第4話 にせもの
「三日振りの外の世界は気持ちいいねぇ。これから暑くなると思うと萎えるけど」
暇を持て余す
「超人になったんなら走ればいいのに」
自分のように超人の力を誰しもが手に入れたとは思わない海は何気なしに囁く。
「いや、でも車が車道から消えたらそれはそれでなんか違うか…車の代わりに人が走り回るとかシュールを通り越して、もはや恐怖」
変な想像をしてしまい気分を悪くする。
「ホロウが【歌姫】に面会したらしい。今なら広場で観れるかも」
「それが本当ならビックニュースだな。あぁ、でもこれで【歌姫】様が他の男の手に…」
「何処に悲しんでるんだよ」
軽い足取りで歩道を歩いていると自分の横を走り去るアニメの世界の冒険者、旅人の様な服装をした男性のそんな会話が耳に残る。
「へー、ホロウ(笑)が出たのかすごいな。僕も見てみたい。で、うたひめってなに?」
“ホロウ”という言葉に嘲笑し、ほぼほぼ家から出ない
ま、この先にあの人達が走っていったなら運が良ければ「自称ホロウ」に会えるかも。
少しワクワクしながら足を早める。
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・
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ガヤガヤガヤガヤ
誰か有名人でもくるかのように賑わう広場。
そこには人、人、沢山の人の数。そして目に映るのはコスプレ大会やハロウィンの仮装大会のように異世界チックの服装に身を包む民衆。中には海のように一般の私服を着る人もちらほらといるが、ほとんどが現代風の衣装。
うへぇ。人、いすぎで吐きそう。どうせ最前列にでも行かないと見えないし帰ろうかなぁ。
「――それでは、只今よりホロウの登場です。【歌姫】様は本物だと思いますか?」
「それはそうですが…今まで姿を見せなかったのに今になって姿を現すのは不自然に思います。これ以上の詮索、野暮なことは控えます」
「…確かに。そう言った輩も一定数は居ますからね。ホロウの地位や名声目当て。それか【歌姫】様目当てとか…」
「司会者さん、少し、話しすぎですよ」
「これは、失礼しました」
そんなコントのようなやりとりが行われる。
むむむ? あの女性の声、何処かで聞いた覚えが…いや、気のせいかな。僕と接点のある女性はせいぜい妹か幼馴染くらいだし…。
その線は捨てホロウの登場を待つ。
「では、只今よりホロウの御登場です」
「どうも〜俺がホロウです〜」
司会者の言葉の後直ぐになんだか軽そうな見た目の声が…いや、僕の主観に過ぎないし、本物のホロウかも(アホ)。
「見て、すごいイケメン!」
「物語の王子様みたい!」
「俳優に居そう」
どうやら観客には好感なようでチラホラと好意的な声が聞こえる。遠目から見ると紺のスーツに身を包む三十代くらいのイケメンが居た。
えぇー、ホロウイケメンなのかよ。くたば――コホン、コホン。
余計なことを(内心)口走りそうになりわざとらしく咳き込む。
「?」
そんな海を隣にいたおじさんが怪訝そうに見て来るので愛想笑いで取り繕う。
「では、まずお名前を聞いても?」
「
名前を告げた後に観客に見えるように両手に黒い雷を作り出す。ドヤ顔で。
「すごい!」
「黒い雷、かっこいい!」
「黒い炎に見えなくもないぞ!」
「本物じゃない?」
観客から声が上がる。
「おぉ! これはすごい。【プラズマ】というスキルも強そうですし、これなら【黒炎】と言ってもよろしいのではないでしょうか?」
司会者も興奮をしたように語る。
だめだ。色々と気になるし【プラズマ】とか黒い雷とか厨二心を擽る言葉があるのに「にせもの」という名前が全てを掻っ攫う。
「ヘェ〜、すごいですね」
「でしょ、でしょ! 俺もあの時は急いでいたから直ぐに去ったけどこんな美人なお姉さんなら名前だけでも教えればよかったよ〜」
【歌姫】の好意的な言葉に気をよくした男は馴れ馴れしく話し続ける。
「で、もし俺がホロウだったら――」
「その前に一つ、質問です」
「――ンン、いいけど、なにかな〜?」
自分の発言を止められたことに少し苛つきを見せるが笑顔で取り繕う。
