魔職以外にはわかるまい

(※アンデッド騒ぎが鎮火して生活がまったりした頃の話)



俺達はある日突然この世界へ転移してきた。

なんだかんだで現在はムゥナという小さい街でやまと屋という弁当屋を仲間達とやっている。

ムゥナから王都へは馬車で十日ほど、死霊の森ダンジョンへは馬車で数時間だ。

だが王都もダンジョンもブックマークをしてあるのでテレポートでひとっ飛びだ。


俺は午前中の弁当屋の仕事を終えると、王都にいる知り合いに連絡をとった。

俺たちはこの世界に転移してきた時にステータス画面という物を(たぶん神さまから)与えられた。

それはフレンド登録さえすれば、メールや念話が可能な機能があるという優れ物だった。


『おーい、ゴンさん今忙しいかぁ?』

『おう!カオるん、お久やな。元気か?』

『元気だ。今そっちに行ってもいいか?ゴンザエモンに飛ぶぞ?』

『今、宿の部屋だけどいいで。俺も店に飛ぶわ』


ゴンさんことゴンザレスは、俺がやってたゲーム(10年前にやめたけど)での顔見知りだった。

ゴンさんもこの世界に転移したひとりだ。

俺はムゥナの街に、ゴンさんは王都近くのサウサルという街に転移した。

その後色々とあり、王都にゲームで持っていた自分の店舗がある事が発覚したのだ。


ゴンさんの店の名前は『ゴンザエモン』でスクロール屋、俺の店は『ナヒョウエ』といい、矢や料理の消耗品屋で隣り合っている。

俺がゴンザエモンの店のすぐ裏へとテレポートした直後にゴンさんもシュルンとやってきた。

シュルンと現れたゴンさんを見て魔法って凄いなと今更ながらに感心するが、深く考えたら負けな気がするので『凄い』で止めておく。


『おう、お待たせ』

『うちの店の中で話そうぜ』


俺はゴンさんをナヒョウエに誘った。

俺の店は現在はバナナの販売(たまに他のフルーツもある)をしている。

矢や料理はムゥナの街のギルド長であるゴルダに相談をしつつ王都のギルドへたまに卸しているだけだ。(材料入手が大変なのだ)

俺は店内倉庫からバナナを出してゴンさんへと渡した。

ゴンさんがバナナの皮を剥いて食べるのを見ながら用件を話す。


「あのさぁ、ゴンさん魔石とかどうしてる?俺はたまにダンジョンで獲ったりしてるんだけど、もっとガツンと獲りに行きたいんだよね」

「カオるん、魔石在庫いくつくらいなんだ?」

「今は…、1万2千弱くらい」


俺はアイテムボックスを開いて確認した。

ゴンさんも確認をしているように空中で指をクリクリしていた。


「俺は、4千切ってる。減ってく一方で不安は不安だよな」


おおう、やはりWIZ同士!

そうなんだよ、WIZにとって魔石は命なんだよ。

魔石が1万以上あると言うと他の職(エルフとかナイト)には大笑いされるんだ。

どんだけ持ってれば気が済むんだ、って。

防御力も攻撃力も並外れて強い他の職にはわかるまい。

カンタマだってメディテだってターンアンデッドだって魔石必須だぞ。


カウンターマジック:魔法攻撃を確実弾く(一回のみ、24時間有効)

メディテーション:魔力回復の速度上昇(動く、話すと効果終了)

ターンアンデッド:アンデッド魔物を浄化(失敗あり)


俺の好きな(よく使う)魔法TOP3は全て魔石必須なんだ。

しかもカンタマなんか毎日かけたい、朝目覚めたらまずカンタマしたい。(狩りに行かなくてもだ)

お金はある。だが、街中、国中の魔石を買い占めたら他の魔職の人の大迷惑になる。

それはわかっているから、俺は自分で魔石を採る。獲る。取る。


「死霊の森ダンジョンの29階はジャイアントスパイダーでドロップが魔石なんだよ、行かね?」

「……ふ。いいな。お互いサモン連れて篭もるか」

「なっ。ふひひひ。取ろうぜ魔石」

「ふははははははははは」



ゴンさんは『ゴンザエモン』店の扉に「◯日〜◯日まで休みます」と貼り紙をした。

実は俺もやまと屋は明日から1週間、夏季有給休暇を申請してある。(店長は俺だが、各方面へ連絡済み)




俺とゴンさんは死霊の森ダンジョンの29階で『魔石7日間キャンプ』を実行したのだ。

もちろんお泊まりは30階のセーフティーゾーンだ。



余談だが、逃げ回る蜘蛛を嬉々として追いかけ回すヒョロイおっさんと中肉中背のおっさんの二人組を見かけた冒険者がいたとかいないとか。



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