第12話 リザードマンの戦士とオークの戦士の共闘

 カンバヤシハルトの攻撃により瓦礫の中に埋もれていたザガドとノヴァクがほぼ同時にビルの中から姿を現した。


 「まだ死んでいないのか、モンスター」


 吐き捨てるように言うカンバヤシハルトの言葉も二体の魔族モンスターには理解できない。しかし、自分達の生存がこの怪物のような強さを持つ人間の顔を歪ませることができたという事実は戦意を高揚させた。


 「気色の悪い姿だな」


 口にはしなかったが、現れたノヴァクの姿にザガドも同じような感想を抱いていた。

 左腕は肘から損壊し目に見えて酷い傷を負っていたが、何より一番目を引いたのは、その右腕だった。

 人間殺しの剣カリブレイドの柄がノヴァクの骨と一つになるようにして右肘から先がカリブレイドと一体化していた。

 

 「おい、それで本当にやれるのか」


 声を掛けたザガドが目にしたノヴァクはぜえはあと荒い呼吸を繰り返し、明らかに何らかの形で体に異常が出ているとしか思えなかった。

 ただ肉体が変質しただけではなく、理性的だったノヴァクの顔つきまで変化し両目を血走らせ半開きになった口元からは唾液を垂れ流し、左右の瞳は定期的にあらぬ方向に動きとても焦点が定められるようには思えなかった。


 「俺がどんな状態なのかは分からないが戦えるはずだ。今のところはな」


 喋り口だけならノヴァクに変化は感じられない。しかし、肉体は明らかに異常な状態だ。それでも、ラアダからの遺言を受け取ったザガドはこの状況を打破する為にノヴァクの持つカリブレイドに縋るしかないことをザガドは歯痒い気持ちだった。

 喉元に刃を突き立てられているような緊張感をザガド達が感じていることなど微塵も想像していていない様子で、カンバヤシハルトはこちらへ向けて前進を始めた。


 「お前の姿は人間に似すぎていた。礼を言おう、モンスターらしい外見になって倒しやすくなったぞ」


 何もない空間を撫でるようにカンバヤシハルトが掬うような仕草をすると、足元からノヴァク達の方向へ連鎖的に爆炎が発生した。


 「俺が、受け止める」


 僅かな時間で生存率を上げるためにザガドを押し出すようにしてノヴァクは爆炎を剣で受けた。

 刹那、炎が剣の刃に弾かれるようにしてその場で霧散した。


 「それが、カリブレイドの力……か?」


 「うがああぁぁ――!」


 攻撃を受け止めたはずのノヴァクが反対に苦悶の表情で悶えていた。


 「お、おい、ノヴァク! どういうことだ」


 「いいから……行け、行ってくれ! この剣を使えば使うほど喰われているのが分かるんだ! 奴の攻撃は全て受け止める……だから、奴を殺すのはザガドの仕事だ!」


 これだけの戦士が戦場でここまで顔を歪ませるということは、よほど酷い激痛なのだろうとザガドは考えた。

 迷いを振り切るようにして、ザガドはサーベルを手にカンバヤシハルトの元に駆け出す。

 無敵だと思っていた自分の攻撃が受け止められるという事態に、硬直していたカンバヤシハルトは迫りくるザガドに反応が遅れた。


 「これで、終わらせるっ」


 俊敏なザガドの動きに遅れながらも気付いたカンバヤシハルトは、すぐさまザガドへ手をかざした。


 「少し頑丈なぐらいで、調子に乗るなよ」


 次の攻撃は爆発ではなく、直接ザガドに触れようとしていた。僅かでも手に触れれば肉体が焼失する危険に気付き、身をよじり回避を試みるが既にそこはカンバヤシハルトの必殺の間隔。


 「うおおおっ――!」


 再度ザガドとカンバヤシハルトの間に割り込むようにして、高速でノヴァクが突っ込んでくる。すぐにザガドからノヴァクに標的を変えると、生物を焼失させる右手はノヴァク――正確にはカリブレイドに触れた。

 直後、魔力とカリブレイドの魔剣としての性質がぶつかり合い、視界を遮るほどの閃光が迸る。


 「ぐっ――! これで、死なないのか」


 言葉は理解できずとも、カンバヤシハルトが余裕を失っていることにザガドは気付いた。この好機を作り出したノヴァク自身は逆に、気づく余裕はなく必死で歯を食いしばっていた。カリブレイドの影響だろう、その間もノヴァクは剣に肉体を奪われていっているようで右肩どころか右足を残した半身が剣に飲み込まれようとしていた。

 早めに決着をつけないとノヴァクが危険なのは火を見るよりも明らかだった。


 「奴の爆発と生物を発火させる力は、俺が防げる! だから――!」


 両目から血の涙を流すノヴァクをそれ以上喋らせる前に、ザガドはノヴァクの脇から飛び出した。


 「甘いんだよ、モンスター! 俺がこんなステージで躓くかよ!」


 視界が潰れているはずなのに、カンバヤシハルトは気配でザガドの位置を把握した。直後、サーベルを構えるザガドの正面で爆発が発生する。

 強い炎に身を焼かれつつ、幸いにも直撃を避けたザガドは地面を転がり着地をする。そして全速力でカンバヤシハルトに再度近づこうとした。


 「何度近づこうと同じことだ」


 カンバヤシハルトも少しずつ追い詰められていることも事実で、ノヴァクと拮抗する右手を離してザガドに応戦をする様子はなかった。だが、ここで近づいても先程同じ結果を繰り返す未来は分かっていた。それでも、全身を剣に喰われながら戦うノヴァクを前にして、ここで退くような選択肢をザガドは考えられなかった。。

 例え全身を焼かれても刃か爪の先でも喉元へ向かえば、殺せるはずだ。そう信じて、地獄への番人のように爆炎を使いこなすカンバヤシハルトをザガドは睨んだ。。


 「――うおおおおっ!」


 ノヴァクの声かと思った。いや、これはザガドのものでもない。そして声のした方向は明らかに別方向――上空だ。

 上を見上げたザガドが目を剥いた。

 何故か空からトルカが剣先を地面に向けたまま落下していた。そして、ザガドも身動きできないまま、戦闘に集中するノヴァクにも気付かぬまま、トルカは――カンバヤシハルトの頭上に剣ごと落下した。

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