「貴方の【プラズマ】はどんなことができますか? 今見せた黒い雷を出す以外で」
満面の笑みを見せる【歌姫】はその表情とは裏腹に尋問でもするかのように尋ねる。
「え、この雷を操ってアートとか描けるし…」
「戦闘の面では?」
「俺、強いよ〜」
「…それはどの程度? ミノタウロスは、倒せますか?」
「は? そんな化け物倒せる訳――」
「はい、結構です。皆さん、この人は偽物です」
【歌姫】は笑顔を変えることなく死刑申告を告げる。すると【歌姫】――【ホロファン】の隊員達が男を囲む。
「な、なんだよ。俺は【黒炎】を使えるんだぜ? 俺がホロウに決まって…」
隊員達の登場に動揺するが強気に話す。
「ありえませんね。ホロウ様は『超難関』の『ダンジョン』を30分で攻略するお方です。その中にはもちろん、雑魚としてミノタウロスも入っているでしょう。よって、ミノタウロス如き倒せない貴方は、偽物です」
「ハ、ハァ!? そんな情報、何処にも…あ」
由仁の言葉にカッとなった男はつい口を滑らせてしまう。口を押さえたところで言った言葉は取り返しがつかない。
「情報、ですか。さて、これであなたが正真正銘、偽物で狼藉者とわかったことですが、早い話探索極棟にでも突き出しましょうか」
「ま、待ってくれ! 嘘をついて騙そうとしたのは俺も悪かったが、探索極棟は…」
「それはあなたが決めることではありません。私の権限として決めることです。せいぜい自分の犯した過ちを後悔して――」
「え、ホロウ様のパチモンが【歌姫】様に面会してるの? それは笑えない冗談でしょ。だって、さっき私達が助けてもらったんだから」
由仁と男が話しているところにそんな女性の言葉が聞こえてくる。それはやけに鮮明に。
そちらを見ると二人の女性が顔を真っ赤にさせて楽しそうに話しているのが見える。
「ホロウ様、本当に居たん――」
「その話、詳しく聞いても?」
「ひっ!?…って、【歌姫】様?」
二人の目の前に現れる由仁に驚く女性達。
「あなた達は、本当にホロウ様と?」
「え、はい。昨日からこの子と『探索者』になったんですが、調子に乗ってへまして死を覚悟しました。そんな時、黒いモヤ?のような物が私達を包んで魔物達の猛攻を全て防いでくれました。私達もパニックで何が起こったかわからなかったんですが、この子がホロウ様って」
「ふえっ!?」
突然話を振られた女性は目を丸くさせるが、なんとか冷静さを取り戻す。
「話、聞いても?」
「は、はい。秋、あ、その子が言うように私達はホロウ様に助けられました。私も何が起きたかわかりませんでしたが、一瞬だけ黒い鎧の人が私を抱えてくれました。その時、あの、暖かくて、安心して、あぁ、ホロウ様だって。あの、それで、気づいたら沢山いた魔物は居なくなっていて、私達二人だけが残りました」
「……」
「え、えっと、【歌姫】様?」
ホロウに「抱かれた」と口にした女性。その女性は目の前の【歌姫】その人の正気の抜けた顔を見て怯える。
「…ごめんなさい。少し、トリップしていたわ。話してくれてありがとう。ホロウ様は…」
「も、もしかしたら今も私達みたいな人を助けているのかもしれません」
「そう。聞かせてくれて、ありがとね」
「は、はい!」
話し終え、解放された二人は足早にその場を離れる。そんな二人の背中を由仁は見つめる。
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「偽ホロウ」と面会を終えた由仁は車の中に居た。その表情は暗く運転席にいる男性隊員の顔には気まずさから脂汗が浮かぶ。
「許せない許せない許せない。ホロウ様に一番近い女性は私。抱かれるのは私だけ。ホロウ様は他の女に浮気なんてしない。絶対に」
ブツブツと独り言を話す由仁の姿は不気味。
「…由仁様」
「…なんです?」
「宜しかったのですか?」
「…今日はいいです。気分も乗りません。ホロウ様も、今もダンジョンに残っているとは限りませんし、またの機会を待ちます」
「左様ですか」
男性隊員はそれ以上の会話をすることなく車を走らせる。他の隊員達は「偽ホロウ」を探索極棟送りにするため別行動。
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