第213話 ウルフムーンの早朝 🌔
がちがちに凍ったフロントガラスを暖機運転でとかして出発したのは午前七時前。国道にも県道にも車は疎ら、フォグライトをつけているものいないもの半々ぐらい。極寒の週末の朝にどこへ行くのか、ベージュの手提げバッグを持った少女がとつぜん飛び出して来て、無造作に結わえた長い髪をなびかせながら一目散に駆け去ります。
数分後、信号停止したのは、たぶんここからの眺めが最高と思われる橋のたもと。折しもいま昇り始めた太陽に染まる三千メートル級の山脈が大迫力でズームアップ。選ばれた雪嶺に敬意を表するかのように、前景の里山はダークな藍に沈んでいます。その粛然たる空にぽっかり浮かぶ白い月。なんて未練なウルフムーンなんでしょう。
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街中の朝カフェの常態と化しつつある混雑に音を上げ、郊外の同系列店を開拓したのは昨年の春ごろだったでしょうか。三倍はある広さや親切な接客が気に入って頻繁に通う暮らしが板に着いて来ました。街のにぎわいに背を向けて西方へ走らせるのも冬場はちょっと……そんな懸念も杞憂となり、すっかり郊外の住人と化しています。
さあて、採光のいい窓際席に落ち着いたら、半トースト&ゆで卵&特性ブレンドのモーニングをいただきながらつぎに執筆予定の先達の資料を読み、気が向けば浅春の俳句も詠んだりして、ゆったりした時間を愉しみましょう。店ごとに文化があるのか週末の客も各々の世界に没入し、無遠慮な会話に邪魔されないのもうれしいのです。
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