教徒

「――き、来た。執行教徒だ」


桃也が振り返る。そこには――黒い布に身を包んだ謎の人たちが立っていた。


体格は様々。175cmはある桃也よりも大きな人物から、子供のように小柄な人物まで。布のせいで性別は分からない。


数は5人。異質な見た目の5人の中から――もっと異質な人物が現れた。


「……」


髪は無い。禿げた男だ。金剛力士像のように険しい顔をしている。その風貌には歴戦の傭兵のようなオーラを感じ取ることができた。


身長は目測で2メートルはある。丸太のような脚。土管のように大きな腕。それを支える胴体は例えるなら猛獣。全体像はヒグマだ。


体格とは不釣り合いな神父の服を着ている。膝下にまで伸びている布は、桃也が使えば布団のようにもすることができそうだった。



「……あなたが羽衣桃也さんですね」

「え……あ、はい」


萎縮した体に問いかけられ、反射的に言葉を返した。


「私は執行教徒の神父ボス遠藤義明えんどうよしあきと申します」


義明は大きな体を折りたたみ、ゆっくりと桃也にお辞儀をする。




「おいおい……お前ら速いってぇ」


また一人出てきた。息を切らしながら、執行教徒の中から出てくる。


真っ白な服に緑の羽織。他の村人よりも小綺麗な格好だ。この男は執行教徒とは違う様子。見た目もごく普通だった。


「はぁはぁ……あ、あんたが新入りだね」

「はい」

「えっと名前は?」

「羽衣――」

「やっぱ待って!当てるから!」



10秒ほど顎に手を当てて考える。――そして男は口を開いた。


「――梨也」

「桃也です」

「あっちゃー。果物が違うかったか」


切らした息が整ってきている。いつの間にか男はニコニコと笑顔になっていた。


「初日から大変だったな。俺は鴨島蓮見かもじまはすみ。この村での村長的な立場だ」

「……村長的?」

「怪我は大丈夫か?手当をしたら、歩きながら話そう」






男は執行教徒と呼ばれる者たちに連れていかれた。どこへ連れていかれたかは教えてはくれなかった。


凛は手を洗った後に家へと送られた。怪我をしたり、怖い目にあったりと散々だったからか、家へ着く頃には疲れ切っていた。


美結に傷の心配をされたが、桃也は少し消毒をして、蓮見と外へと出かけて行った。





「――よく八月村へ来てくれたな。ここは悪い噂が多いのになんで来たんだ?」

「噂はあくまでも噂です。のどかな景色に包まれて暮らしたいなぁ……て」


2人で村を歩く。年齢はどちらも同じか。


「そりゃ嬉しい。昔から悪い噂が多かったからな。外から来る人は少なくて少なくて……」

「そうなんですね」

「桃也も悪い気分になったろ?すまないな」

「いやいや、ここはいいところですよ。プラマイすればゼロです」

「たくましいな」



蓮見は村の概要を話し始めた。


「桃也も覚えておけ。この村は『皆で1つ』を大切にしている。何をするにしても皆で決めるんだ。だから俺が村長ってのも建前みたいなもんだな」

「やっぱり街の方とは違いますね」

「まぁ古いやり方だわな。村の高齢化が激しくてねぇ……年寄りの方が多いから方針を変えることもできないんだよ」


気が抜けるようなため息を吐く。


「……あの、さっきの執行教徒?ってやつ。あれはなんですか?」

「――その質問。来ると思ってたよ」


ニヤリと微笑んだ。ちょっと腹立つ、と心の中では思ったが、口には出さない。


「見ての通り、八月村はかなり山奥にある。交番すらないんだぞ。なにか起きた時に警察を呼ぶにしても、かなりの時間がかかってしまう」

「だから自警団……てきな?」

「そうだな。村でいざこざがあったら執行教徒の出番だ。アイツらをの人間とは思わない方がいいぞ。小さい頃から戦うことだけを教えられてる」


確かに普通の人とは思えなかった。それくらいは桃也も分かる。


「違和感が凄かったです……こんな場所にあんな服装って」

「区別のためだよ。普通の人間じゃないからな」


だがひとつの疑問が桃也の中で生まれていた。

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