~悪夢のはじまり~

或る日のこと。

取巻きと一緒に章裕の家に連れて行かれた。

そして、そこで行われたのは、章裕の兄が持ってるAVの鑑賞会だった。

嫌らしく喘ぐAV女優と、捲し立てる男優の姿を直視できずに、俊はずっと俯き目を逸らしていた。

しかし…。


「おい架山、ちゃんと見ろよ。それとも何か?生で見た方が興奮して、何も感じないとか?」


下品に笑う章裕と取巻きたち。

と、そこへ章裕の兄・雅崇(まさたか)が割り込んできて。


「皆、楽しんでる~?お、君が架山君か、聞いたとおりに可愛い顔してるね」

「…こんにちは」

「丁度良かった、兄貴。架山ってば、彼女第一で、全然見てくれないんだよ。ちょっとお仕置きしてやってくれない?」

「へぇ~、それはそれは…。じゃあ架山君、ちょっとこっちに来ようか?」


そう言われ、雅崇は持っていた何かをグラスに入れ、それを俊に差し出した。


「とりあえず、これ飲んで。そのあと、ゆっくり話しようか…」


手渡されたのは、一見普通の炭酸ジュース。

その中に、ある薬が混ぜられた事など知る由もなく、俊はそれを口に含んだ。

口に入れた瞬間、シュワシュワした炭酸の味の他に、仄かに苦みを感じて。

でも、言われるがままに、グラスの中を空にさせると、微かに浮遊感を感じた。


「いい子だね、ちゃんということ聞いて。俺、君みたいな子、滅茶苦茶好きだよ」


そう言いながら、雅崇は俊の顔を撫で、まるで女の子を扱うかのように、優しく唇に触れ、いきなり自身の唇を重ねてきた。


「っ!?」


突然の事で反応できず、ただ目を見開き、今自分にキスしてるのは、男の人だという事実を認識して。

反応に困っていると、雅崇は顔を離し、にっこりと微笑んだ。


「可愛い反応だね。そう言うとこも好きだよ」


そう言い、再び唇を重ねると、今度は舌までねじ込んできた。

さすがにちょっとビックリして、引きはがそうとしたが、腕を掴まれ、抵抗できない。

雅崇は、そんな俊の反応を見て、今度はにやりと笑った。


「俺さ、ぶっちゃけると、可愛ければ相手が女だろうが男だろうが、関係ないんだよね…」

「…え?」

「ふふ、わからない?こういうことをするのにさ、可愛い子が興奮するって話だよ!」


そう言うや否や、俊をベッドに押し倒し、押さえつけるようにその上に乗りかかると、抵抗できないように両手首を掴んで、またにっこりと笑った。

しかし、その笑顔の奥に、恐ろしい悪意を感じて。

なんとか逃れようと身体をねじってみたが、なぜか思うように力が入らない。

同時に、なぜか息苦しさと、熱っぽさを感じて。

この時に成って、ようやく、先ほど飲まされた炭酸飲料の中に、何かを入れられた事に気付いた。


「な、に…」

「あれ、もう効いてきた?結構早いね。でも、丁度いいや。おいお前ら、ちゃんと掴んでろ」

「「はい」」


黙って様子を窺っていた取巻きたちが、雅崇の声に応えるように、にやつきながらそれぞれが俊の身体を拘束した。

そして雅崇は徐に、俊のワイシャツに手を伸ばし、胸を露わにさせ、嫌らしくなでつけた。


「架山君って、肌白いね。本当、女の子みたい…」

「離して、ください…」

「だーめ。さっき弟が言ってたでしょう?これはお仕置きだよ。大人しくしてれば、優しくしてあげるから…いい子にしててね」


そう言って、耳元に息を吹きかけ、耳たぶを甘噛みすると、俊の身体に電気が走るような感覚が襲った。


「っ!!」

「あれ?もしかして、ここ弱いの?」

「違…っ!!」

「ほら、口ではそう言っても、身体は正直だよ?」


そう言い俊の股間に手を当てて、嫌らしく擦っていく。


「ほら、此処もう硬くなってきてるよ?」

「………っ」


そしてさらに何度も執拗に耳を舐め、そのたびに身体を震わせる俊の反応を見て、楽しむかのように。

雅崇は、さりげなくズボンのベルトを外していく。

