第44話 適当な面接
※いろいろあって更新止まっていました。
すみません。
ゆっくりと再開していきます。
夏休み突入から3日後。
春也と秋葉は、そろって一軒の店を訪れていた。
定食・居酒屋『東』。
2人が応募したバイト先である。
今日はお店自体は定休日なのだが、この日に面接を受けることになったのだ。
「こんにちは。失礼します」
「失礼します」
そろそろと建物の中に入ると、カウンター席に1人の女性が座っていた。
20代半ばくらいに見える若い女性で、“東”と店名が記されたエプロンを身に着けている。
ここの店員だ。
「おっ、面接の子たち?」
店員は椅子から立ち上がると、ニコニコ笑って手を振りながら近づいてきた。
「どもども。ここの店員の
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
さすがに少し緊張して店に来た春也たちに対して、蓮華はかなりリラックスしている。
その雰囲気に釣られて、2人もやや心が軽くなった。
「じゃあ面接しちゃおっか。そこのテーブル席に座って~」
蓮華に言われるまま、春也たちはテーブル席へ向かう。
そして蓮華と春也&秋葉で向かい合って座った。
2人はカバンの中から履歴書を取り出して、蓮華に差し出す。
それを受け取ってざっと眺めると、蓮華は何度か軽く頷いた。
「ではでは~、面接していきたいと思います。えーっと、何個か質問するから答えてね?」
「はい」
「はい」
春也と秋葉はビシッと姿勢を正して、どんな質問が来るのかと身構える。
一応、一般的なバイト面接の質問は、2人でちゃんと練習してきた。
どうしてここの店を選んだのか~的な質問には、ばっちり答えられる。
ただ蓮華が放ったのは、いきなりバイト面接の本筋をそれまくったものだった。
「2人って付き合ってるの?」
「え?」
「え?」
春也と秋葉はきょとんとして、瞬きを繰り返す。
とはいえ何かしらちゃんと答えなくてはと、春也が口を開いた。
「えっと……付き合ってます」
「そっかそっか~。え~いいなぁ。私も彼氏と同じバ先に応募とかしてみたかったな~。いつから付き合ってるの?」
「6月の末くらいからです」
「えー! めっちゃほやほやじゃん! めっちゃ楽しい時じゃん!」
勝手にテンションをぶち上げる蓮華に、春也と秋葉の目が点になる。
しかし、そんな2人に構うことなく、蓮華は怒涛の勢いで言葉を続けた。
「告白はどっちから!? ……って、今こういうこと聞いたらコンプラ違反? 的なのになるんだっけ。うーん、大学生の男女って聞いてたからもしやカップルと思ってたけど、まさか本当にそうだったとは~!」
「あ、あの……」
「うん? どうしたの春也くん」
「ひょっとして、カップルだったらまずいとかありますか?」
「へ……?」
数秒の間の後、蓮華は笑いながら手を横にひらひら振った。
「ないない! 全然問題なしだよ。正直に言うと、今うちの店って急に人手が少なくなっちゃってさ。だから募集出してすぐに面接に来てくれて、こちらとしては大助かりだよ~。ちゃんと働いてくれそうだし、うん、採用!」
「「ええ……」」
ろくな質問もせずにあっさりと即決した蓮華。
本来は喜ぶべきところなのだが、さすがに春也と秋葉の胸の中を不安がよぎる。
しかし、そんなことは気にも留めず蓮華は店内の時計を見て言った。
「あ、そうそう。今日はもう1人、新しいバイト要員が来るんだった」
「今から面接ですか?」
「ううん、その子はもう採用が決まってるんだよね。っていっても、1週間ちょっとくらいの短期なんだけど」
蓮華が言い終わると同時に、ガラガラガラガラっと勢いよく店のドアが開く。
春也たち3人が一斉にそちらへ視線を向けると、1つの小さな影がばびゅーんと店の中に入ってきた。
そしてプ●キュアとかにありそうな決めポーズを取りつつ、高い声を店内に響き渡らせる。
「やっほー! 蓮華ねえちゃん来たよー! ……ってあれ? お兄ちゃんとお姉ちゃんがいる……???」
「えっ……??? なんで???」
「茉莉ちゃん!!??」
入ってきた少女――東野茉莉と、春也と秋葉は、互いに顔を見合わせて瞬きを繰り返した。
それぞれまさかこんなところで会うとは思っておらず、驚きの表情を浮かべている。
「あー、えっと……」
ひとり取り残されてしまった蓮華は、おそるおそる手を挙げた。
「どゆこと……?」
きょとんとしている蓮華に、春也は茉莉のことを指し示しながら言う。
「えっと……なんというか知り合いなんですよ」
「うん! お兄ちゃんとお姉ちゃんはしりあい! ともだち!」
まだわけがわからず、混乱する蓮華。
そこへさらに、もうひとり見知った顔が入ってきた。
「蓮華ちゃ~ん、久しぶり……って、あらあら、あの時の!」
茉莉の母親である。
母親は春也と秋葉を見ると、目を丸くしつつ笑った。
「えーっと……」
本来であれば、この場の全てを把握しているのは蓮華のはずである。
それなのに、当の蓮華が完全に置いて行かれてしまっているのだ。
その様子を見て、東野母親が端的に説明する。
「実はかくかくしかじかでね……」
大体の事情を聴くと、蓮華は納得してぽんっと手を打った。
それから「すごい偶然だね~」と目を輝かせる。
蓮華側の疑問が解消したところで、今度は秋葉が尋ねた。
「蓮華さん、もしかして短期のバイトの子って、茉莉ちゃんなんですか?」
「そうだよ~。実はこの店、茉莉のお祖父ちゃんと茉莉のお父さんの弟、つまり叔父さんがやってるお店なんだ。ちなみに私は茉莉の従姉ね。夏休みでお店のお手伝いしたいって言うから、簡単なことだけでもやってもらおうかなと思って」
「えっへん! わたしに全部任せちゃって!」
決めポーズを取って堂々と胸を張る茉莉。
そんな従妹の様子を、蓮華は微笑ましげに眺める。
「まさかここで茉莉ちゃんに会うとは思わなかったね」
「だね。偶然にもほどがあるよ。でも会えて嬉しい」
心なしか嬉しそうに、春也と秋葉はこそこそと会話を交わす。
そんな2人のそばに来ると、茉莉はちょいちょいとそれぞれの腕を引っ張った。
そしてしゃがんで目線を合わせてくれた2人の耳元で、いたずらっぽく囁く。
「ぷろぽーず、したの?」
2回目にショッピングモールで会った時、春也と秋葉を赤面硬直させたキラーワード。
しかしあの時から、2人は成長したし進展した。
もう小学校入学前の女の子にボコボコにされる恋愛弱者ではない。
「プロポーズはまだだけど……」
「お姉ちゃんたち、ラブラブなんだよ?」
そう言うと、2人は両側から茉莉のほっぺをむにむにし始めた。
嬉しそうに、「くすぐったいよ」などと言いながら茉莉は笑って身体をよじらせる。
そんな3人の姿を見て、上手くいきそうだなと確信する蓮華だった。
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