貴族令嬢の女剣士、いつの間にか百合ハーレム作っちゃったっ!?

@yuuki009

第1話 始まり

 ここはとある世界。魔法が存在し、多種多様な人型種族が様々な国家や町、集落と言ったコミュニティを形成し生活している世界。


 そんな世界の一角に存在する国、『レ・グランス王国』。様々な国家が存在する大陸の中央に存在し、各国を繋ぐ交通の要衝として発展した都市を起源に持つ比較的新しい新興国家。


 そんなレ・グランス王国の一角を収める貴族、『クレトリア伯爵家』。この物語の主人公は、そんな伯爵家の次女、『イレーナ・クレトリア』である。



~~~クレトリア伯爵家~~~

 レ・グランス王国に属するクレトリア伯爵家の屋敷。貴族の邸宅として相応しい豪華な作りの屋敷。当然屋敷だけではなく周囲には手入れの行き届いた庭園なども広がっている。


「はっ!やっ!はぁっ!」

 そんな屋敷の裏庭にある一角。開けた平原の上で木剣を振るう人影があった。まだ朝霧も残っている早朝だというのに、その人影は手にした木剣を振り、剣術の鍛錬に勤しんでいた。


 イメージトレーニングのように、木剣を振るい攻撃を避けるように前後左右にステップで素早く動き回る。体からあふれ出す汗が飛び散り、時折太陽光を受けてキラキラと輝きながら散っていく。


 激しい動きからその人影の人物の、剣術の技量の高さを物語っていた。切れのある剣技に慣れた足運び。素人でない事は火を見るより明らかだった。


 が、時間も経ちやがて朝霧も少しずつ消え始めた。

「ハァ、ハァ、ハァッ!」

 人影も流石に動き回っていた事で疲れたのか今は膝に手を当て肩で息をしていた。その人影が何とか呼吸を整えていると、朝日がその人影を照らし出した。


 日の光に照らしだされたのは、燃えるような赤い髪をポニーテールでまとめた、一人の『少女』だった。


「よしっ、今朝はこんなものかな」

 少女、『イレーナ・クレトリア』は上り始めた太陽に気づくと満足げに頷き、木剣を手に屋敷の方へと戻っていくのだった。


~~~数時間後~~~

 クレトリア伯爵家には、家の主でありクレトリア伯爵家の現在の当主である男性、『ハインリヒ・クレトリア』と。その妻である『エレオノーラ・クレトリア』。そして二人の子供である、計4人の息子と娘がいた。


 そして朝。屋敷の一角にある部屋では伯爵家の面々が集まり朝食を取っていた。ハインリヒとエレオノーラ。そして長男である『セオドア・クレトリア』と次男である『マクシミリアン・クレトリア』。長女である『ユーシア・クレトリア』。そして次女であるイレーナだ。

 

 朝の朝食の時間。彼らは他愛もない話をしながら朝食を取っていたが、やがて話題は彼らの『結婚』や『お見合い』に関する物になっていった。


「セオドア、マクシミリアン。最近、どうだい?」

「どうって、何がですか?父上」

 父ハインリヒの言葉に長男セオドアが小首を傾げながら答える。

「決まってるだろう?2人の婚約者の事さ。仕事の合間に会いに行ったりしているだろう?そのことが気になってね。そろそろ、私とエレオノーラに2人の子供の顔を見せておくれよ。エレオノーラも早く孫の顔を見たいと首を長くして待っているんだよ?」

「えぇ。早く2人の子供をこの手で抱いてみたいわぁ」

 夫であるハインリヒの言葉にエレオノーラは笑みを浮かべながら頷いた。それだけ孫を楽しみにしている、という事だ。


「ははは、父上と母上のお気持ちは分かりますが、まだまだ気が早いですよ。俺もマクシミリアンもまだまだ仕事を学んでいる途中なんですから。なぁ?」

 父親であるハインリヒ譲りの金髪が特徴的な兄、セオドアは隣にいた弟のマクシミリアンに話題を振った。

「えぇ。兄さんは父上の跡継ぎとして当主の勉強を。僕も王宮での仕事をしているとはいえ、まだまだ見習いの域を出ていませんからね。まだまだ子を持てるような状況ではありませんよ」

 兄の言葉に頷く、エレオノーラの父譲りの黒髪に眼鏡が特徴的な次男のマクシミリアンはそういって首を小さく横に振った。


「それより、ユーシア姉さんはどうなのですか?お相手の方とは、上手く行っていると聞きましたが?」

「えぇ。上手く入っているのだけど……」

 マクシミリアンが話題を振ったのは、父親譲りの金髪をロングヘアにし、母であるエレオノーラ同様おっとりした雰囲気が特徴的な長女ユーシアだ。しかし彼女は少し困ったような表情を浮かべている。


