再会

3月末。

新しい年度の始まりを告げるように、桜が薄淡い華を咲かせていた。

そこへひとりの少年が自転車に跨り、颯爽と駆け抜けていく。

彼の名は一之瀬圭(いちのせけい)。

地元の中学に通う14才。

春からは、3年生と成り、受験勉強のため近くの塾からの帰り道だった。


ふと、ある小路を曲がったところで、圭は自転車を止めた。

その視線の先に、今日越してきたのだろうか、引っ越し業者の車と一緒に、一台の自動車が止まっていた。

その車から出てきた二人に、見覚えがあったのだ。


「………もしかして…!?」


そう呟き、圭は急いで二人の下へと自転車を走らせた。

そして、その二人も圭に気付き、驚いたような笑顔を浮かべていた。


「やっぱり!帰ってきたんだな、俊。それに弥月ちゃんも…!」

「圭君?!久しぶり!元気だった?」

「ああ、もしかして、また一緒にいられるのか?」

「うん、皆に会えるの、楽しみにしてたんだ。圭君、元気そうで良かった!」

「ああ、………って、俊は相変わらずな感じだけどな」

「ふふ、言われてるよ?お兄ちゃん」

「………」


嬉しそうに話す彼女の名は架山弥月(かやまみつき)。

その隣に佇んでいるのは、その兄の架山俊(かやましゅん)。

小学生の頃、親の転勤で引っ越していった、幼馴染だった。


懐かしさに二人は話に夢中になってる中、俊は一人ぼんやりと圭を見つめて、そのまま何も言わず家の中へと入って行ってしまう。


「…って、おい、俊。流石に何も言わずに去るのはどうかと思うぞ?」

「………」


一瞬立ち止まるが、やはり何も言わずにそのまま家の中へ入っていく俊に、圭が訝しげに見つめていると、弥月は何故か悲しそうな顔をして、「お兄ちゃん…」と呟いた。


「………多分、疲れてたんだよ。もともとお兄ちゃん、あまり話さないし、ね」


フォローするかのように、弥月の言葉に「そっか…」と返し、未だ引っ越し作業の途中だったことを思い出して、圭は「じゃあまた今度ゆっくり話そう」といい、自宅へと自転車を走らせた。


(あいつ、何か向こうであったのかな…?)


そんな疑問を抱きつつ、圭は二人が帰ってきたことを嬉しくも思い、家に着いてから早く新学期が来ないかと、胸を躍らせていた。


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