ダイヤモンドフロストの思いを胸に今日も君を探す

久々瑠

プロローグ

  俺は人間不信だった。幼馴染や家族などの親しい人間ぐらいしか信用出来なかった。


 一年前の俺には想像できなかったであろう。ゲームで出会った“ルナ”という少女を探す為に、沢山の人を尋ねることを。そして、その為に一年の月日を費やしたことを。


 これは俺が彼女に会う前での記録をまとめたものである。


─────


 別れは突然だった。


「もう、ここには来れないの。君とはさようならだね」


 ルナはそう言った。


「わたしね、一年後に死んでしまうの。だからね、わたしのことを忘れて自分のやりたい事をやって、わたしの分まで生きて……!」


 ルナの周りに光の粒子が飛び交い始める。それがログアウトの前触れだと気付いた俺は声を上げた。


「待って……くれ! 君の本当の名前は!」


 気持ち悪いと思われるかもしれない、けれど、これを逃したらルナの言った通り、彼女のことを忘れてしまう気がした。


「    」


 ルナは口を開いたが、音声となって届く前にログアウトが完了してしまったため聞き取れなかった。





「……というわけなんだが何か知らないか?」


 俺は目の前でポカーンとしている幼馴染たちに声をかけた。


「て、言われてもね……。ルナちゃんはあまりリアルの話は好きではなかったし」


「知ってるわけないよ。知ってたらある意味恐怖でしょ。……せめて名前さえ聞こえてたら違ったかもしれないけど」


 湖白こはくかがみは困ったように顔を見合わせた。


「……一応、実況者仲間にルナちゃんの知り合いがいないか聞いてみるけど……期待はしないで。しき。そもそも、ルナちゃんが望んでなかったら会えないんだから」


 湖白は動画の編集終わってないから、と言って、出て行っていこうとしたが、ドアの前で振り返った。


「辛いのは分かる。でもね相手の本意はわからないんだよ」


 湖白に置いていかれたことに気づいた鏡は俺に一言言うと慌てて彼女の後を追って帰ってしまった。

 湖白も鏡もそこそこ有名な実況者だ。二人が実況者内で情報を掴んできてくれることを祈るしかない。


 “そもそも、ルナちゃんが望んでなかったら会えないんだから”


 “辛いのはわかる。でもね、相手の本意は分からないよ”


 湖白が伝えた言葉が俺に重くのしかかる。湖白は俺を本当に心配して言った言葉なんだろう。


 湖白自身、友達だと思って仲良くしていた子に体育ができないからという理由でハブられ、いじめられていた経験がある。


 人の外面と内面の違い、人の心の移り変わり、そして簡単に壊れてしまう人間の関係、湖白は誰よりも理解している。


 鏡も髪と目が薄茶色で髪を長く伸ばしているという理由でハブられていた。


 少し、人と違うというだけで、大抵の人間は拒絶してしまうということを鏡は理解している。


 それでも、二人がこれ以上何も言わないのは

“ルナ”という人物を知っているからだ。ルナを信じたいと思っているからだ。


 アルビノの湖白、髪を長く伸ばしている鏡、人間嫌いの俺。通じるものがあるからこそ、俺たちは仲良くなれた。“裏切る”ことはなかった。


 ルナにも何か通じるものを感じ取ったんだと俺は思う。だからこそ、“裏切る”というのは無いはずだと信じたい。





 それを確かめたい、苦しい、怖い、様々な感情が混ざり合う。ただ一つ言えるのは、君にまた会いたいということだけ。



 




 

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ダイヤモンドフロストの思いを胸に今日も君を探す 久々瑠 @042804

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