そしてファスナーを下げ、下着ごとズボンを脱がすと、下半身も露わにさせた。

さすがに恥ずかしさもあって、俊は脚を閉じようとするが、雅崇は無理矢理間に割り込み、脚を大きく広げさせた。


「やめて…、離してください!」

「だめ。言っただろ?お仕置きだって…さて、本番は此処からだよ!」

「っ!!」


俊の脚を大きく広げ、持ち上げ、さらに恥ずかしい恰好にされると、取り巻きたちがその恰好のまま固定させる。

そして、雅崇はニヤつきながらスマホのカメラで俊のその恰好を写真に収めていく。


「やめ…もう、許してくださ…い」

「まだだーめ。ってか、今更もう遅いよ。ほら、さっきからずっと撮ってるからね?」

「え…?!」


そう言って雅崇はベッドサイドの方を指差し、俊がそちらへ視線を向けると、先ほどから何もしてなかったと思われた章裕が、スマホで動画を撮っている姿が見えた。

そう、雅崇が行動を起こしてからずっと、スマホで動画を撮り続けていたのだった。


「そん、な…やめてください。お願いです。もうやめてください!」

「ばーか。良いとこなのにやめるかよ。兄貴、もうやっちゃってよ。架山にも、気持ちよくなってもらえば、もう何も言えなくなるって」

「それもそうか。じゃあ架山君、覚悟しようね~」

「嫌だ…やめて…離して…!!」


必死にもがく俊を、取巻きたちがきつく押さえつけて。

雅崇は気味の悪い笑みを浮かべながら、俊の秘部に手をかける。

その手には既にローションが付けられていて、ヌメッとした感触が気持ち悪いくらいに感じて。


「い…や……っ!!」


抵抗しようにも、拘束する力が強すぎて、反抗できない。

そのまま雅崇は、俊の中に指をねじ込むと、徐にかき回し始めた。


「う…」

「どう?気持ちいいでしょ?暫くすれば慣れてくるから。大人しくしてようね~」


そう言って優しい言葉を掛けながら、やってることは最低なもので。


―――気持ち悪い。


そう思っているのに、気持ちとは反対に身体は反応していって。

歯を食いしばりながら、気持ち悪さと、敗北感に、目に涙を溜めて耐えて。

そのあとも、散々に身体を弄ばれて、痛みと絶望感にうちひしがれる俊。

次第に意識が遠のいていき、やがてプツリと、その糸が切れた。


気付いたときには、もう自分の部屋に戻っていた。

その後何をされてたのか、どうやって帰ってきたのかも、何も思い出せない。

ただ、弥月が心配そうに何かを言ってたような気もして。

身体のあちこちが痛くて、飲まされた薬がまだ残ってるのか、頭もクラクラする。


時刻はもう既に午前1時半を廻っていた。


翌朝。

いつも通りに登校した俊は、敦也と甲斐に声を掛けられた。


「おはよう、俊。何か調子悪いのか?」

「…別に、何ともないけど…」

「そうか?でも、顔色ちょっと悪いぞ?」


「熱でもあるのか?」と甲斐が心配して俊の額に手を当てて。

その時、一瞬だけ俊は身体をこわばらせたが、甲斐は気付くことなく、「熱はないな」とそのまま手を離してくれた。

しかし、敦也は気付いたが、敢て何も言わなかった。

王様のことで、何かあったのかもしれない、と、直感的に思ったのだろう。

えれど、どう言えばいいのか分からずに、見て見ぬふりをするしかなかった。

それでも、俊にとっては、ふたりに何も話さなくてすむので、丁度良かった。


(言えない…。ふたりには、昨日のこと…)


不安が過ぎりながらも、心の中で安堵する俊。


いつも通りを装い、ふたりに心配掛けまいと、気丈に振る舞う姿が、敦也にはどこか悲しく思えて。

結局その日は、何事も無く平穏な日を送ることが出来た。

筈だった。


その日の午後、体育の授業前で着替えているときに、決定的な失敗をするまでは。

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