「彼も今のセオドア達と同じように仕事が忙しいようで。子供はまだ早い、と」

「そうかぁ。皆忙しいのかぁ」

 子供たちの反応に少しがっかりした様子で肩を落とすハインリヒ。が、その時彼はチラリと下座に座りながら食事をしている次女イレーナに視線を向けた。すると、他の4人も彼女の方へ視線を向けた。


「ん?なんですか?」

 すると、今まで結婚やら子供の話題に、『興味なし』、『我関せず』と言わんばかりの表情のまま食事していた彼女が、両親たちの視線に気づいて声を上げた。


「いや、イレーナは僕たち以上に無理でしょう」

「そうだねぇ」

 次男マクシミリアンの辛辣な言葉にしかし父ハインリヒはため息交じりに頷いた。

「ねぇイレーナ」

「はい、何でしょうお母様?」

 男二人の言葉にイレーナは別段気にした様子も無かったが、母に声を掛けられ彼女はそちらに視線を向けた。


「あなた、婚約者を見つける気はないの?あなただってもうそろそろ、愛する人を見つける時じゃないかしら?」

「……お母様」

 母エレオノーラの言葉にイレーナは『またか』と言わんばかりの表情を浮かべている。

「何度も申していますが、私は結婚にそれほど積極的ではありません。家を継ぐのは兄様たちが居ます。それに私は、おじい様のように剣の道に生きるともう決めているのです。仮に私一人が独身を貫いたとしても、何の問題もないはずでは?」

「うぅん。それはそう、なんだけどぉ」

 娘の言葉にエレオノーラは毎度のように困惑させられている。他の兄たちも、『やっぱりかぁ』と言いたげな表情をしている。


 やがて。

「食事も終わりましたし、私は一足先に失礼します。この後も剣の鍛錬を予定していますので」

 イレーナはそう言ってハインリヒらに一礼すると席を立って部屋を後にした。それを見送る5人。


「ねぇあなた。イレーナの事、どうにかならないの?」

 イレーナが退出した後、困り顔のエレオノーラは夫ハインリヒに助けを求めた。母として、結婚に興味のない娘には手を焼いているのが現状だ。

「うぅん。あの子はホント、お義父さまに強く憧れているからなぁ」

 ハインリヒもまた、困り顔で腕を組み唸る。


 イレーナがここまで家族を困らせている理由。それは彼の母方の祖父、つまりエレオノーラの父だった。


 エレオノーラの父はこのレ・グランス王国を守護する軍、『王国騎士団』において『最強の剣術指南役』と呼ばれるほどの強さを誇っている男だったのだ。今でこそ第一線を退いているものの、今なお圧倒的な剣技を持つその男の剣に魅せられたのが、イレーナなのだ。


 だからこそ彼女は結婚などに一切興味を持たず、女でありながら祖父に憧れ剣の道に生きる、と言って憚らない。

「ハァ、どうしたものか」

「あの。お父様。僕から一つ提案があるのですがよろしいですか?」

 悩み顔のままため息をこぼすハインリヒ。すると、何かを考えこんでいた様子のマクシミリアンが声を上げた。

「ん?なんだいマクシミリアン。言ってごらん」

「はい。実は……」


 と、ハインリヒらが話をしている頃。


 屋敷の裏庭ではイレーナが木剣を片手にイメージトレーニングや素振り、更に剣を扱う自らの体を鍛えるための筋トレや持久力をつけるためのランニングを行っていた。


 こういった時のためのラフな格好で走り回り、汗を流しているイレーナ。

『全く。お父様たちにも困ったものだ』

 そんな彼女は頭の片隅で家族の事を考えていた。

『私に結婚相手が見つかる事など無いと、私自身が一番良く分かっている。こんな剣にしか興味のない女、一体どこの物好きが好きになるというのだ』


 彼女は、少し自虐的な考えを浮かべながらも、トレーニングに勤しんでいた。それが彼女の日課だった。日々を剣の鍛錬に費やし、同世代の女子たちがお茶会や恋バナに夢中になったりしている中で、彼女だけは剣に時間を費やしていた。


 なぜなら彼女の夢は祖父に追い付く事。王国最強の剣術指南役と言われた祖父の背中を追いかけ、いつか並び立ちたいと思うその願いこそが、今の彼女の原動力だった。だからこそ日々鍛錬をしていたのだ。 しかしある日。


「イレーナ、少しいいかな?」

「ッ。……何でしょう、お父様」

 いつもの食事時。イレーナも普通に食事をしていたのだが、ハインリヒに声を掛けられた時、彼の重々しい空気と、更にそれを見守る他の4人や傍に控えていたメイドたちの緊張した様子に、彼女は『ただ事ではない』と感じ気を引き締めた。


