~拒絶~
翌日、俊は登校するも、教室の前で立ち止まり、扉に手を駆けられずに立ち尽くしていた。
昨日の件で、もし今日もまた何か自分の席に何かされていたらと、思っただけで足が竦み、動けずにいた。
あとから登校してきたクラスメイトは、立ち止まってる俊を見て、邪魔そうに避けながら教室の中へと入っていく。
そして、敦也と甲斐が登校してくると、教室の前にいる俊を見て、敦也は声を掛けた。
「俊…。何してるんだよ?」
「………」
だが俊からの返事はなく、敦也が困っていると、甲斐が「もう放っとこう」と先に教室へ入って行った。
その言葉に一瞬、俊は反応するも、何も言えずにいると、敦也は戸惑いつつも俊を置いて居室の中へと入っていった。
そのままチャイムが鳴り、担任がやってくると、俊を見て、「早く中に入れ」と声かけ、ようやく俊は教室の中へと足を動かすことが出来た。
しかし…。
教室へ入った直後、皆からの視線が俊に向けられて。
その視線から避けるように俯きながら席に着くと、俊は静かに大きく息を吐いた。
朝のホームルームが終わり、1時限目が始まるまでの間、俊はずっと席に座ったまま俯き、目を閉じて授業開始のチャイムを待った。
チャイムが鳴り。一時限目の担当教師が教室に入り、「授業を始めます」と声を掛けたのに合わせて目を開け、何もされなかったことに対して、心の中で小さくまた息を吐いたのだった。
そのまま時間が過ぎ、1時限目が終わり、2時限目が始まるまでの休憩時間、俊はまた目を閉じて、授業開始のチャイムを待っていた。
だが、その休み時間で、クラスメイトがわいわいと声を上げて笑っていると、次第に俊の呼吸が荒くなり、身体の震えもまた出始めてくる。
俊は必死に我慢し、心の中で「早く…チャイム鳴れ」と願うも、その想いは叶わなかった。
俊の様子を見ていたクラスのジョーカーグループが、また俊をからかい始めたのだった。
「架山く~ん、調子はど~お?」
「あれ、何か震えてない?」
「もしかして、風邪かなぁ?」
「どれどれ、熱は~?」と言いながら、一人が俊の額に手を当てると、俊は怯えて咄嗟にその手を払うが、反動で椅子から落ちてしまう。
「何だよ、その反応…。ふざけんな!」
そう叫ぶと、勢いに任せて手を振り上げるが、直後、俊が肩で荒い息をしているのに気付き、「は?」っと声を漏らして動きを止め、様子を窺うと、俊は目を大きく見開き、身体を抑えるようにして震えていた。
「…何だよ。まだ何もしてねーじゃんか。何怯えてんだよ?」
「………」
その様子に、敦也と甲斐があることに気付いた。
それは、俊は章裕から受けていた行為で、身体への接触に恐怖を抱いていることだった。
咄嗟に敦也が駆け寄り「大丈夫か?」と声を掛けるが、俊は踞ったまま返事がない。
クラスメイト達はどう対応すれば良いのか分からず、ただその光景を見守っていたが、次の瞬間、俊がゆっくりと動き出し、そのまま上着のポケットに手を入れ、何かを取り出すのが見えた。
その手に握られていたのは、カッターだった。
「え…?俊…なにして……っ!?」
敦也が問い掛けると同時に、俊は息を止めながら袖をまくり、そのままカッターの刃を左腕に押し当てた。
「………っ」
敦也は再び自傷行為をする俊を見て、また反射的に動きを止めた。
俊はゆっくり息をしながら、敦也に視線を向ける。
その視線に、思わず敦也はまた後ずさってしまう。
敦也の反応に、俊は暫く無言でそのまま見つめているが、不意に頭の中であの声が響いた。
『友達だと思っていたのに…』
その声に、ようやく状況を理解した俊は、敦也を見つめたまま、静かに涙を流した。
『可哀想に…。辛いだろう?でも、リセットすれば、全て忘れられるよ…』
「………」
俊はゆっくりと自身の両手に視線を移し、右手にあるカッターを見て、その手に力を入れ、またその刃を左腕に押し当てていく。
無言で涙を流しながら、自身を傷付ける俊に、皆は「マジか?」「またかよ…」と言葉を漏らしていた。
そしてチャイムが鳴り、2時限目の担当教師が教室へ来て「席に着け~」と声を掛けると、動かない俊を見て、声を掛けた。
「おい架山、早く席に戻れ。……架山?」
声を掛けても動かない俊に、教師が近づいてその姿を見ると、慌てて右手を抑え「おい、止めろ!」と叫ぶも、俊は涙を流したまま、まだ傷を付けようと腕に刃を向け続けた。
「だれか、戸田先生呼んでこい!…架山、もう止せ!」
なんとか教師が抑ようと俊の腕を掴む手に力を入れるが、それでもなお、俊はカッターを放そうとしない。
しかし、不意に俊の視線がどこかへ向けられた。
その視線の先にいたのは…敦也と甲斐だった。
その視線に気付いた二人は、心配そうに見返すも、甲斐だけはふっと視線を逸らしたのだった。
それを見て、俊の瞳はまた曇っていく。
『拒絶、するんだね…。友達だったのに…』
頭の中の声が、静かに囁いた。
「………」
ふと、急に身体の力が抜けたかのように、俊は硬く握っていたカッターを手からするりと床に落とし、その瞬間を見逃さなかった教師が、急いで床に落ちたカッターを奪った。
そこに結依が駆け付け、状況を確認、俊をすぐに保健室へ連れいていった。
俊は意識がまたぼんやりとした状態になっていて、ベッドに寝かせると、暫くしてそのまま眠りについた。
そんな中、教室内は未だにざわついたままだった。
「架山のやつ、マジで狂ったか?」
「もう、どうでもよくね?」
「なんか白けたな。てか、いい加減何度もあんなの見せられると、気分悪いわ」
皆が口々に愚痴を言い合ってる中、甲斐と敦也は黙り込んだまま、床に付いた俊の血を拭き取っていた。
面と向かっては冷たい態度を取ってはいても、本音は二人とも俊のことを心配していることに変わりはなかった。
それでも、甲斐の心はまだ、あの時の俊の行動を受け入れることが出来ずに、困惑したままだった。
「………」
「………」
お互い無言のまま、床をきれいにし、汚れた雑巾を洗い、用具入れに戻すと、甲斐は何も言わずにそのまま席へと戻っていった。
その姿を、敦也はまた無言で見つめ、そして保健室へ運ばれた俊のことを心配するように、廊下の先を見つめていた。
それから冬休みに入るまで、俊は学園へ登校しても教室に入ることが出来なくなり、保健室で休んでは帰る日々が続いた。
結依は学園に、登校してきてはいるので、保健室にいる間だけでも出席扱いにして欲しいと告げ、その後俊の保健室登校が許可されたのだった。
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