第5話 不思議な出会い
「ほんと、探索極棟というかダンジョンのセキュリティガバガバだよね。この変幻自在の黒炎がチートすぎるのが原因だとは思うけど」
黒炎で作った黒鎧を解除した海は自分のスキルである黒炎の残火を手で触り苦笑。
「…黒炎を纏えばダンジョンに感知されずに潜入できる。それも自分の速さで行動をすれば、万が一も誰かに見つかることもなく楽々と。ただし、自分がホロウだとバレるのはなるたけ避けなくてはいけない、よね」
「バレたらめんどくさい」と肩を窄める。
“ならダンジョンに潜るのをやめろ”という声が聞こえるが暇だから仕方がない。
当然の如くダンジョン内に不法侵入を試みた海は「偽ホロウ」騒動を「つまらない」と切り捨て予定通りダンジョンに来ていた。
「…“ホロウ”のイメージが暗黒騎士だから黒い鎧を黒炎で作って纏ってみたはいいけど…これでは一向にホロウの噂が広まるだけ」
さっき助けた『探索者』の一人にも小声で『ホロウ』と呼ばれてしまった。
顔をださないホロウの正体は“異世界転移者”とか“宇宙人”とか“神様”とか様々な意見が飛び交う。そんな中、ホロウを名乗るならずものも現れる。それはさっきの「偽ホロウ」が良い例だよね。その名声や地位を手に入れようと動くって言うけど、そんなものないでしょ。
噂が噂を呼び寄せ一人歩きをした上に戻ってこなくなり、既に収拾がつかない。
そんな状況を傍観してみて、ため息しか出ない。それが自分のことなら尚更のこと。
挙げ句の果てには、姿を見せないのはシャイだから。それか自分達への試練。
ホロウを探せたら願いを叶えてくれる。男性は地位や名誉。女性は恋人とか(ホロウという存在は男性で確定されている)。
「もし仮に、ホロウが僕だとバレても愛想笑い以外の何もあげられないんだよね」
頭が痛くなってくる。
「…ホロウの姿をするのを僕が止めればいいだけの話。けど、この世界の象徴が残念なことに《探索者:ホロウ》になってるし…」
もういっそのこと違うキャラを演じれば…そういえば、まだ“ホロウ”――黒い鎧を纏った姿を世間に見せていなかった時、確か――
悩みに悩んでいた時、ふと頭にあることが浮かびそれを具現化させる。
海の右手に黒炎が集まり、それは形を模しお面――白い狐のお面になる。
「…そう、そうこれ。“仮面の戦士”がかっこいいからって狐のお面をつけた」
瓶底眼鏡を外し懐かしさから装着する。
ダンジョンができて一年足らずって頃。皆忙しくて、僕は【
「…これ、もしかして使えるのでは?」
そう思った海は手に持つ瓶底眼鏡を黒炎に戻し、その黒炎を自分の身に纏う。
黒炎は形を変え白いロングコート(フード付き)に早替わり。違和感なく海の体を包む。
「いいじゃん。後は――」
海の意思通り腰付近に黒炎が生まれるとそれも形を変え長い形状を作り白い刀となる。
「…素晴らしい。黒の次は白。正統派主人公みたいな見た目だな。ま、それは置いといて《謎の仮面の戦士 ナナシ》。次はこれだね」
三年の月日を経ち、厨二病がぶり返した海は仮面の下でほくそ笑む。
海改め「ナナシ」は早速その姿で散策。その後のことなど何も考えず。
なりきりプレイ開始。
∮
「――はぁ、はぁ」
一人、初心者用の装備に身を包む女性は負傷した右肩を反対の手で支えてにじり寄ってくる
(武器は…武器があってもこの肩じゃ…)
少し離れた通路に転がるナイフを見て。
(私もこれで終わりかな。あぁ、なんとなくわかっていた。でも、これで両親の元に行ける)
「…嘘。本当は、悔しい、悔しいよ。こんなところで死にたくない。諦めたく無い。私は、まだ、誰かに褒めてもらえていない。誰にも必要とされない人生なんて、いやだ」
