第335話 源泉かけ流し岩風呂 🚙
同じ市内に住んでいながら、この地域に足を踏み入れるのは十数年ぶりになるだろうか。平日の朝とはいえ、金曜日なのにまったく泊まり客のすがたが見えない……。社会の様相が変わって閑古鳥が鳴くようになったという話を聞いてはいたが、まさかこれほどの寂れようとは思わなかった。あの老舗旅館もこのホテルもくすんでいる。
仕事時代にはよくここを使わせていただいた。企画説明会、社名を冠した友の会の懇親会、大切な遠来の客の接待など、そのたびに行き届いた接客に感謝したものだった。あのころはまだ芸者置屋さんがあったが、所属する姐さんたちも若くて還暦で、ボディコンのコンパニオンさんたちと相乗りで接待してもらうという感じだった。
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いつも利用する市街地の日帰り温泉が休業日だったので、ふと郊外の温泉に行ってみようかなと思い立ったのは、環境を変えてデトックスの汗を流し劣化しそうな感じのメンタルを活性化させたかったからで……。いえね、大したことではないのです、リベラルを装うor思いこんでいる優勢性に少しアレされたという、いつものアレで。
なにはともあれ検索しておいた日帰り施設に行ってみると、あれ? ネットの写真と全然ちがって、看板に偽りあり~と声をあげたいほど古ぼけています。もっとも無理もありませんよね、むかし、各新聞社の支局長たちが暇つぶしに通っていた(若手記者たちが帰って来る夕方まで用事がないらしく)のは四半世紀前のことですから。
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これまたむかしの銭湯っぽいレトロな靴ロッカーや脱衣所を通過して浴室に行ってみると、うわ、せまっ!! 街中のお風呂の十分の一程度の規模で、辛うじて露天があるのが救いと言えば言えそう。で、恐る恐る入ってみると、わあ、これは本物の温泉だ~。街中の施設とは泉質も異なるようで、さすが千年の歴史を誇るまろやかさで。
小ぶりながら岩風呂もなかなかの野趣でして、ふんだんな源泉が、じゃあじゃあ音を立てていて、その温泉に育てられた皐月が薄紅の花盛り、いやなものを見せられて澱んでいた目の底まで洗われるような樹木や蔦の新緑と相まって、清冽な生命力を惜しみなく見せてくれています。目論見どおり、デトックス効果は抜群でした。(^^♪
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