第312話 VRおじさんの初恋 💻 



 よほど脚本がすぐれているのでしょう、歴代夜ドラで断然トップかも。仕事でも私生活でも影が薄く、人づき合いが苦手、働けなくなったらひそかに旅立つ方法を調べたりしている……そんな中年サラリーマン・ナオキが女子高生のアバターになるVRの仮想空間で美少女・ナホミに出会い、生まれて初めて心のときめきを感じる。


 急に連絡が絶えたナホミを案じ、不正アクセスしたナオキが好きなバイクで住所を探ると、ナホミのリアルはナオキよりかなり年輩の同性で豪邸の持ち主だった。途惑いながら再訪したとき、ふたりの関係を怪しむ孫の中学男子がナホミに成りすましてVRに侵入……こう書いて来て、われながら気恥ずかしくなるような仮想空間物語。


 が、会社のリストラで年下の上司からまっさきに声をかけられるナオキ。やり手の事業家のむすめとの関係性に悩み、わずかな余命を告げた医師に「だれも悲しまないので、延命治療は望みません」と答えるナホミ。きびしいリアルの世界の、あまりにもリアリティに富んだ場面設定のいちいちに、意外なほど心をゆすぶられるのです。



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 社会的地位やお金や家族や恋人があってもなくても、人間はみなさびしさを負って生きるしかない存在であるらしい。少し気持ちが弱っているときなど、見るもの聴くもののことごとくが茨の棘と化し、公私ともに至らなかった過去の自分にいまなお責められつづけているヨウコさんは、傷ついたふたつの魂魄に慰められているのかも。


 何度言ってもらっても患者への気休めの励ましとしか思えなかった精神科医による「そのとき与えられた環境で精いっぱいのことをして来たのですし、いまもしているのですから、もうそのことは放棄して、楽しいことだけ思い、なさってください」の助言を素直に受け留めれば年齢相応の安寧が得られるかも、そんな気がしています。




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