第12話 授業も一緒

「それじゃあ、男性2人の女性2人でグループを作ってくれ」


 先生のそんな言葉で、授業中の教室内がにわかに騒がしくなる。

 次回の授業から、4人ずつのグループに分かれて、特定のテーマに関する調査とレポート作成、発表をするらしく、それに向けてのグループ決めだ。

 男性2人に女性2人のグループともなれば、大抵の場合はまず最初に仲の良い同性同士のペアができる。

 春也も自然と竜馬とコンビを組んだ。


「そんでだ、春也さん」

「どうした?」


 竜馬は春也の肩に手を回すと、周りには聞こえない最小限のひそひそ声で言った。


「ここからが大事なポイントなわけよ。どこの女子とコンビを組むか、ここでこれから先の数週間、この授業が楽しくなるかどうかが決まってくる」

「なるほど?」

「まだあまり関わったことがない人と、思い切って組んでみるのもありだよな。新規開拓って感じで。あるいはすでにある程度の関係性が築けてる女子と、より仲良くなれるように頑張ってみるのもいい」

「ある程度の関係性か……」


 自分と秋葉の関係性はどのレベルなんだろうと思案しつつ、春也は竜馬の暑苦しい腕を外しながら言う。


「お前で言うと、木島さんとかだな」

「おいおい。勘弁してくれよ」


 竜馬は心底げんなりした顔で答えた。


「クラスも一緒、部活も一緒。なのに、ロマンスのロの字も感じられない相手だぞ? きっとロマンスの神様も、『この人ではない』って言ってるわ」

「上手いこと言ったわ俺みたいな顔してるところ悪いけど、あれ」


 春也は教室の後ろを指差す。

 そこでは春也と竜馬に向かって、蘭がしきりに手招きしていた。

 その隣には秋葉がいる。

 どうやら秋葉は蘭とペアを組んだようだ。


「りょーまー! 春也っち! 組もうよ!」

「お前がろくでもないこと言うからこういうことになる……」


 竜馬は恨めしそうな目をしながらも、何だかんだで教室の後ろに向かう。

 蘭の隣に秋葉がいることを、ちゃんと見ていたのだ。

 自分はともかく、春也が秋葉と組めるならそれでもいいかと考えたのである。

 口ではあーだこーだ言いつつも意外と頼れる男、それが水元みずもと竜馬りょうまだ。


「よろしくー!」

「あーあ、この授業もお前とかよ。冬月さん、よろしくです」

「ちょい私は!?」

「あーはいはい、よろしくよろしく」


 漫才を繰り広げる竜馬と蘭を、春也たちは微笑ましいなぁと眺める。


「じゃあ私らでグループ決まったこと先生に報告してくるから」

「いや俺も行くのかよ」


 蘭は竜馬を引き連れて、先生のもとにグループメンバーを報告にしに行った。

 もちろん報告など1人でいけば十分なので、竜馬も引っ張っていったのは、春也と秋葉を2人にしてあげようという蘭なりの配慮である。


「春也、よろしく」

「うん、よろしく」


“この授業でも春也と一緒……! 嬉しい……! 蘭ちゃんに感謝しなきゃ……!”

“授業でも秋葉と関われるの、嬉しいな。竜馬も含め2人に感謝しなきゃ。”


 隣り合って教室の壁にもたれかかった2人は、静かに目を合わせて照れ笑いを浮かべた。

 それからまだざわついている教室の中で言葉を交わす。


「昨日、ラウィンできて嬉しかったよ」

「俺も楽しかった」

「またしてもいい?」

「もちろん。俺からもしていい?」

「うん。大歓迎だよ」


 そんな2人の様子を離れて見ていた竜馬は、こそっと蘭に尋ねた。


「お前、春也がちょっと冬月さん気になってるの知ってんだ」


 竜馬だってバカじゃない。

 1人で済む報告をわざわざ2人でしにきたのは、春也と秋葉に2人で喋る時間を作るためだということは、ちゃんと察していた。

 ただ竜馬にとって唯一の想定外は、まさか秋葉も春也のことが気になっているなどと夢にも思わなかったことだ。

 結果として、秋葉を応援する目線で行動していた蘭に、思いもよらぬ新情報を与えることになった。


“えー、春也っちも秋葉っちのことが気になってるんだ。てことはてことは……むふっ……。”


「いやー、恋愛って面白いよね」


 まるで見当違いな返答をした蘭に対し、何言ってんだこいつという表情になる竜馬。

 それでもすぐに鼻で笑うと、どうしても身長差がある蘭のことを見下ろしながら言った。


「お前が恋愛とか言ってるだけで笑うんだが」

「あー!? 私だって恋愛するが!?」

「いやいや、一番縁遠いところにいる人種だろ」

「はいデリカシーない~! そんなんだからモテないんだよ」

「んだと?」

「おっ、やるか?」

「さっきの言葉そのまま返すわ。そんなんだからモテないんだよ」

「本当にやるかぁ!?」

「上等だわ!」


 傍から見たらとんでもない大ゲンカが始まりそうな会話だが、2人にとってはこの憎まれ口のたたき合いが通常運転。

 言いたいことを言い合って不快に思わない関係性が築けているということだ。

 要は仲良しである。


「あの2人、仲良いよね」


 言い合う2人を遠目で眺めながら、春也が呟いた。

 秋葉もこくんと頷いて答える。


「蘭ちゃんも水元くんも、2人でいる時にすごい楽しそうな顔するもんね」

「意外と俺的にはお似合いだと思ってるんだけどな~」

「うん。私もそう思う」


 自分たちのことは棚に上げて、人様の恋愛話に花を咲かせる春也と秋葉だった。

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