瞳から涙を流す女性は好奇を探す。
(無いものねだりなのはわかっている。でも、この一度で、一度だけでいいから、スキルを使えたら。私は、運命を、変えたい…っ)
「――お願い、私の声に応えて――【
女性は願い、胸いっぱいに叫ぶ。
「ガアッ!」
リザードマンは持っていた曲刀を女性に突き立て――
「――その声、しかと受け取った」
「え?」
突然の男性の声に女性は戸惑い、声の元――自分の目の先を見ると狐のお面をつけた人物が美しい白刀を持って立っていた。
その姿に一瞬魅了されたのも束の間、リザードマンの姿を確認しようと目を向ける。
「安心しろ、排除した」
いつの間にか刀を仕舞っていた狐面の人物は振り向きながら一言。
「あ、あなたが…?」
「そうだ」
軽く頷く。
「…もしかして、私の『使い魔』ですか?」
「…そうだ(違う)」
一瞬迷ったもの狐面――ナナシはなんか雰囲気的に「違う」と言ったらダメだと判断し、流れに合わせる。
・
・
・
「へー、あなたの名前ナナシって言うんだ」
キラキラとした目を向けてくる女性を見てどう反応を示していいかわからない。
『使い魔』って僕のことだよね。流れで受け入れたけど絶対にこの人の『使い魔』では無いことは確かだね。さて、どうしたものか…。
表面的には冷静。しかし内面はパニック。
「あ、私の名前は
礼儀正しくぺこりとお辞儀をする。
「…どう、呼べばいい?」
「えっと、なんでもいいけど…」
なんか、言いたげな目だね。
「あの、ご主人様とか、一度呼んでもらっていいかな?」
“なんでも”いいのではないのかね…。
「…ご主人様」
「きゃっーー!!!」
ナナシに「ご主人様」呼びをされた依瑠は耳や頬を真っ赤にさせて喜ぶ。
何が嬉しいのかわからない…。
「ごめん。刺激が強すぎるから他で!」
リクエストが多い女性だ。
「…主人、は?」
「じゃあ、それで!」
何が違うのか不明だけどゴーサインが出たから一安心。
「あはは、ごめんね。私も『使い魔』を使役するの初めてだから興奮してて」
「慣れていけばいい(僕も『使い魔』になるのは初めてだからわかる)」
なんとなく二人の気持ちは通じ合う。
誤解をしている…というか誤解をさせてしまった。これは完全に僕に非がある。今なら間に合う…いや、もう、いっそこのまま…。
自分が怒られるのがいやだ――彼女を悲しませる、期待を裏切るそんなことはダメだと自分の本音を棚に上げて聖人ぶる考えを持つ。
それに、《謎の仮面の戦士 ナナシ》になったところで『探索者』の資格を得るわけでもなく、所詮はただの不審者止まり。
この人の『使い魔』『従者』となれば気兼ねなく街を歩けるし
数秒という短い時間で脳を酷使し、悪知恵を働いたナナシはそう結論づける。
「ねぇねぇ! ナナシはどんなことができるの? ちなみに私は雑魚です!…っ、イタタ」
興奮気味に聞いてくる依瑠は自分の負傷を忘れていたらしく、痛みに肩を抑える。
「失礼」
そんな依瑠に近づきそっと肩に触れる。
「え、痛みが、なくなってる…」
自分の肩の痛みが消えたことに驚き、治してくれたナナシを見る。
「どんなこと、だったか。大抵のことはできる。もちろん、戦闘面でも、な」
もう、怪我しているなら初めから言ってよね。多少の…怪我の治療くらいは朝飯前だけど。亡くなっていたら多分無理。
クールを装って話すナナシの本性は不謹慎なことを考える。
「あ、ありがとう」
「気にするな」
お礼を伝える女性に薄く微笑み返す。
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