「ここ最近、何回かイレーナの結婚話について話をしたね?そしてイレーナは今の所男性と結婚する気が無いと見える」

「えぇ。私の今の夢は、おじい様に並び立つほどの剣士となる事。結婚など、眼中にありません。跡継ぎの問題であれば、ユーシア姉さまや兄上たちが居るでしょう。正直、私が結婚をしなければならないという理由があるのか、私自身甚だ疑問です」

「……生涯独身でも良い、と?」

「少なくとも、生涯を共に過ごしたいと思える異性との出会いは今までありませんでした」

「……そうか」

 

 暗に、結婚など興味ないと言わんばかりの言葉にハインリヒは頭を抱えたが、しかしため息をついてから彼女を真っすぐ見据えた。


「イレーナ。私たちは親として、子に何かを強制しようとは思ってはいない。しかし私も妻もこの世を去った後、自分の子供が年老いて一人で寂しく死んでいくかもしれない、なんて思いたくはないんだよ」

「………」

 ハインリヒの言葉に、これまで結婚など興味ない、と言わんばかりだった彼女の表情が僅かに曇る。彼女からしても、両親に心配をかけたままというのは心苦しい物があった。


「そこでね。マクシミリアンたちと話し合ってとある提案をすることにした」

「提案、ですか?それはいったい?」

 予想していなかった単語に首を傾げるイレーナ。


「イレーナは来年で16歳だろう?つまり、『グランス学園』に入学できる歳になる訳だ」

「グランス学園。王都にある王立の学園ですね?」

「そう」


 彼らの言うグランス学園とは、イレーナらの祖国であるレ・グランス王国の王都にある、王立の学園だ。この学園というのは、将来レ・グランス王国の政治に関わるかもしれない者たちを育成するために作られた物だ。

 更に各国との繋がりを持つレ・グランス王国だけあって、この学園には留学という形で外国から同世代の者たちもやってくる。


 言わばグランス学園とは各国の将来を担う若き卵たちを1人前になれるように育てるのと共に、各国の卵たちの交流の場でもあるのだ。


「イレーナも知っていると思うけど、学園には我がレ・グランス王国だけでなく様々な外国からの留学生たちもやってくる。もしそこにイレーナが入ったとしたら?」

「成程。話が読めてきました。各国からの留学生も居る学園なら、私と馬の合う異性が見つかるかもしれない、という事ですね?」

「そう。僕たちはそう考えているんだ。……とはいえ、だ。あの学園に入学したからと言って理想の相手が見つかる保証はない。そこで僕たちから一つ提案だ」

「はい」

 イレーナは、父ハインリヒの真剣な表情に答えるように背筋を正し、彼を真っすぐ見つめながら返事を返した。


「イレーナには来年からグランス学園に通ってもらう。学園は1年生から4年生まであるから、通うのは4年間。もしこの4年間の間にイレーナが良い相手を見つける事が出来れば、僕たちに紹介してほしい。僕たちがOKを出せば、その相手は晴れてイレーナの婚約者になる。しかし逆に、この4年間の間にイレーナが良い相手を見つけられず卒業した場合。僕たちはもうイレーナに結婚の事でとやかく言うのをやめる、という物だ」

 と、そこまで言うとハインリヒは一度息をついた。


「それにイレーナにとっても悪い事ではないはずだよ」

「と、言うと?」

「学園には様々な人間が集まる。中には当然、腕に覚えのある人や名のある騎士の子なんかもやってくるかもしれない。そういう相手と手合わせできれば、イレーナの技量を高めるチャンスにもなるんじゃないかな?」

「ッ。ごもっとも、ですね」


 まだ見ぬ猛者と出会えるかもしれない。という話にイレーナは笑みを浮かべた。

『確かに、私が強くなるためにはもっと色んな相手と戦い経験を積んでいく必要がある。その点で言えば、各国より人が集まるグランス学園はそう言った相手と一番出会いやすい場所ではある、か』

 彼女は静かに考え、そして決断した。


「お父様たちの提案は分かりました。私としてもお父様たちに心配をかけるのは本意ではありませんし、まだ見ぬ強者と手合わせ出来るかもしれないとあっては、おじい様に並ぶ剣士を目指す私としても願ったり叶ったりです」

「おぉっ、ではっ」

 興奮した様子で席を立つハインリヒ。

「はいっ。お父様たちの提案、受け入れようと思います。私は、グランス学園へ行きます」

 

 イレーナは笑みを浮かべながら力強く頷く。こうして、彼女はグランス学園へ入学する事となった。



 しかし彼女には知る由もなかった。自分が同性から好かれる事になる事。百合ハーレムを作る事になる事。


 物語は始まった。しかし彼女はまだ、自分の身に起こる事をまだ何も知らないのだった。 今は、まだ。


     第1話 END


 


 

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