第35話 記念撮影

[付き合った!!!???by光]


 花火大会が終わって春也がスマホを開くと、そんなメッセージが飛び込んできた。

 母のスマホを介して、光が送ってきたのだ。


“直球すぎんだろ……。”


 心の中でツッコミながら、春也は返信する。

 光とのラウィンならともかく、これでは母親にも知られてしまうことになるが、まあ仕方ないと割り切ることにした。


[まあな]

[おかげさまで]


 少しぶっきらぼうになってしまうのは、照れくささがあるからしょうがない。

 返信を送るなり、すぐに既読がついた。


[おめでとう!!!!!!]

[写真撮りに行く!!!!!!!!!!!]

[お兄ちゃんの大学の近くの駅に行くから秋葉ちゃんと待ってて!!!!!!!!!]


 何だか当人たちよりテンションの高い光に苦笑しつつ、春也はスマホの画面を秋葉に見せる。

 すると秋葉も、思わず笑顔を浮かべた。


「光ちゃん、すっごい喜んでくれてるね」

「まあ、ありがたいことなんだけどね」


 秋葉がトーク画面をのぞき込むなかで、春也は妹にメッセージを返す。


[もう夜遅いしまた迷子になったら危ないぞ]


[大丈夫!]

[保護者つきで行きます!]


[いやいや]

[母親にカップル成立の写真撮られるとか割と地獄なんで]


[ママじゃないよ?]


[じゃあ誰?]


[花音ちゃん!]


「ぶふっ……!」

「ひあっ……!?」


 春也は盛大に吹き出し、秋葉も変な声を上げる。

 そんな2人のところに、ポーズを取って写る光と花音の写真が送られてきた。

 後ろの時計には現在の時刻が表示されている。

 どうやら、本当に2人は一緒にいるみたいだ。


「なんでお姉ちゃんが……」

「そういえば、うちの母親が花音さんとラウィン交換したって言ってたような……」


 まさしく原因はそれである。

 この花火大会で恋が芽生える予感を感じ取った光は、母親を介して花音に連絡を取ったのだ。

 記念すべき日の2人の姿を、練習し始めたばかりのカメラに収めるべく、そして花音と一緒に祝福しに行くべく、夏川宅で待機していたというわけだ。


[じゃあ駅で待ってる!]

[待ってるよー!by花音]


 春也にしても秋葉にしても、こういう結果を迎えるまでに、両者の姉妹の力添えがなかったとは言えない。

 むしろ大大大活躍である。

 本人たちは完全に楽しんでいただけな気もするが、ここで光と花音の要望を断るほど、春也たちは不義理なカップルではなかった。


「ん? へー、光っちが写真撮ってくれるんだ」


 春也のスマホを覗き込んで、蘭が楽しげな声を上げる。

 その右手は、しっかり竜馬と繋がれていた。

 時としてがさつに思われることもある蘭だが、その心はしっかり乙女である。


「私たちも撮ってもらおうよ。ね? 竜馬?」

「お、おう。そうだな」


 竜馬の方が若干気恥ずかしそうだが、これで光の撮影対象となるカップルが1組増えた。

 4人は祭りの余韻が残る道を歩いて、人混みのなかを駅へと進む。

 そして何とか電車に乗り込み、最初に集合した大学の最寄り駅、光と花音の待つ場所へとやってきた。

 改札を出るとすぐに、ぶんぶんと手を振っている光が目につく。

 そしてその横に、相変わらず派手な格好をした花音が立っていた。


「お帰り~! おめでと~!」

「光~? 声がでかいよ~?」

「お! め! で! とおおおおおお!」


 兄が何と言おうと、光は盛大な祝福をやめない。

 幸いなことに周りも花火帰りの客でにぎわっているため、そこまでうるさすぎることはなかった。

 そして花音はといえば、何を思ったかポケットからクラッカーを取り出すと、春也たちに向けて発射した。

 紙吹雪がキラキラと舞い、春也たちを祝福する。


「もう、お姉ちゃんたら……」

「秋葉ちゃん、おめでとう。春也くん、うちの妹をこれからもよろしくお願いします」

「もーそういうのいいから! ちゃんと紙吹雪の掃除してよ?」

「はーい」


 冷やかされて顔が真っ赤になる秋葉と、嬉しさが溢れ出ている花音。

 竜馬も蘭も、心の底から楽しそうに笑っている。

 そして2カップル+2人の6人は、ライトアップがされた噴水の前へとやってきた。


「ここだったね」


 噴水の前で、秋葉が春也に語りかける。

 春也は1ヶ月ちょっと前のことを思い出して、懐かしい気持ちを抱えながら頷いた。


「びっくりしたよ、秋葉が来た時は」

「私だって、春也がいた時は本当にびっくりしたんだから」


 ずっと相手のことを見ていたのに、接点がなかった春也と秋葉が、初めて互いを意識しながら交わった場所。

 それがこの噴水広場だ。


「はーい! 2人ともこっち向いてー!」


 元気な光の声に、春也と秋葉は振り向く。

 そして美しくライトアップされた噴水を背景に、仲良くピースした。

 もちろん空いている方の手は、ぎゅっと繋いでいる。


「はい、チーズ!」


 光がシャッターを切る。

 取れた写真を確認してから、光は再び兄カップルにカメラを向けた。


「次はハグ!」

「ハグ!?」

「りょうかい!」


 驚く春也に、秋葉は勢いよく抱きついた。

 花音が歓声を上げ、光はシャッターを切りまくる。


「せっかくの思い出、ちゃんと残しておこ?」


 上目づかいで秋葉に言われて、春也が抵抗するはずもない。

 春也はぎゅっと秋葉を抱きしめ返した。


「ひゅー!」


 光の写真を撮る速度が加速する。


“秋葉ちゃんのウェディングドレス姿が撮れるのはいつごろかなー。”


 少し気の早いことを考えて、楽しみになる光であった。

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