第195話 えっとですね~、またそれですか~ 🦛



 金曜日午前十時のカフェは、ほぼ満席の客入りで、朝の内は羽織っていたコートが邪魔になるほどの人いきれでした。その過半が白髪かグレーヘアなのがこの国の現況を示しており、まぎれもなく自分もそのひとりである事実、忙しく働くスタッフさんに申し訳なくて早く席を空けてやりたいのに、またしても来ないのです、年下の人。


 仕事時代を入れれば数十年のつきあい、リタイア後も先方から声がかかって不定期に会い始めて六、七年になりますが、約束の時間までに来たことがなく、少なくとも十数分ときには三十分も待たせられるので今回も期待はしていませんでした。ですがもうひとりの友人は高速道路を一時間も運転して早めに来てくれているのですよね。


 もう来ないのかと思っているところへようやく現われたと思ったら駐車場が混んでいたといつもどおりの弁明(車で数分の場所に在住)。聞き流して話のつづきを再開するという無礼を自分に許したのは堪忍袋の緒がきれかかっていたからですが、そこへ追い打ちをかけたのが、これまたいつもどおりの、強引に割って入っての自慢話。



      🐚



「夫も同窓の有名進学校で卒業生による社会人講座が開かれ、唯一の女性講師として招かれた。ほかの講師は☆通(あ、東京オリンピックで不正を働いたところだよね← ヨウコさんの内心のツッコミ)、◇△興産(歴代トップがセクハラで降板した企業ね←同じく)など有名どころのオエライさんばかりだったけど、互角に講話ができた」


「有名大学の成績がよかったので教授から翻訳の仕事がまわってきて、その道を進むつもりだったが、両親に請われ家業を継ぐために帰郷、それからは県内の業界トップを目指してがんばる姿勢をマスメディアにたびたび取り上げてもらったから後輩諸君もご存知だよね? と訊いたらみんな頷いた」という類の話を句読点なしで延々と。


 先に来ていた友人は初めてだったらしく、目をパチクリさせていましたが、途中で「大学でよく勉強したんですね。おれは本ばかり読んでいたから、この体たらくで」のナイスなツッコミを入れてくれました。思わず噴き出したのを機に「ごめん、今日はちょっと立てこんでいるからお先に失礼するわ」思いきって宣言したヨウコさん。


 こんな無礼を働くのはこれまた初めてですが、なに、どう思われてもかまわない、限りある人生、無駄なことには数分も使いたくないので、静かに途中退席しました。頼まれ仕事が入っていたので、実際、時間がなかったことはたしかですが、これからは余裕の有無に関わらず、心弾まない集いは事前に却下しようとあらためて。(^-^;




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