。
次々と誰かの叫びがあがるが、足を止めない。とにかく全速力で走り続けた。
息が切れ、足が縺れて地面へとダイビングするように突っ込んだ。
倒れた先は泥水が溜まっている水溜まりで、全身ドロドロになった。
俺はそのままの体勢で息を整える。
誰かの叫び声がかなり遠くに聞こえる。
助けには行かない。
何に襲われているのかも解らない。
獣だとしたら鼻が効くかも知れない。
俺は水溜まりの泥を全身に塗りつけた。
そしてうつ伏せたまま様子を窺う。
悲鳴が聞こえるという事はまだ近いという事だ。
そっと立ち上がり、中腰でここから離れる。とにかく少しでも遠くに。
とにかく歩き続け、日が暮れたので今夜はここで休む事にした。
少しだけ穴を掘りその穴に入り膝を抱えた。
木の枝を自分の上に被せて隠れたつもりだが、獣に嗅ぎつけられないかと一睡も出来ずに朝を迎えた。
水と少量のパンは開拓村を出る時に持ってきた。
パンは泥で汚れていたが構わない。
食べた後直ぐに移動しようと思ったのだが、恐怖と筋肉痛で動けない。
とりあえずもう1日ここで身体を休める事にした。
次の日、何とか動けるようになったので歩き出す。
事務所に行くには襲われた場所の方へ戻らねばならない。
獣たちが腹が満たされて他に行ってくれている事を願い、恐る恐る襲われた地点近くまで戻って来た。
獣に遭遇せずに済んだのは幸運だった。
やはり満腹になって移動してくれたか。
皆はどうしただろう。
逃げられたのか、食べ……られた、のか。
嫌な匂いだ。
腐った肉の匂いなど嗅いだ事はないが、これがそうなのだろうか?
草の陰から、地面に座り込んでいる誰かが見えた。
助かった者がいた。
ペタリと座り俯いていたがそれが同じ6係の春川だと気がついた。
中松は気が強くて煩かったが、春川は気が弱くて言いなりだったので重宝した。
そうだ、彼女を連れて行こう。何かの際に役立つかも知れない。
「春川さん、無事だったん?良かったわぁ。皆んなどうなったか心配だったんよ。大丈夫?立てる?」
春川がゆっくりと顔を上げた。
耳元や首にかなりの血が付いていた。
「え!大丈夫なん? 大怪我やん」
春川は腹のあたりも血だらけで赤黒い何か、紐のような物がそこからぶら下がっていた。
まるで腸の……、え?
春川から距離を取ろうと思った時には抱き付かれて首筋に噛みつかれた。
「い、いだっ!止めろ!離せ、ゴホッ、ゲポッ……」
春川が首から離れない…凄い勢い血が噴き出している……俺の、血、血が止まら…ない
突き飛ばしたいが…力がはいらな…い
や、めろ…おレハ……アソコニ…行く…イカナ…イと。
アソコニ………イク
『島係長 リターンゾンビ』
---------半年後。カオ視点。
今日は山さんやキック達と街の外に来ている。
ギルドの依頼を受けたのだ。
死霊の森付近のアンデッド2体の討伐依頼だ。
アンデッドが死霊の森の外に出るとは珍しい。
「カオくん、いたよ!あそこだ!」
「ゾンビ…ですね。あ、あそこも」
依頼書には男女のゾンビとあったので、これで間違い無いだろう。
「どうする?銀武器で倒す?」
「いや、魔法で。ゾンビならターンアンデッドで100%いけるから」
「ターンアンデッド!ターンアンデッド!」
カッシャーン、カッシャーン
ゾンビの頭上で何かが破壊されたような音が鳴り、ゾンビ達は砂煙となり消えていった。
「カオくんお疲れさま」
「いえいえ、でも今のゾンビ、あ、男の方のゾンビ、何か島係長に似てましたね」
「あははは、そうだねぇ。島くんは元からそんな感じだったからね。目の下にいつも隈つくってたからゾンビっぽかったよね」
「ですねぇ。じゃ、帰りますか。依頼完了って事で」
『島係長、リターンならず』
完
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